冒険者+5:おっさんVS永遠の黄金船(4)
まずは安心だ。
クロノ達から協力を得られた私は、そう思いながら帰宅した。
すると、入口に『魔天の桜月』のギルド紋が描かれた、十六夜からの手紙があった。
流石は小太郎に十六夜だ。仕事が早い。
私はベヒーを撫でながら手紙を読んでみた。
すると内容の前半は、十六夜の最近の出来事や私への想いが書かれていた。
「……結構、恥ずかしいな」
相変わらず彼女からの好意は冷めない様だ。
しかしまだ分からないな。
彼女の依頼を共に果たし、危機から助け、後は悲しむ彼女の傍で元気づけただけだ。
それぐらいしかしてないのに、女性は恋をするものなのだろうか。
しかも36のおっさんなんかに。
いや実際、好意を向けられて嬉しい。
しかし実感がなぁ……。
そんなことを思いながら読み上げていると、最後の方に本題が書かれていた。
『近頃の『永遠の黄金船』については、私共の耳にも入っております。一部のギルド員が怪しげな薬を飲んでいるとも、ギルド員で行方不明者が多数いるとも聞いております。――どうかお気を付けて、私の好い人』
「怪しげな薬……そして行方不明? どういうことだ?」
いよいよ、きな臭くなってきたな。
裏ギルドである十六夜が、適当な話をする筈がない。
恐らくだが、これは実際の話なのだろう。
私は嫌な予感を抱きながらも、とりあえずは拠点の中へと入って休むことにした。
♦♦♦♦
それから三日後。
私は何とかなっていた。
騎士団、クロノ達、そしてフレイちゃん達からも物資が届き、少なくて食うには困らない。
寧ろ、貰いすぎだ。
エミックやベヒーは喜んでいるが、場合によっては返そう。
「まさか一斉にくれると思ってなかったな……どうしよう」
いつまで続くか分からない状況だが、これじゃあ籠城だよ。
私は拠点内にある山になった物資を見て、そう呟いた。
そんな時だった。
「お~い! センセイ! いるかぁ!」
「この声は……ミアか」
扉の向こうから聞こえる元気な声。
それはミアの声だった。
疲れを感じさせない元気な声に、私はミアらしいと苦笑しながらも扉を開ける。
すると、そこにいたのはミアだけじゃなかった。
チユさん。そして男女二人に、小さな女の子が共に立っていた。
「ミア、チユさん、これは一体……?」
「おう、センセイ! 実は礼を言いたいっていうからさ、連れて来たんだ。ほら、エリク草を必要としたギルド員と、その子供だよ」
「無事に回復したからね、連れてきたんだよ」
「あぁ! そういうことか!」
私は二人の言葉に納得していると、女の子と女性は静かに私に頭を下げてきた。
そして父親だろうか、私の手を掴んで頭をこれでもかと下げてきた。
「ダンジョンマスター! 本当に! 本当に感謝します! 本当にありがとうございます! お陰で娘は回復して、こんな元気に……!」
「本当にありがとうございました……!」
父親は今にも泣きそうな声で礼を言い、母親らしき女性も同じ様に泣きそうな声で頭を下げてくる。
「そんな……! 頭を上げてください!? 私は依頼を受けただけです、お礼ならミアやチユさんに――」
「ギルド長やチユ様には既に言いました。ですが、それでも貴方にも礼を言いたくて仕方なかったんです! あんな高難易度のダンジョン……情けないですが、私では無理でしたから……!」
父親の人は悔しそうにそう言ってきた。
そりゃそうか。大切な娘だ。
きっと無力な自分を恨んだ筈だ。
それを察して、私は気付けば震える彼の肩に手を置いていた。
「気にしないでください。無事に回復してよかった」
「えぇ……! 本当に元気になって……ほら、挨拶しなさい」
「えっと……ありがとうございました!」
父親に言われて、女の子は少し緊張しながらも私に頭を下げてくれた。
そんな可愛いお辞儀を見て、私は思わず笑ってしまう。
「アハハ……どういたしまして」
私はそう言って、少し他愛ない話もした。
「そうだ、中に入られては……物資で散らかってますが」
「いや良いよセンセイ。今日は本当に挨拶だけに来ただけだしよ。――それより聞いたぜ! また五大ギルドとやり合うんだって!」
「全く、アンタはいつまで経っても落ち着かないね」
ミアは嬉しそうに、チユさんから呆れた様に言われてしまった。
「別に私が好きで喧嘩を売っている訳じゃないですよ……今回は完全に被害者です」
誰が好き好んで五大ギルドなんかに関わろうとするんだ。
私はそう思いながら、私達から少し離れた先程の親子を見てみた。
「元気そうだな」
「当たり前だよ。誰が薬を作ったと思ってんだい!」
「チユばあちゃんの薬なら安心だもんな!――ったく、最初はなんか泣きついて来て面倒だったぜ」
チユさんは怒り、ミアは少し照れくさそうに言った。
全く、二人共本当に素直じゃないんだから。
でも元気になって良かった。
フォレストレオと戦っただけはあったな。
「それでセンセイ! いつやり合うんだよ! 呼んでくれたら、すぐにでもカチコミ行けるぜ!」
「しないって……ただの嫌がらせ程度でカチコミなんてしないよ。――ただ、何があるか分からないから、暫くは来ない方が良いと思う。相手は五大ギルドだ。何をしてくるか分からな――」
私はそこまで、先程の親子の方を見た時だった。
「――えっ?」
目の前の光景に――異物が映りこんでいた。
黒衣を纏った人物が、親子の方へボーガンを向けている。
なんだ? 何が起こっているんだ?
私は頭が一瞬、混乱したが気付いた時には叫んでいた。
「伏せろ!! グラビ――」
私が叫んだ瞬間、ミアが親子へと走り、チユさんも一緒に走っていた。
だが親子は気付かない。
ようやく気付いた時には矢は放たれていた。
――病気の治った、女の子へと。
♦♦♦♦
少し前<スノーホワイト>の辺境ギルドでは、ルイスからの手紙に頭を抱えていた。
「あの馬鹿……また五大ギルドと揉めたのか」
そう言ったのは辺境ギルド・ギルド長ジャックだった。
これで何度目だと。そして何か起こりそうだとジャックは嫌な予感を抱いていた。
「ルイスさん、大丈夫でしょうか? 物資は可能な限り送りましたが?」
フレイも流石に心配だった。
ルイスからの手紙には、最近は高難易度ダンジョンばかり行っているともあり、彼女的にはルイスの身体が心配であった。
しかし、そんな二人の心配を見て、逆に笑う者がいた。
「キシシシ! 大丈夫じゃ、そんなやわな弟子じゃないからね。あの馬鹿弟子は」
そう言ったのは、ギルドの椅子に座る一人の美女だった。
翡翠色の長髪に魔女の様なとんがり帽子。
何よりも、服装が艶美だった。
ビキニの様な服で肉体を隠し、けれど羞恥心がないのか、そんな姿に堂々としていた。
「キシシシ! しっかし五大ギルドに何度も喧嘩を売るなんて、流石は私の弟子じゃ! やることが派手だねぇ!」
「笑いごとじゃないですよ、マリアンさん……ルイスの奴、今度は『永遠の黄金船』と揉めたそうで、嫌な予感がしますぜ」
「……『永遠の黄金船』か。そうじゃの」
マリアンと呼ばれた女性はそう呟くと、不意に勢いよく立ち上がった。
「仕方ないのう……ちょっと様子を見てくるか。今年はまだ顔を見てなかったからの」
「ルイスさんに宜しく伝えてください!」
フレイの言葉にマリアンは手を振って応えると、何もない空間から箒を取り出した。
そして、どんなバランス感覚なのかと、箒の上に直立で立った。
すると箒はそのまま空中に浮き、直立のまま王都の方へと飛んでいってしまった。




