VSレベル70『デュエルウルフ』
『アオォォォォン!!』
ボスの遠吠えと共に始まった私と、群れの№2の戦い。
周囲をデュエルウルフ達に囲まれながら、共に駆け出すところから始まった。
「行くぞ――『+Level5』だ!」
無意識に発動したスキルにより、私のレベルは奴よりも5多い75となった。
しかし相手は巨体だ。質量差まではレベルでも覆せない。
だが初めて戦う魔物じゃない。いくらでも戦いようはある。
そんな事を考えていると、最初に動いたのは№2だった。
『ガオッ!!』
走った助走を利用し、身体を捻り――牙を剥きだしで回転しながら迫ってきた。
「うおっ!?」
回転しながら迫る巨大な狼。
見る分には面白い動きだ。
だが、地面をえぐりながら突っ込んでくる破壊力を見れば、そう思う事はできなかった。
――避けろ!
私の本能が告げた。反撃ではなく、これは回避しろと。
「風よ! 烈風となれ!――ウィガルス!!」
早口で詠唱し、両足に魔力を込めた。
そして詠唱を終えると同時に地面へ、風魔法を放った。
――瞬間、大きな風圧により私は上空へと浮かんだ。
それからすぐに真下を見ると、私がいた場所を№2がえぐり通ったところだった。
だが回避されたことに奴も気付いたのだろう。
私の回避後から、№2はすぐに態勢を戻し、四足で立つと牙を見せながら私を見上げてきた。
その牙は泥すら付いておらず、欠けることもなく真っ白に輝いていた。
「なんて奴だ……!」
これがレベル70のデュエルウルフ――決闘狼か。
昔に戦った時よりも強い。明らかに戦い慣れた個体だ。
私は風魔法を維持し、空中に浮かびながらガントレットブレードを構えた。
「グラビウス・マーズ……!」
ブレードを魔剣グラビウスに変えると同時に、ブレードが真っ赤に染まる。
炎を圧縮した重力魔法――を纏ったオリハルコン製のブレード。
それを私は空中にいたまま両腕を交差状に振り、炎属性の重力刃を放った。
『グルルルル……ガオッ!!』
だが奴は怯むことはなかった。
炎という獣が本能で恐れる筈の存在に対してなのにだ。
怯まずに寧ろジャンプし、正面から突っ込んで来た。
「なんて奴だ……!」
危険度10ダンジョン――そんな過酷な環境にいるからか。
まるで恐れを知らないかの様に№2は斬撃を真っ正面から受け止め、顔面に交差状の傷が刻まれた。
出血もしている。火傷だってしているのに、瞳や気配から闘争心が薄れた感じはない。
勿論、その勢いもだ。
「マズイ――!」
私は右腕のブレードを魔剣ガイアへと変える。
そしてガイアからロープの様に蔓を出し、奴の背中の体毛へと絡ませた。
――この攻撃を受ける訳にはいかない!
私はそのまま風を蹴り、勢いのまま№2の背中を飛び越えた。
そして地面が近付いた所で蔓を消して着地する。
その間にも奴は空中にいた。
そんな№2へ、私は両腕を掲げて詠唱を始めた。
「焔よ、汝の弱き僕に、灼熱なる螺旋の恩恵を――スパイラル・ボルケーノ!」
放ったのは螺旋の業火だ。
ドクリスすら焼いた魔法を№2へと放った私だったが、№2もそれに気づいて空中で態勢を直した。
そして顔を向け、大きく口を開いた。
『アオォォォォン!!!』
「グッ!! なんて咆哮だ……!」
耳が痛む、全身の骨が震える。
だがそれよりも驚くのは、その咆哮だけでスパイラル・ボルケーノがかき消されたことだ。
ドクリスすら焼く業火を、奴は咆哮だけでかき消した。
その真っ白な体毛を一切汚さずに。
そして奴は着地すると、再び牙を見せながら私へジリジリと迫ってくる。
「余力……いや出し惜しみは駄目か」
ペース配分なんて言ってられない。
目の前――今に対して全力で抗うんだ。
私は黙って、右腕を掲げた。
そしてブレードを魔剣ニブルヘイムへと変え、冷気が溢れ出す。
「ニブルヘイム・アイスガ――」
『ッ! アオォォォォン!!』
№2も気付いた様だ。
私の覚悟と、それに伴う放とうとしている魔力の重みに。
奴は吠えながら突っ込んでくる。
そのタイミングに合わせ、私もブレードを下から上へと振り上げた。
「――ファング!!」
奴が間合いに入った瞬間、ブレードから巨大な獣の頭部を模した氷が現れた。
その氷獣は口を開き、氷の牙を見せる。
そして、そのまま№2を喰らいながら伸びていき、最後は地面へと叩きつけた。
「……やったか?」
叩きつけると同時に氷は砕け、周囲に氷解が散らばった。
その場所で№2は未だに立っていた。
「なんて奴だ……」
思わず口にしてしまったが、身構えると同時に異変は起こった。
『……グゥ』
№2は少し歩くとフラつき、最後は倒れた。
そんな№2を庇う様にボスが現れて間に入ると、ボスは顔を空へと向けた。
『アオォォォォン!!』
決着を告げたのだろう。
ボスが吠えた同時、周囲のデュエルウルフ達が私へ道を開けたのだ。
『~~~♪』
そして荷物を持ったエミックが戻って来て、私が荷物を背負うとエミックは腰に再び収まった。
全く、少しは労ってほしいものだがエミックは相変わらず笑っていた。
これを信用と受け取るか、それか能天気と受け取るか悩ましい。
だが今はそれどころじゃない。
今からが始まりだ。
「それじゃ通らせてもらうよ」
私がそう言うとデュエルウルフのボスは、横目で僅かに私を見た後、気絶する№2を咥えて去って行った。
群れの個体達もそれに続いて去っていき、残された私もエミックと共に再びアルコルの山を登って行くのだった。




