死の山の魔物達
私が三つ首オロチへ走ると、エミックとコカトリス原種の戦いも始まった。
エミックが強烈な拳をコカトリスの顔面へ叩きこむ。
それを受けてコカトリスは一瞬怯むが、すぐに大きく鳴いて鋭利な両脚でエミックへ襲い掛かった。
――頼むぞエミック!
死の山アルコルの魔物は、どれもが強力な個体。
同時に相手をしていては余力を残す事が出来ない。
だから私も目の前の敵に集中しなければ。
『シャァァァァァ!!』
毒液を三つの首から同時に吐き出す大蛇――三つ首オロチ。
「また来た……!」
私は足元へ風魔法を放ち、大きく跳んで毒液を回避した。
毒液は私がいた場所に直撃し、地面を溶かしながら蒸発して有毒な煙を生んだ。
しかし攻撃を外すとすぐに三つ首オロチも上を向き、私を捉えた。
「グラビウス!」
私はブレードを魔剣グラビウスへと変え、重力を纏った斬撃を真ん中の首へと叩きこんだ。
結果、大きく口を開けていた真ん中の首は縦に両断される。
『シャァァァ!!』
そこから吹き出す出血、そして三つ首オロチの咆哮。
だが流石の生命力だ。口を両断されても三つ首オロチの動きが鈍ることはなかった。
寧ろ怒りで激しく暴れ狂った。
『シャァァァァァ!!』
『シャァァァァァ!!』
真ん中の首が叫ぶ中、左右の首が血走った瞳で空中にいる私へ迫る。
「クッ――風魔法!」
私は小出しで風魔法を放ち、無理矢理に軌道を変えて攻撃を避けていく。
回避した後に聞こえる口を閉じる音は――まるでギロチンだ。
直撃した時点で終わる。血の気も引く思いだが、迷えば死だ。
迷わずに動けと、自身に言い聞かせながら私は道具袋から一つの爆弾を取り出した。
第三スキル『道具合成』で作った特製の爆弾を、大きく口を開けた右の首へと放り込む。
――瞬間、爆発すると同時に右の首に異変が現れる。
『シャ――!!』
口の中で爆発した結果、右の首の口内に餅の様な白い物体に埋め尽くされた。
右首は苦しそうに暴れながら口を開き続けるが、白い物体は餅の様に伸びて剥がれることは無い。
「無駄だ……《《ガム餅の実》》は、そうそう剥がれないさ」
ガムと餅。二つの性質を持つ特殊な実。
それを混ぜた爆弾の効果は抜群だ。
右首は毒液で溶かし始めるが、時間は掛かる。
その間に少しでも首を減らす。
「毒液を吐かせる訳にはいかない――魔剣ガイア!!」
左のブレードを植物の魔剣――ガイアへと変更。
そしてブレードから巨大な蔓を放出し、残った首二つの口を縛った。
そうすると三つ首オロチは更に大暴れするが、これで良い。
私への注意が無くなればそれで。
一気にグラビウスに魔力を込める!
「グラビウス――重獄万力!」
グラビウスを向けると三つ首オロチの真上に、巨大な重力の壁が現れる。
そして重力の壁は、そのまま三つ首オロチを押しつぶす様に降ってきた。
まるで万力の如く。重力の力技が三つ首オロチを襲う。
『――!』
最初に犠牲になったのは右首だった。
右首は押しつぶされ、顔面中から毒液を吹き出しながら絶命した。
更に左首も重力の壁によって圧死しようとしていた中、最後の力なのだろう。
真ん中の首が蔓の呪縛を破り、重力の壁を突破して私へと迫る。
『シャァァァァァ!!!』
「流石は死の山の魔物……だが、すまない。今回は私の勝ちだよ」
既に準備は出来ている。
私はガイアに魔力を込めながら真ん中の首――その頭上を見上げた。
そこには巨大な木の剣が生成されており、私は一礼してそれを放った。
「樹爆剣葬!」
巨大な木刃が真ん中の首を貫いた。
そこへ重力の壁が追い打ちとなり、ようやく三つ首オロチはその動きを止めた。
ただ死体からは毒が漏れ、煙となって周囲に飛来した。
「あぁ、くそ……」
最後っ屁というやつか。
マスクをしていて正解だったな。
「そうだ……エミック!」
私は相棒の無事を確かめようと振り返る。
――すると、そこには。
『~~♪』
コカトリス原種だったものであろう、巨大なローストチキンを焼いているエミックの姿があった。
この野郎。人が毒に苦戦している間に悠々と。
だが怒る気力も沸かない。
今更だ。私の相棒は昔から自由だからな。
私はエミックが食い終わるのを待つと、再び死の山を登り始めるのだった。
もうすぐだ。もうすぐ死兆石のある山頂へと辿り着く。
だがそれは同時に、この山のボス魔物の縄張りに入ること意味していた。




