冒険者+5:おっさんVS永遠の黄金船(10)
下のフロアから感じていた、強い魔力が消えた。
どうやらクロノの戦いが終わったのだろう。
しかし私は心配していない。
クロノは強い。深く考えすぎてしまう性格だが、それでもだ。
最近の出来事のせいで、彼は少し悩んでいた。
だがそれでも分かる。
勝ったのはクロノだ。
何故なら、彼は私の一番弟子だからだ。
「上のフロアには敵が殆どいませんね!」
「あぁ! 五大ギルドとはいえ『永遠の黄金船』は商人ギルドだ。きっと、最大戦力は既に出しきっているんだろう」
殆ど人の気配がないフロアを共に走るエリアの言葉に、私はそう言った。
無論、疑問もある。
傘下ギルドの者達がいない事だ。
五大ギルドとなれば、傘下ギルドの人数も多い。
この大抗争に参加しない訳がない。
だがもしかしたら十六夜――裏ギルドが動いてくれたのかもしれない。
まぁ、それは願望でしかないんだが。
それでも傘下ギルドが来ない事はありがたい。
このままクシルを抑え、ダンジョン化の源を潰せば全て終わる。
私達は急ぎ、先を付き進んで行く。
道中で暴走したゴーレムはいたが、そこはエリアと連携して素早く対処した。
私がコアを丸裸にし、エリアがそこを仕留める。
そんな動きを暫くしながらゴーレム達を倒していくと、やがて豪華な扉が私達の目の前に現れた。
「ギルド長室……この先にクシルがいる筈だ」
「ならば早く止めましょう! 少しでも早くダンジョン化を止めねば!」
「あぁ! 行くぞ!」
私とエリアは互いに頷くと、一斉に扉を開けた。
すると、そこには確かにクシルがいた。
ベヒーの一撃で滅茶苦茶になっているギルド長室。
バルコニーも半壊して、もはや倒壊寸前だ。
そこから下の戦闘音と声が聞こえてくる。
戦闘もまだ激しいのだろうが、私とエリアはそれよりも目の前のクシルに意識を奪われてしまった。
「あら? 随分と早かったわね……ようこそ、我がダンジョン『無限欲・永遠の黄金船』の最奥へ!」
「クシル……! その姿は……!」
「魔人化か!」
私は驚き、エリアが叫ぶ。
そう、クシルの姿は人の姿ではなかった。
一言で言えば蝶――宝石に覆われた羽を背に生やし、肉体も宝石の鎧を身に纏っていた。
そして、そんな私達の様子を見てクシルはただ笑っていた。
「ウフフフ……どう? これがクリスタル・バタフライと私の力が合わさった魔人化よ」
そう言って彼女は、テーブルに置かれた宝石を手で掬うと、そのまま口の中へと放り込むのだった。




