クロノVS逆光のライ
師匠と副団長を向こうの階段へと投げ飛ばした同時だった。
結界が完成し、中には私と目の前の幹部らしき男のみとなった。
「師匠! ここは私が! 早くクシルを!」
「すまんクロノ! 後は頼んだぞ!!」
師匠も今の状況がまずいと思っているのだろう。
私にそう言うと、副団長も頭を下げながら師匠と共に階段を上がって行った。
「しまっ――! ええぇい! 貴様は……!」
「クロノ・クロスロード……オリハルコン級ギルド『黒の園』のギルド長だ」
「……成程、貴方が噂の。――私は『永遠の黄金船』の幹部・逆光のライと申します。貴方のことは知っていますよ。仲間もまともに守れない、弱き長だと」
「……」
ライという男の言葉に私は何も言えなかった。
私自身も事実だと思っているからだ。
「裏ギルドとの一件、暗殺ギルド、五大ギルド……その全てで貴方は仲間を守れずにいる。情けない男だと、もっぱらの噂です」
「否定はしない。結局、その全ても師匠に助けてもらった……本来ならば、私がしなければならなかったのに」
「分かっているなら話は早い。そんな男が私を邪魔した……その意味が分かりますか!!――第一スキル『光構成』! 第二スキル『光球』!!」
「これは!?」
ライがスキルを発動すると、複数の光球がフロアの周囲に展開した。
彼の手にも光の剣が握られていて、それは発光しながら私に向けられた。
「貴方のスキルは知ってますよ! 闇・影――そう黒だ! 黒を操る能力!! このフロアに影は作らせませんよ! 全方向からの光に溺れなさい!」
「そういうことか……!」
この眩しい部屋でまさかと思っていたが、やはり私のスキルは知られているようだ。
闇・影――全ての『黒』を操る私のスキル。
有名税というべきか、情報が知られ過ぎている様だ。
だがいくら光を浴びようとも、服の色まで変える事は出来ない。
まだ私には黒がある。
「第一スキル『黒の支配――」
「甘いですよ! 第三スキル『光包むこの世界』!!」
私が服や髪を使ってスキルを発動しようとしたが、それよりも先にライが謎のスキルを使った。
だがその効果はすぐに分かった。
何故なら、私の服も髪も、光の様に発光していたからだ。
まるで光そのものになった様に、私の肉体から黒が消えてしまった。
「アハハハハ! 言ったでしょ! 光に溺れなさいと! これが私の第三スキル! 全てを光に変える能力!! これでいよいよ貴方は無防備だ!!」
「凄いスキルだ……私も欲しいくらいだな」
特定のものを黒に変えるスキルがあれば、もっと私も活動範囲が広がる。
闇多き夜ならば私の独壇場だが、昼間やこの様な黒を消されては何も出来ない。
「ここまでされては、私にできることは一つだけだな」
私はそう言って、右腕に付けているブレスレットを取り出し、そのまま構えた。
「おや? 随分と余裕ですね……しかし! この光の空間は私の領域!! さぁ! 光に溺れて死になさい!!」
ライはそう叫びながら、光の剣を持って私へ迫ってきた。
だが私も一つのギルドの長だ。
臆する行動は決してしない。
「行くぞ!!」
私も負けじとブレスレットを構えながらライへと走り出した。
「アハハハハ! その意気や良し!! 楽に死なせあげますよ!!――光構成・光の剣・斬光――」
「第一スキル《《黒の支配者》》――!」
互いが交差し、僅かな間があった。
そして数秒後、ライは血を吹き出しながら倒れた。
「がっ……! ま、えっ? 何故……どこにも……黒は――」
「黒はある。このブレスレットに」
私はそう言ってブレスレットを見せると、ブレスレットからは無限に闇が溢れていた。
それをブレード状にして見せると、ライは目を見開いていた。
「ま、まさか……! な、なんだそのブレスレットは!? 闇が出るアイテムなど、聞いた事は――」
「当然だ。これは師匠が私の自立した時にくれたブレスレットだからな」
――師匠の第三スキル『道具合成』
それで師匠はオリハルコン製のブレスレットと、闇をずっと出すだけの石『暗黒石』を合成してくれた。
それを私への卒業記念としてくれたんだ。
「そ、そんなぁ……! も、申し訳ありません……クシル様ぁ……!」
そう言ってライが気を失った事で、周囲の光は消えた。
同時に力尽きた様に周囲の冒険者も倒れ、結界が崩壊する。
「礼を言うよ……君のお陰で自覚が出来た。やはり私は……弱い」
彼が半魔人・または魔人だったら結果は変わっていただろう。
そう思うと、やはり私は弱い。
鍛えなおしているし、師匠とダンジョンにも行った。
それでも鈍った身体にはまだまだ、ぬるかった様だ。
「鍛えなおさねば……もっと……もっと強く」
引退ばかり口にする師匠だが、きっともっと先に進んで行ってしまうだろう。
気付いた時には手の届かない所にいたら、私はきっと後悔する。
――私は、もっと師匠と冒険したいんだ。
私は心の中で呟きながら、目の前で倒れているライへ応急処置をするのだった。




