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<16万PV達成>おっさん冒険者+レベル5  作者: 四季山 紅葉
第十五章:対決! 永遠の黄金船(エルドラド)
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決着! 黄金船が沈む時

「……終わったか」


 黄金船は沈んだ。


 永遠の黄金船の本拠地――クシルをおぶりながら、ダンジョン化が解けた場所を降り、周囲を見渡しながら私はそう呟いていた。


 通路に力尽きた様に崩れるゴーレムに、半魔人達。


 まるでダンジョン化が彼等を活性化させていた様にも見えたが、怪我らしい怪我もない半魔人達もいた。


 ダンジョン化が解けたと同時に倒れたのか、それとも半魔人という異常状態故なのか。


 どちらにしろ、苦しみの表情のまま倒れた半魔人達を見て、私は哀れに思えた。


「なんじゃ? 浮かない顔じゃの、もっと喜んでも良いんじゃないかい? あの五大ギルドの一つを潰したんじゃぞ?」


「そうも言ってられませんよ……」


 まだこちらの被害だって分かっていない。

 

 皆、無事なのか。それにクシル自身にまだケジメを付けさせていない。


 きっとミアはクシルをぶん殴りたい筈だし、それに始高天の事もある。


 クシルや半魔人の冒険者達。


 その背後にノア達がいる事を思うと、やはり怒りを忘れる程に哀れさを感じてしまう。


 彼女達も利用されただけだろう。

 それにノアが魔人の力を渡さなければ、こんな事態にもなっていない筈だ。


 だから素直に喜べない。

 きっとノアを止めない限り、何度でも同じことは起こるだろうから。


「相変わらず、難しく考える奴じゃの。あたしらは勝った……そして『永遠の黄金船』は負けた。それだけじゃろ」


「その通りですよ、ルイス殿。どの道、王都でダンジョン化を始め、違法薬物の使用。もう『永遠の黄金船』に嘗ての力は残らないでしょう」


 マリアン師匠は呆れた様に、エリアは真剣な表情でそう言った。


 その通りではある。

 ギルドとして彼女等は敗北し、王と法の下でも彼女等が裁かれる対象となった。


 完全敗北だ。

 ギルドも商売は出来ても、今までの様な影響力はなくなるだろう。


 これで私への不買もなくなる筈だ。

 もう指示していた彼女等は壊滅、そして裁かれるのだから。


「だが、まだ終わった訳じゃない。女の子を撃たせたことはまだ許せないし、ミア達もケジメを付けないと納得しない筈だ」


「……ですが、過剰な報復は止めさせて頂きますよ。クシルを殺させる訳にはいきませんから」


 それも分かってるさ。

 ミアも命までは奪わないだろう。――たぶん。


 女の子は傷ついても生きている。

 それにミアは、あぁ見えて馬鹿じゃない。感情も抑えることが出来る。


「……まっ、多分一発は殴るだろうな」


 私はそう呟くと、エリアは複雑な表情を浮かべ、マリアン師匠はただ笑うだけだった。


♦♦♦♦


「オラァッ!!!」


「グフッ!!?」


 ほらな。やっぱりこうなった。

 全身に包帯を巻かれながらミアは、私達を見つけた途端に黙って歩いて来て、クシルを強引に奪った。


 そして水を掛けて意識を戻した瞬間にこれだ。

 強烈な一発。拳をクシルへと叩きこんで、襟を掴んで持ち上げている。


「答えろ!! なんであの子を襲わせた!! 襲うならあたしで良いだろ!! なのになんで病み上がりだったあの子を撃たせた!!」


 まだ状況も分からない半壊の広場で、ミアの怒号だけが響き渡る。


 しかし予想通りだからか、私は意外と冷静だった。


 ミアが殺さないだろうと、何故か確信があったからだろうか。

 周囲を見渡して、状況を把握しようとする余裕があった。


「ほれ! ここを縛りな! ほれ次!」


 少し離れた場所でチユさんが治療をしている。


 傷ついた冒険者達が周りに寝かされて、騎士団と冒険者関係なく手伝わされていた。


「……ん?」


 そして私と目が合うが、チユさんは頷くだけですぐに治療に戻ってしまう。


 まるで、こっちは大丈夫だからそっちを見ていろ。

 そう言われた様だった。


 それはクロノやグラン達を見ても同じだった。


 二人共、傷ついた姿で半魔人達を縛り上げている。


 それと同時に周囲へ指示を出していたが、私と目が合うと頷いてミア達へ視線を動かすだけだった。


 クロノ達もミアの方を見ていろ、そう言っている様だ。


『グオォォン……』


 また、ベヒーも傷ついた姿だ。

 その巨体でも分かる傷を、魔導士や薬師に治療してもらっている。


 そして私の姿を確認すると、元気そうに鳴いた。


 元の主人であったノアと会っても、あまり気にしていないようだ。


 「まだ大勢いるが……」


 怪我人――敵味方関係なく、大勢まだいる。

 騎士団からの援軍も来て、治療を終えてすぐに連行する者もいる中、私も動くことにした。


 私に今できる事。

 ミアとクシル。彼女達に意識を向けた。


 クシルは苦しそうな顔をしていたが、ミアを見て憎らしそうに口を開いた。


「理由なんて……ないわよ……! ただ……恥をかかせたダンジョンマスターへの《《嫌がらせ》》よ……!」


「そんな事の為にか……!」


 それこそ私に直接すれば良かっただろうに。


 私は気付けば拳を握り締めていて、怒りが沸いた。

 それはクシル達へと、そして私自身にだ。


「……私のせいか」


「ルイスのせいじゃねぇ!! そもそもの騒動だって、コイツ等が仕掛けたことだろ! 人のせいにして、自分の罪から逃げてるだけだ!!」


 ミアは怒号と共に更にクシルを締め上げた。


 少し興奮し過ぎかもしれない。


 ミアがセンセイ呼びではなく、私をルイスと呼ぶときは感情的になっている証拠だ。


 だが理性はあるのだろう。

 睨みながら締め上げるだけで、再び殴ろうとはしていない。


 あとはクシルが何も言わなければ良いんだが。


「そういう問題じゃ……ないわ……! メンツの問題よ……! 五大ギルドが一人の冒険者に屈するなんて……許されないわ……!」


 謝罪の言葉を期待した訳じゃないが、やはり五大ギルド故のどうでも良いメンツか。


 私は呆れながらも、次にミアがやるであろう行動を察して前に出たと同時だった。


 ミアは再び拳を作った。


「っ! この……この野郎!!」


「もう良い……ミア」


 殴ろうとしたミアの拳を掴み、私は彼女の一撃を何とか止めれた。


「けどルイス……! コイツ等……!」


 ミアは許せないのだろう。

 望むならば、あの子の前で謝罪させたいのだろうが、この女がそんな事をする筈がない。


 それは私も――ミア自身も分かっているのだろう。


 彼女の腕の力が緩むのを感じて、私はそう思った。


「それでも……あの子には未来がある。クシル達にはもうない……唯一のものが」


「その通りです。もう『永遠の黄金船』が以前の様にはいられないでしょう」


 私の後ろからエリアが前に出て、同じくミアに腕を降ろさせた。


 そしてクシルの腕に魔封石の手錠を填めた。


「……『永遠の黄金船』ギルド長クシル。王都でのダンジョン化・違法薬物使用・その他の罪により拘束。あなたは王の名の下に裁かれるでしょう。――抵抗することは無いように」


「……ぐっ……ぐぅぅ……!!」


 エリアの言葉に、クシルは表情を歪ませた。

 魔封石がある以上、スキルも使えない。もうどうしようもない。


「幹部も全員拘束……これで『永遠の黄金船』は終わりです」


「……これで終わりなのか」


 ミアはまだ納得した様子ではなかった。


 拳を握り締め、悔しそうにしていたがミアも分かっているのだろう。


 彼女等が裁かれる。そして『永遠の黄金船』は壊滅した事で、彼女等は一生後悔する人生となることに。


「あぁ、終わったんだ」


 そんな弟子の肩に優しく私は手を置いた。

 ミアは震え、少し涙を流していたが、頷いてくれた。

 

「……これで終わりだ」


「よぉし! ならばもう良いの! じゃあ早速だけど、ルイス! お前に依頼をさせてもらうぞ!」


 綺麗に終わると思ったのになぁ。

 ずっと黙っていたことが不気味だったし、更に言えば、何の理由もなく会いにくる事がおかしいんだ。


「空気読んでください……マリアン師匠」


 明らかに場違いな明るい声に、周囲の人達も唖然としている。


 だが、それでもマリアン師匠には効いていないようだ。


「終わったんだから良いじゃろ! ほれ! とっとと依頼を聞け!」


「痛い!?」


 このババァ! 蹴りやがった!

 こっちだって疲労してるし負傷もしているんだぞ!?


「このババァ! 少しは休ませろ!! それに、この場でまだやることだってあるだろうが!!」


「師匠に向かってババァとはなんじゃ!! 目に物をみせてやるかい!!」


 上等だ! ギックリ腰にさせてやるぞこの野郎!

 

 幼少期にダンジョンに放り込み、そして今までこき使ってきた積年の恨みを返してやるわ!


 私達は互いに衣服つかみ合いって叫び続けていると、それを見ていたエリアとミアが私達を引き離した。


「お、落ち着けよセンセイ!?」


「マ、マリアン殿も落ち着いて……!?」


「放せミア! このババァは悪魔だぞ!!」


「放せ小娘! この恩知らずに最上級魔法叩きこんでくれるわ!!」


 やれるもんならやってみろ! 

 こっちだって沢山魔剣手に入れたんだ! ただではやられねぇぞ!


「ハンッ! 年寄りが無駄に若返るから変な口調なった癖に! 偉そうに言うなババァ!」


「あっ! 人が気にしていることを!? 上等じゃ! 表でな!」


「既に表で~す!! そもそも! 何を依頼する気だ!」


 どうせ碌なもんじゃない筈だ。

 危険度10とかのダンジョンの素材だろ、どうせ。


「フッフッフッ! 良くぞ聞いた! 依頼は危険度10ダンジョン――『死星山(しせいざん)・アルコル』にある宝石――『死兆石』じゃ!」


 ほら見ろ! 

 10人入れば10人死んで来るって言われてる最悪ダンジョンじゃねぇか!


 だからこのババァ嫌いなんだ!!

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