冒険者+5:おっさんVS永遠の黄金船(7)
間に合った。と、言えば良いのだろうか。
周囲で倒れているミア達の仲間と『永遠の黄金船』の冒険者の姿を見て、私は何とも言えなかった。
数で言えば『永遠の黄金船』も倒れている人数が多い。
しかし、ミア達の方も多ければ、彼等『永遠の黄金船』の倒れている者達は皆、普通の者達だ。
目の前にいる異形な者達は殆ど倒れていない。
「あれが噂の異形な冒険者か……」
「センセイ! あいつ等、その姿を半魔人って言ってた!!」
「半魔人……? 成程な、分かって来たぞ」
前に戦った道化師の様子を見る限り、魔人化にはリスクがある筈だ。
我を失ったゲンの息子がそうだった様に。
だから始高天はきっと、効力を弱めた魔人化の薬を作ったに違いない。
「さて、どうしたものか……」
こっちにはベヒーやエミックがいるし、アレン君達騎士団もいる。
ミア達を任せるのも手だが。
私はそんな事を思いながらどうしようか考えていた時だった。
向こうの半魔人達が私を見て、気付いたようだ。
「赤毛に金色の瞳……そして変なミミック。そうか、コイツがダンジョンマスターか! どうしますか! ギルド長!!」
「分かり切ってるでしょ? 始末なさい!」
彼等が上を見上げながら話すのを見て、私も見上げると、そこには雰囲気の変わったクシルが半壊したバルコニーに立っていた。
「クシル!! 目的はなんだ! 何故、私を付け狙う! バサカ達の敵討ちか!?」
「あんなゴミどうでも良いわよ。大きな存在が小石程度にやられたらムカつくでしょ? そんなものよ」
「ふざけた理由だな……!」
私はそう言ってクシルを睨みつけるが、彼女は笑っていた。
「そう怒らないでよ……一応、アンタを始末する様に依頼されたんだから仕方ないでしょ?――そうでしょ、始高天の長さん?」
「その通りですよ……ダンジョンマスター」
「ノア!!」
半壊したバルコニーの奥。そこから現れたのはノアだった。
相変わらずの白髪。
そして古代文字のローブを纏い、その手には聖槍剣・アストライアが握られていた。
そんな彼は私が睨んでいると小さく笑みを浮かべ、半魔人達を見て笑った。
「どうですかダンジョンマスター! これが半魔人――魔人の力を一部とはいえ使える新たな生命です」
「ふざけたことを……! まだ世界のダンジョン化を企んでいるのか!」
「創世と言ってください……ダンジョン化は所詮は副産物。あくまでも目的は創世……新世界の誕生のみです」
真剣な口調でそんな事を平然とノアは言ってくる。
やはり本気の様だ。
だが彼等が仕掛けた魔法陣の一部は私や騎士団で破壊している。
計画通りではないと思うが、あの余裕も気になる。
「逃がさないぞ……決着を付けよう、ノア!」
「残念ながら、まだその時ではありません。あとは任せますよクシル」
「逃がさん! グラビウス・マーズ!!」
「ジュエルス!!」
私は重力魔法を纏った火球をノアへと投げたが、当たる直前にクシルが手を翳し、宝石の障壁に阻まれた。
「なに!?」
「アハハハハ!! 私が金勘定だけの女だと思って? これぞ私の固有スキル『宝石魔法』よ! 魔力で宝石を生み出し、盾にも矛にも出来るのよ」
「腐っても五大ギルドか……!」
私が笑っているクシルを睨んでいる間にも、ノアはその姿を消してしまった。
「逃げられたか……!」
「アンタは逃がさないわよ! 行きなさい! 半魔人達!!」
「了解!」
「ただのおっさんじゃねぇか……ひゃははは! 嬲り殺しにしてやるぞ!」
クシルの号令に異形――半魔人達が動き始めた。
だが手はある。伊達にダンジョンマスターと呼ばれていない。
皆、見覚えのある魔物の一部ばかりだ。
弱点だって分かっている。
「アレン君! ミア達を頼む!!」
「お、おう! 任せとけ!」
私の言葉にアレン君は盾を構えながらミア達を後方へと下げてくれていた。
これでまずは安心だ。
「ならこっちもやるぞ! 行くぞエミック! ベヒー!」
『――!!』
『グオォォン!!』
私の言葉にエミックは戦闘形態へ姿を変え、ベヒーも皮膚を強固にして臨戦態勢を取った。
私も両腕のガントレットブレードを構え、同時に道具袋からいつでもアイテムを使える様にする。
「半魔人……残念ながら加減は出来ないぞ! 掛かってくるなら、死にたい奴だけにしろ!!」
私のその叫びの様な言葉を始まりとし、私と半魔人達との闘いが幕を開けた。




