冒険者+5:おっさんVS永遠の黄金船(5)
私の拠点のベッドの上――そこで顔色を悪くした少女が眠っている。
ご両親は泣きながら少女の手を握り、ミアはずっと下を向きながら拳を握り締めている。
私もだ。あまりのことに怒りと悔しさで拳を握り締めている。
そして回復を祈っているとチユさんが口を開いた。
「あたしがいて良かったね……急所は外れてるし、毒も大したものじゃなかった」
「私のせいだ……!」
チユさんの言葉を聞いて、最初に出た言葉はそれだった。
襲撃犯――隠密ギルドの者はすぐに取り押さえ、今は小太郎に預けている。
だが犯人は分かっている。間違いなく『永遠の黄金船』だ。
そうとしか思えない。
「――師匠」
「……小太郎」
私がそう確信していると、小太郎は不意に隣に現れた。
しかし驚く暇はない。それだけ私の怒りの感情が勝っていた。
「……奴は吐いたか、小太郎?」
「吐かせました……奴等の雇い主は五大ギルド『永遠の黄金船』です。――ダンジョンマスターを誘い出せ。その為に子供を殺せと命令されていた様です」
「……っ!! そうか……!!」
その言葉に私は頭が怒りで真っ白になりそうになった。
ここまで人は怒れるのかと、私は拳から血が流れても握るのを止められなかった。
同時に逆流してくる後悔の波。
私は気付けばミアやご両親に頭を下げていた。
「申し訳ございません……!! 私が……私が巻き込んだ……!」
「……頭を上げてくれセンセイ。センセイは悪くねぇよ」
「その通りです。貴方は娘の為に高難易度ダンジョンに行ってくれた恩人です。――恨むなら貴方ではなく……五大ギルド……!」
気づけばミアも、少女の父親も拳から血が流れていた。
言葉は静かな感じだが、中身は私と同じ怒りで満ちているのが分かる。
「あまり自身を責めるんじゃないよルイス。しかし、五大ギルド……ここまで腐っていたのかい……!」
チユさんも、私の手に握りって癒しの魔法を掛けながら、声を震わせていた。
自身の患者だ。わざわざ<スノーホワイト>から来てまで治した患者だ。
それを目の前で――きっとチユさんも怒りと悲しみで満ちている筈だ。
そんな時だった。
私の拠点の扉が勢いよく開いた。
「ルイス殿!」
「師匠!」
入って来たのはエリアとクロノだった。
何故二人がここにと思ったが、自然と小太郎を見ると小太郎は黙って頷いていた。
そうか、小太郎が呼んでくれたのか。
二人は拠点内の雰囲気と、ベッドで眠る少女を見て、何かを察した様に顔をこわばらせていた。
そして意を決した様に、その口を開いた。
「詳しい話は小太郎殿から聞いてます」
「相手は『永遠の黄金船』ですか?」
「……あぁ」
二人の言葉に私は静かにそう言った。
「狙いは私だ……ダンジョンマスターを誘い出せと、そう命令されていたらしい」
「そんな……! 何故、ルイス殿を!? しかも、その為にこんな幼い命を!」
「まさか虹鉱石とオリハルコンの報復ですか? だがあれは! 全て連中に非がある筈です!」
エリアもクロノも怒りの声を上げてくれている。
ただ実際、私も不思議でもあった。
虹鉱石・オリハルコン。あの一件でここまでやるのかと。
「何故……連中はここまで」
「ここ最近の『永遠の黄金船』ですが、かなり追い詰められていた様です。――師匠襲撃の噂により冒険者、そして商人達からも信用を失っていたと」
なるほどな。小太郎の話で少しは納得できたな。
だがそれでも弱い。私を一点に標的にしているのもそうだが、やはり魔人化疑惑と関係あるのか?
私はそう考えていると、顔を下へ向けていたミアが顔を上げた。
「そんなことはどうでも良いんだよ! うちのギルドの家族がやられたんだ! 報復だ! 報復してやる!!」
「落ち着けミア! 相手は五大ギルドだぞ! それに魔人化の話もある! 準備も無しに行けば、いくらお前でも!」
「うるせぇ!! うちの連中が――あたしの家族がやられたんだぞ!! んなことが関係あるか!!」
クロノがミアを落ち着かせようとしたが、ミアは止まらなかった。
それだけ彼女がギルド員を大事にしているからだろう。
前回の時もそうだったが、今回は小さな命で、しかも目の前でのことだ。
怒りはただでさえ大きいだろう。
「ならば、せめて明日まで待って下さい。明日になれば、騎士団も動けます。――魔人化疑惑、違法物の売買を理由に、王の名の下に<強制調査状>が発行できます。これならば、騎士団も動けますから」
「そんな呑気にしてられっか! 騎士団の都合なんか知らねぇ! センセイ! すぐに報復すんだろ!?」
エリアの説得にもミアは耳を貸さなかった。
私も気持ちだけならばミアと同じだ。
こうしている間にも他の被害者が出る可能性がある。
けど、それでも私は首を横へと振った。
「いや……エリアの案に乗ろう」
「センセイ!?」
ミアが食い気味に私を見てきたが、私は手で制止させた。
「私だってすぐにでも問いただしたい。……だがやはり魔人化が気になる。お前も分かっているだろミア。魔人化した者の強さを」
「うっ……それは……」
その言葉にミアは少し落ち着きを取り戻した様だ。
ミアもエルフの国で始高天の魔人――ドーワを見ている。
だから魔人化の恐ろしさを分かっている筈だ。
私はミアが黙ったことで今度はエリアの方を向いた。
「エリア……明日は私達も同行して良いんだな?」
「勿論です。裏ギルドの時と同じ様に、ギルドとの連携は既に団長にも許可を得ています。クロノギルド長、協力をお願いできますか?」
「無論だ。五大ギルドの栄光は既に過去のもの。これ以上の暴走は一冒険者としても止めねば」
クロノが頷いた事で、これで明日は騎士団と『黒の園』の力も借りられるな。
「小太郎……君の力も借りられるか?」
「御意に」
小太郎は迷いなく頷いてくれた。心強い限りだ。
そしてそんな光景を見ていたチユさんは、呆れた様子で溜息を吐いていた。
「全く……怪我だけはすんじゃないよ?」
「無理な相談ですよ、チユさん」
「全く、歳の割には落ち着かないんだからアンタは」
チユさんは私へ言うが、歳相応の生活なら私だって送りたいさ。
けど今回の様なことを許す訳にもいかない。
おっさんとしてではなく、冒険者として。
そして、この日はこれで解散となった。
少女とご家族は、エリアの提案で騎士団の医療練で警護、見てもらえる様になった。
チユさんはそれに付いて行き、ミア達のそれぞれ場所へと戻って行く。
「さて……私も準備だな」
きっと素直な展開になるとは思えない。
争いは必須だろう。だから今の内に道具を合成しておかねば。
他にも、エミックやベヒーの力を借りることになるだろう。
「……『永遠の黄金船』決着を付けよう」
こうして、私の一日は明日への準備で終わりを告げた。
♦♦♦♦
明朝――『永遠の黄金船』本部。
そこへ向かう一団がいた。
それは、ギルド<天極の獅子>
ミアが率いるオリハルコン級ギルドの一団であった。
「わりぃセンセイ……けど、オレは我慢ならねぇ!」
そう言ってミアは武器であるガントレットを鳴らすと、彼女の背後の一団も次々と武器を持つ。
その中には少女の父親の姿もあり、彼女等は目の前に佇む『永遠の黄金船』へと進んで行った。




