いざ死星山・アルコルへ
「あれだけ言ったのになぁ……」
あれから数日後『永遠の黄金船』が沈み、道具屋からの出禁も解除された私だった。
だが今、私はエミックと共に――馬車で『死星山・アルコル』へと向かっている。
「やる事がないからって甘いよなぁ私も……」
馬車の中で愚痴りながら、私は今日までのことを思いだしていた。
永遠の黄金船との抗争。
その後始末もせずに私が師匠の言いなりになっているのは、やる事がないからだ。
「クシル達の対処、違法物の摘発やら等は騎士団が。他の五大ギルドへの説明や、混乱の落ち着かせはクロノ達が……そして私は危険度10ダンジョンへか」
そう独り言を言う私の手には、大量の依頼書があった。
まるで請求書の様に大量にある依頼書の束。
これら全て『死兆石』の採取依頼書だ。
師匠を始め、世話になった騎士団やクロノ達。
そして話を聞いた他のギルドからだ。
更に言えば裏ギルドの十六夜からのもある。
十六夜の姿は抗争中、見てなかったが、どうやら『永遠の黄金船』の傘下ギルドを抑え込んでくれていた様だ。
この数日中に届いた彼女からの手紙にそう書かれていた。
そうなれば断る訳にもいかない。
彼女には裏方で世話になりっぱなしだし、採らない訳にいかない。
「しかし死兆石かぁ……また厄介なものを」
生息魔物の最低レベル66――この時点でドクリスすら超えている。
そんなダンジョン『死星山・アルコル』
高レベルの魔物と、過酷な魔の山の環境がある危険なダンジョンだ。
並みの冒険者が1000人入れば1000人死んで帰ると言われている。
ベテラン冒険者が100人入れば100人が死んで帰ると言われている。
それぐらいにやばいダンジョンだ。はっきり言って行きたくない。
――その山にしかない希少宝石が『死兆石』だ。
「市場に出回るのは1000年に一度……あるかないかの宝石か」
まるで深淵の様に、見ているだけで呑み込まれそうになる闇に満ち、けれど確かに輝く宝石。
観賞用なのは勿論、魔力を高める作用もある希少な鉱物。
平均的な1カラットだけでも屋敷が建つ程だ。
嘗ては運よく流れた『死兆石』を、一人の大富豪が全財産を使って手に入れた逸話ある程に危険な魅力がある。
そんな危険な魅力があると言われている魔石でもある『死兆石』
並の者が手に入れれば『死兆石』に魅了され、早死にすると言われるぐらいだ。
それ程の宝石の依頼が束で私の下にある。
「全く……本当に早死にしそうだな」
『~~♪』
私の言葉にエミックが可笑しそうに笑っている。
こいつめ、他人事だと思って。
少し文句でも言ってやろうかと思っていると、不意に馬車が止まった。
「お客さん……すいませんが、これ以上は――」
「あぁ……ありがとう。大丈夫、ここまでで良いさ」
馬車の主が私に申し訳なさそうに言った。
どうやら山の入口――が見える場所に到着したようだ。
「流石に危険度10ダンジョンの入口まで行けって言う方が酷さ」
「すいません……ですが、本当に行かれるんですか? ここは死の山――アルコルですよ?」
知ってるさ。本音を言えば行きたくないし、すぐに帰りたい。
けど冒険者は一度依頼を受ければ断れない生き物なんだ。
「依頼されてるからね……大丈夫。三日以内に戻るから、それまで安全な所にいてくれ」
「わ、分かりました……」
困惑しながらも頷く馬車の主へそう言うと、私は手を振りながらアルコルの入口へと向かった。
そして、入口に立った時だった。
『グエエェェェ~!!?』
狂鳥・マウンテンイーター:レベル74
家よりもデカイ鳥――マウンテンイーターが血を吐き、ボロボロになりながら傍に落ちてきた。
「……縄張り争いで負けたか」
レベル70越えの魔物が、こう簡単に死ぬダンジョン。
まさに死の山――『死星山・アルコル』
「……ハァ。帰りたいなぁ」
そうは言いながらも私の足は前へ進んで行く。
これで死んだら、あのクソババァ……絶対に化けて出てやるぞ。
いや化けて出たら、きっと往生際が悪いと消滅させられそうだ。
そんな事を思いながら私は荷物を担ぎながら、アルコルへと入って行くのだった。




