冒険者+5:おっさんVS永遠の黄金船(8)
「行くぞエミック! ベヒー!」
私が飛び出すとエミックとベヒーも共に飛び出し、ベヒーに至っては建物を粉砕した。
「クゥッ!! おのれぇ……なにをやっているの半魔人達!! 早くルイスを排除しなさい!!」
破片が飛んだのかクシルが怒りの声をあげている。
だが怒りを抱くのはお互い様だ。
私だってミアを痛めつけられて怒りを抱いている。
「お前等! やっちまえ!!」
「ハッハー! ダンジョンマスターつっても、所詮はおっさんだ!」
叫びながら私の目の前に飛び出してきた一人の半魔人。
右腕がカマキリの様な鎌で、背中にもカマキリ特有の羽がある半魔人だ。
だが、その形状に私にも見覚えがあった。
「ハンターマンティス……なら――」
私は道具袋から、一種のけむり玉を取り出した。
そして、それを目の前の半魔人へ投げつけると、煙玉は大きく破裂し、煙を周囲へ飛散する。
「ゲホッ! なっ、なんだこの煙……! く、苦しぃ……!!」
「ど、どうなってる……! い、息が!!」
「ぐあぁぁぁぁ!! 誰かぁ……!」
すると、目の前にいた半魔人を始め、昆虫型の半魔人達が一斉に苦しみだした。
「やはりそうか……種が分かれば簡単だな」
私は今までの魔人戦、そして目の前の現状を見て、自身の考えが確信へと変わった。
魔人化――それは強力な力という名の魔物の力を得ることだ。
しかし、それは同時にリスクもある。
私が投げたのは、昆虫型魔物に良く効く殺虫型の煙玉だ。
そう、魔人化の弱点。それは元となった魔物の弱点も受け継ぐということ。
そうと分かったら対処は簡単だ。
半魔人としてではなく、魔物として見れば彼等は脅威ではない。
「弱点が分かった! エミック! もう少し前線を押し上げろ! ベヒーはその場で待機して零れた敵を対処だ!」
『~~!』
『グオォォン!』
私の言葉を聞いて戦闘形態のエミックは、目の前の半魔人達へ闇の腕を振るい、おもいっきしぶっ飛ばしてくれた。
ベヒーも横を抜けてミアやアレン君達を狙う半魔人達へ、前脚や尻尾を振るってぶっ飛ばしていく。
そして私も目の前の海鮮の半魔人達へ、特殊なレモンを取り出すと、全力で握って果汁を飛ばした。
「なっ、なんだ!? 身体が痺れて……しかも痛ぇ!!」
「誰か! 洗い流してくれ!! 身体が……!?」
「どうだい……<ライトニングレモン>の果汁は? 相変わらず、呆れるほど海鮮魔物に効果があるね」
対処を誤ると私ですら危険な果実――<ライトニングレモン>
漁師が魔物除けとして使う事で有名な危険な果実。
素手で掴んで、一滴でも果汁を浴びれば、落雷に撃たれた様な衝撃を受ける果実だ。
それを浴びた海鮮魔物の半魔人達は一斉に転がっていき、それを見て他の半魔人達も怯み始めた。
「なっ! なんだこれ!? 半魔人の俺等がなんでたった一人に!」
「魔物について詳しすぎる! これがダンジョンマスターなのか……!?」
「怯むな!! 数で押せば行ける!! ミミックは無視してダンジョンマスターを一点で狙え!!」
冷静な奴がまだいるものだ。
怯んでいる者達に檄を飛ばし、数名の半魔人が私へ目掛けて飛び出してきた。
しかしやることは同じだ。
私は道具袋から、相手の魔物の弱点となる道具を取り出そうした時だった。
突如、私の側面から飛び出してくる者達がいた。
「月閃光!!」
「大螺旋!!」
綺麗な一閃の剣技に、豪快な回転斬り。
それを放ったのは騎士団の紋章を背負う二人――
「エリア! グラン!」
「遅くなり申し訳ありません、ルイス殿!」
「すまんな! 強制調査状の発行が手間取った!」
そう言って半魔人を切り伏せたのエリアとグランだった。
しかもそれだけじゃない。背後が騒がしくなっていた。
「師匠!」
「遅くなりました!」
振り返ると、そこにいたのはクロノと小太郎だった。
そして彼等のギルドメンバーや騎士団員達もおり、私は思わずホッとしてしまった。
「あぁ……良かった。よく来てくれた」
「遅くなり申し訳ありません」
クロノは謝ってくれるが、そんなことは気にしていない。
これで数の差は縮まったし、半魔人を制圧すれば、この戦いは終わる。
私はグランとエリアを見ると、二人も私の視線を見て頷いてくれた。
きっと察してくれたのだろう。
エリアは強制調査状を広げると、クシル達に聞こえる様に読み上げた。
「聞け!! 王は、五大ギルド『永遠の黄金船』に違法薬物などに対する調査状を出された! ギルド長・クシル・オールドラッシュ! 抵抗を止め! 直ちに武装解除せよ! しなければ強制的に排除する!!」
エリアが読み上げると同時、騎士達や冒険者達も武器を構えていた。
私もいつでも動けるように身構え、半壊したバルコニーにいるクシルを見上げた。
すると、彼女は怯むどころか笑っていた。
「アハハハハ!! 無能な騎士団に何が出来るのかしら!――これ、何か分かるかしら?」
そう言ってクシルが見せてきたのは、宝石の様に輝く石だった。
しかし、その邪悪な輝きに私はどこか見覚えがあった。
「あれは……まさかグアラが使ったダンジョン化の!」
「その通り! ダンジョン化の秘石よ!――さぁ! 見なさい! これがダンジョン化の力よ!!」
「やめろ!!」
私は叫んだが無駄だった。
クシルはダンジョン化の秘石を砕くと、周囲に汚れたマナが溢れ出した。
そして『永遠の黄金船』の本拠地が変異し始めた。
禍々しい植物の蔓が建物を包み込み、柱や壁に宝石の様な石が生えてきた。
「ルイス殿!? これは……!」
「ダンジョン化してしまった……! グラン! 皆を下げるぞ!」
「あぁ! その方が良さそうだ!――全隊! 下がれ!!」
「私達もだ! ギルド員全体下がれ!!」
変異して瓦礫が降ってくる中、私達は一旦下がった。
私もエミックとベヒーを下がらせ、建物の様子を見る。
『永遠の黄金船』の本拠地。
邪悪な植物や、禍々しい宝石を生やし、最後は建物全体が黄金の様に輝き始めた。
「これは……!」
「まるで黄金の建物だ……!」
小太郎とクロノの言葉に、この場にいる誰もが頷いた。
変異が終わる頃には建物全体が黄金に変わり、宝石が所々から生えた異様な建物となってしまった。
そして、そのバルコニーではクシルが笑っていた。
「アハハハハ!! どう! これが我が『永遠の黄金船』のダンジョン――『無限欲・永遠の黄金船』よ!!」
「無限欲……永遠の黄金船……!」
その言葉に私も、誰もが言葉を失ってしまった。
グアラの時とは違うダンジョン。
その名の通り、無限欲を満たす為だけの場所。
「それだけじゃないわよ! これがダンジョン化の力よ!!」
クシルはそう言って指を鳴らすと、檻に入った動物達を半魔人達が運んできた。
すると、汚れたマナによって動物達が変異し、魔物化を始めた。
そして最後には自ら檻を壊し、私達へ牙を向けた。
しかもそれだけじゃない。半魔人達の様子も変わっていた。
「うおぉぉ!! 力が……力が溢れる!!」
「これがダンジョン化の――半魔人の力か!!」
半魔人の身体から、歪んだ魔力が溢れていた。
同時に感じる確かな圧。
それを見て誰もが無意識に武器を構えていた。
「まさか王都でダンジョン化などと……ルイス殿!」
「分かっている! 全員! 気を抜くな! ここからはダンジョン攻略……クシルを抑えるんだ!」
グアラの時の様に、きっと力の源を倒せば収まる筈だ。
「ルイス! エリア! 奴等は俺等が抑える! お前等はその隙を突いてクシルの下へ行け!」
「援護します、師匠」
「ここは私達『黒の園』にお任せを!」
「分かった! ここは皆に任せるぞ! エリア! 頼めるか!」
「はい! お供いたします!」
グランを始め、小太郎やクロノが半魔人達を抑えてくれる様だ。
私はエリアへ声を掛けると、既に彼女も覚悟が出来ているようだ。
力強く頷き、私の傍に来てくれた。
そしてエミックも私の腰に戻ってくると、私達は互いに頷きあう。
さぁダンジョン――『無限欲・永遠の黄金船』攻略開始だ。




