登れ死の山
死の山アルコル――を登り続け、迫る魔物も倒しながら進んでいた私とエミック。
今は洞窟の中で休憩を取り、クロノ達から渡された昼食を取ろうとしていた。
「やれやれ……わざわざ保存魔法を使ってまで準備することもないだろうに」
王都から数日もある、このアルコルで食べる様にと保存魔法を使ったサンドイッチを見て私は思わず笑った。
弟子達特製だ。道中で食べようとも思ったが、景色が味気ないから、ここまで残してしまったよ。
「まっ……景色に関しては満点だな」
私は大好物のローストビーフのサンドイッチを手に持ち、洞窟から景色を眺めた。
ローストビーフの肉々しさと野菜の食感。そしてソースの味わいがパンと混ざって最高だ。
そして景色――遠くに見える森や山の景色。大自然の姿。
青空、雲、気持ちの良い風。
怪鳥が飛んだり、獣の声、何かの爆発音、そして少しで風向きが変わると臭う血の匂い。
それが無ければ文句はないが、ここは危険度10のダンジョン。
昼食中でも完全に気を抜いちゃいけない場所だ。
「ほらエミック……とっとと食べてしまおう」
『~~♪』
余ったサンドイッチを渡すと、エミックは嬉しそうにかぶり付く。
その間に私は水分補給をし、景色を見ながらエミックが食べ終わるのを待った。
そしてエミックがサンドイッチを平らげ、舌で口の周りを舐めるのを見て、私は立ち上がった。
「行くか、エミック。ここから本番だぞ」
『~~♪』
私の問いにエミックは嬉しそうに跳ね、私の腰に収まった。
だが本当に本番だ。油断もさせてもらえず、肩の力も抜けられない。
さっきも妙な爆発音が遠くから聞こえた。
力量の瞳が発動しなかったから、距離は遠いんだろうが他人事じゃない。
遠距離を得意とする魔物だっている。
警戒しながら私は洞窟を出た。
そして少し強くなった風を感じながら、通路なのか崖なのか分からない道を登って行くと不意に異臭を感じた。
血と獣臭だ。それを感じた私は溜息を吐きながらガントレットブレードを展開した。
「流石は最高難易度のダンジョンだな……魔物の数も強さも凄い」
『コケェェェェ!!!』
『シャァァァァァ!!』
道を遮る様に佇んでいたのは巨大な異形の鶏。そして三つ首の蛇だ。
コカトリス・原種:レベル78
三つ首オロチ:レベル80
決闘狼――デュエルウルフと違い、本能のまま生きる死の山の魔物達。
「全く、どいつもこいつも下手なダンジョンだったらボス魔物クラスだぞ」
そんなのがゴロゴロといるダンジョンだ。
私のレベルも大きく変動していく。
ルイス・ムーリミット:レベル85
「さて……食後には重い相手だが、やるか!」
『――!』
私が気合を入れると、流石に相手が悪いと思ったのかエミックも腰から降り、私の横に立った。
そして宝箱が全部開き、中からエミックの本体が姿を見せた。
コロシアムでも見せた姿――三つ足、竜の様な一つ目の頭部、かぎ爪の様な巨大な両腕。
エミック戦闘形態:レベル86
「エミック……コカトリスは任せた。私は三つ首オロチを相手する」
『――!!!』
『コケェェェェ!!!』
私がそう言うとエミックはコカトリス原種へ威嚇のポーズを取った。
それを受けてコカトリスもエミックへ羽を広げ、大きく鳴いた。
だがそっちを見ている訳にはいかない。
私は目の前の緑色の蛇――三つ首オロチと対峙した。
『シャァァァァァ!!』
「毒息か……」
三つ首オロチが声を出すと、一緒に口から緑色の息が溢れ出る。
私は道具袋からマスクを取り出して付け、身構えた。
そして一瞬の間が生まれた瞬間、三つ首オロチが口から緑色の液体――毒液を吐き出した。
私はそれを見て、一気に走り出す。
ガントレットに仕込んだ毒消し草を確認し、しっかりとあるのを見ながら。
こうして死の山アルコルを登る為、私達と死の山の魔物達との戦いが幕を開けるのだった。




