冒険者+5:おっさんVS永遠の黄金船(6)
「っ!? 力量の瞳が……!」
両目がうずく。突然、力量の瞳が発眼したからか。
不意に窓を見てみる。
朝日が差し始め、カーテンの隙間から微かな光が漏れていた。
――こんな時間になにが?
「――うっ!?」
私は何事かと思ったが、力量の瞳が教えてくれる。
同時に『+Level5』も私に教えようとしていた。
「戦いが起こっているのか……! この王都で!?」
しかも早朝だ。なのに激しい力をぶつかり合いを感じる。
「まさか……ミア?」
こんな王都で激しい戦いが起こるとは考えにくい。
だが心当たりはある。
ミアと『永遠の黄金船』だ。
「まさか……ミア達が!」
私はすぐに立ち上がってガントレットブレードを装備し、道具袋や装備を整えた時だった。
「おっさん起きろ! 大変だ!! おいおっさん!!」
「この声は……アレン君か!」
突如、拠点の扉を大声で叩く青年の声。
――それは騎士団のアレン君の声だった。
「今、開ける!」
私はすぐに扉を開けると、そこにいたのは完全武装をしたアレン君と複数の騎士達だった。
急いで来たのだろう。
彼等の額には早朝にも関わらず、汗が流れていた。
そして彼は私の顔を見て、続きの言葉を叫んだ。
「おっさん!! 大変だ!! オリハルコン級ギルド……アンタの弟子の<幻爪のミア>が作戦よりも先に『永遠の黄金船』へ殴り込んでるぞ!!」
「っ!! ミア……!――エリアやクロノ達は!?」
「副団長達は急いで強制調査状を発行してる! それでオレ等はおっさんや、他の協力するギルドへ急いで伝令だ! 急げおっさん! 現地集合だし、何より、なんかヤバイ魔力が発生してるらしいぞ!?」
アレン君が焦っている。
そして彼の言う通りだ。
街中に妙な魔力を感じるし、力量の瞳がズキズキと痛むほどに戦いの規模を知らせている。
ここから離れた場所――恐らく『永遠の黄金船』の本拠地だ。
そこで大勢の戦闘が行われているぞ。
「なんてことだ!――エミック! ベヒー! 起きるんだ!!」
『~~♪』
『グオォォン!!』
私は二匹を起こし、エミックが腰へ装着されるとベヒーの頭の上へと乗った。
「行くぞアレン君!」
「お、おう! 馬車を出せ!!」
アレン君達は急いで馬車に乗り込むと、すぐに馬車を走らせた。
「行くぞベヒー!」
『グオォン!!』
私もベヒーに指示を出し、馬車の後を追う様にベヒーは走り出した。
「ミア……! 無事でいろよ!!」
力量の瞳がここまで強く発動することは滅多にない。
私は嫌な予感を抱きながらも、アレン君達と共に『永遠の黄金船』の本拠地へと向かうのだった。
♦♦♦♦
その頃『永遠の黄金船』本拠地では、まさにミア達<天極の獅子>と『永遠の黄金船』が激突していた。
しかしミア率いる<天極の獅子>側は圧倒的に劣勢だった。
「グッ……ちくしょう……!」
――こんな筈じゃ……!
ミアはそう思いながら拳を握り締め、目の前の敵を睨んだ。
今のミア達は傷が多数あり、所謂ボロボロ状態に近いものだった。
無論、最初は圧倒的にミア達の方が優勢だった。
ミアも前線で戦っており、同時にミアの仲間も歴戦の冒険者達だ。
並の冒険者では彼女達を止める事はできず、序盤で『永遠の黄金船』のガード達は壊滅寸前となった。
――連中が出てくるまでは……!
ミアは血走った瞳で、目の前の敵を睨み続ける。
肉体の一部が――魔物化する、謎の集団を。
「クククッ……! これがオリハルコン級ギルドの力かよ!」
「俺等のこの力の前じゃ、こんなものか!」
「んの……野郎……!」
ミアは拳を握り締めなおし、再び構え、倒れていない仲間へ檄を飛ばした。
「お前等!! 個別に戦うな!! 怪我人を下げて! 連携でやるぞ!! コイツ等は普通じゃねぇ!!」
ミアはそう叫ぶが、目の前の敵は最初はただの冒険者だった。
しかし、突如として身体の一部を魔物化――変身を始めると、圧倒的な力でミア達を苦しめた。
「オラァァァ!! 獣王拳!!」
ミアは走り、目の前の敵へ拳を放つが、その前に立ちはだかったのは亀の甲羅だった。
そしてその甲羅にミアは見覚えがあった。
「なっ! バトルタートルの甲羅……!」
「その通り! 大槌すら砕くと言われるバトルタートルの甲羅だ! 更に俺様の固有スキル――『打撃吸収』と合わさり、最強の防御力を生み出したのだ!!」
「んだと……! オレの攻撃はスキルすら貫くのに……奴のスキルの方が上なのか……!」
「下がって団長!! 相性が悪い!!」
「退くんだ!!」
ミアを援護しようと炎や雷を纏った矢を、仲間達が敵へと放つ。
すると、今度は悪魔の様な翼と両腕を持った男が矢の進路上に現れ、それを何の問題もなく受け止めた。
そして受け止めた矢は、結晶化し、そのまま砕け散ってしまった。
「そんな! 炎の矢を!?」
「僕の雷の矢が……!」
「ハァ……ハァ……! その羽に腕……エレメンターデビルの奴かよ……!」
「その通りよ!! 魔法に強いと言われる悪魔の羽と腕! そして我がスキル『結晶化』の前に魔法や、その類は通じん!!」
「これが俺達!! 『永遠の黄金船』の《《半魔人》》の力よ!!」
そう言って大勢の彼等――半魔人達は徐々にミア達へ距離を詰めてくる。
「ちくしょう……! 厄介過ぎるぜ……魔人化と固有スキルの組み合わせが……!」
どちらか片方だけなら、苦戦はしても劣勢にならなかった筈だ。
ミアはそう思いながら、近くで倒れている仲間を掴んで後退するが、怪我人があまりに多い。
だから迅速な撤退も出来ず、ミア自身も誰一人として置いていくつもりもない。
それ故に撤退が出来ないでおり、ミアは軽率な動きをしたことを後悔した。
「すまない……すまない皆ぁ……! オレのせいだ……オレのせいで……!」
「謝るなギルド長! 俺等もアイツらを許せなかった!」
「ここに来たメンバー! 誰一人としてイヤイヤ来た奴はいないよ!!」
仲間達は悔し泣きするミアを励ますが、そんな仲間をどう助ければ良いのかミアには分からなかった。
そして、そんなミア達を建物の上から嘲笑う者がいた。
「アハハハハ! 全く、ダンジョンマスターを誘いだすつもりが、こんな小娘が釣れるなんてねぇ」
深いな女の笑い声に、ミアは建物の上を見上げた。
するとそこには全身を宝石で着飾ったドレスを着た、クシルの姿があった。
「テメェがクシルか……!! なんでだ! なんでセンセイを……ルイスを狙う!!」
「目ざわり、ムカつく……それ以上に理由はないわよ。ここまで築いた財を、たかが一人のおっさん冒険者に揺るがされてるのよ? 胸糞悪いじゃない!!」
「テメェ……! ルイスもオレの家族だ!! 絶対に手を出させねぇ!!」
ミアは拳をクシルへ向かって向けるが、クシルはそれを見てわらうだけだった。
「アハハハハ!! 魔人ならともかく、半魔人にすら苦戦しているあなた達に何が出来るのよ?――ほらアンタ達!! とっとと始末しなさい!!」
「了解!!――見ろ! アビスクラブの腕に甲羅だ! 巨石にすら耐える甲殻! 全てを切り裂く最強のハサミ! さ~て、誰から切ってやろうか? やっぱテメェか幻爪のミア!!」
「クソがっ……!」
近寄る敵にミアは再度構えるが、既に身体はガタガタで、上手く力が入らない状況だった。
――血の匂いがする。オレの血だ……足も、腕も痺れてきた……!
自分の状態はミアは一番よく分かっていた。
きっとまともに戦えない。それを確信しながらも、ミアは身構えた。
仲間を守る為に。
――そんな時だった。
目の前のアビスクラブの半魔人は、不意に巨大な影に日を遮られた。
「あん、なんだ? 雨でも降るのか?」
曇りかと思い、半魔人が上を向いた時だった。
『グオォォン!!!』
アビスクラブの半魔人は、巨大な質量――ベヒーによって潰された。
同時にベヒーが飛んできた衝撃で、崩壊する『永遠の黄金船』の所有する周囲の建物。
目の前の出来事にミアは一瞬、理解が遅れたが、すぐにベヒーだと分かった。
「ベヒー!?」
『グオォォン♪』
ルイスが留守の間、面倒を見てくれるミアを見てベヒーは嬉しそうに鳴いた。
すると、更に背後から騒がしい声がミアは聞こえてきた。
「おい!! おっさん無茶すんな!!」
それは騎士達――アレン達が乗る騎士団の馬車の集団だった。
それを見てミアは、つい少し安心してしまうと同時に、ベヒーの頭から聞こえてきた声に我に返った。
「……ミア」
「……あっ」
声の主――朝日が差すと共に姿が鮮明に映る人物。
ルイスの声に、ミアは再び涙を流した。
「ルイス……オレェ……!」
「何も言うな。遅れてすまない……」
ルイスはそう言うとベヒーの頭から降りた。
そして、周囲の状況を見る。
倒れているミアの仲間達。
そしてベヒーに潰されている異形の冒険者。
それを見てルイスは悟った。
「『永遠の黄金船』……! 弟子が世話になったな……!」
「なっ、ベヒーモス!? それになんだアイツ……!」
「テ、テメェ……何モンだ!!」
突然の派手な登場に唖然とする半魔人の冒険者達は、そう言いながらルイスへと身構えた。
それを見てルイスは怯む事はなく、そのまま彼等へと歩みを進めていく。
「私か? 私はルイス・ムーリミット……君達より少しだけ強い、ただの冒険者だ!!」
ルイスの放つ言葉に、エミックも腰から降りてシャドージャブで威嚇するのだった。




