冒険者+5:おっさんVS永遠の黄金船(3)
店を出た私は、一先ずフレイちゃん達――辺境ギルドの方に手紙を書いた。
流石に配達員までは圧力がないようで、配達員は素直に手紙を受け取ってくれた。
これで多少は安心できると思いたいが、魔人化疑惑もある。
私はエリア達――騎士団にも寄ってみた。
騎士団本部に入ると、門番から挨拶され、私もそれを返す。
そして中にいる騎士達と挨拶しながらエリアを探していた時だった。
「ルイス殿! 帰って来ていらっしゃったのですね」
「やぁ、ただいまエリア。昨日帰ってきたんだが、実は相談があってね」
私を見つけ、満面の笑顔で出迎えてくれるエリア。
私は彼女に現在の状況を話した。
『永遠の黄金船』とのこと。今、王都でまともに買い物ができないこと。
そして魔人化疑惑についてもだ。
「そんな……なんて酷い話ですか! ルイス殿に批はないのにそんな!――分かりました。可能な限り、ルイス殿に物資を少し融通いたします」
「すまない……まさか、こんなことになるなんて思わなくて」
エリアは私の為に怒ってくれた。
顔をやや赤くし、怒りの声をあげながらも物資を融通してくれる彼女に私は頭を下げた。
だが本題は魔人化疑惑だ。
「それと、本題は魔人化疑惑の方でもあってね。騎士団に何か情報は入っていないかい?」
「……実を言うと、それらしい話があります。一部の商人達からなのですが、『永遠の黄金船』の用心棒達が不思議な力を使うと」
「不思議な力か……異形な姿になるってことかい?」
私からの問いにエリアは頷いた。
「はい。何やら肉体強化……いえ、肉体を変化させると聞いています。腕が獣の様になったり、足が鳥の様な鋭い爪をもっていたりと……」
「成程な……」
店で聞いた話と同じだ。
しかし、聞いた限りだと変化しているのは肉体の一部だけなのか。
五大ギルド『白帝の聖界天』の時、そして今までの始高天メンバーとの時の魔人化とは違うな。
あれは一部もそうだが、基本的には全身が変化していた。
「やはり聞いた限りだと魔人化とは断言できないな」
「はい。私も魔人化を見ていますから、違和感はあります。しかし、目撃者曰くスキルではない、と断言されてますから」
「それも店で聞いた通りだな……スキル以外の力か。――グランはなんて?」
私は、ここにいないグランの意見も聞きたいと思った。
しかし、エリアは首を横へと振っていた。
「団長は見回りと上への謁見です。団長も、この問題を知っていますが、相手は五大ギルド。彼等と問題を起こしたくない上の説得に行っています」
「そうか……」
やはり腐っても五大ギルド。
しかも流通の要である『永遠の黄金船』が相手では、騎士団でも迂闊に動けないか。
「分かった、ありがとうエリア。私も、もう少し調べてみる。――一先ずクロノ達にもあたってみる」
「いえ、こちらも貴重な情報でした。騎士団でも、もう少し手を広げてみようと思います。――それと、物資はこちらで拠点に運んでおきますね」
「何から何まですまないな……ありがとう、エリア」
「い、いえ……そんな……!」
私がお礼を言うと、エリアは顔を赤くして何やらくねくねと身体を動かしていた。
何だろう、少し怖いな。
けど嬉しそうだから良いか。
私はそう思って、騎士団を跡にした。
――って、エミック!? お前、いつの間にいたんだ!
だから何度も言っているだろ!
なんでエリアの尻を舐めるんだ、お前は!?
♦♦♦♦
その後、私はクロノ達の下に寄って、騎士団でした同じ話をしてみた。
所属している他の冒険者にも聞いてみると、やはり知っている者が数人はいたが、内容は同じだった。
――肉体の一部が変化する。そして、それは人の姿ではない。
そんな話ばかりだ。
だが中には、逆らった商人達が店ごと襲撃されるのを見た者がいた。
異形な手足で、商人達を吹き飛ばし、最後は店を片手で吹き飛ばしたらしい。
その後、騎士団が来て、彼等が去ったからそれ以上は知らない様だが、それでも普通ではなかったとのことだ。
「私の方でも幾つか調べてみます。物資も、受付に言ってもらえれば持って行って構いませんよ師匠。――しかし『永遠の黄金船』とは、厄介ですね」
「レイは忙しいぃ~けど、調べてあげる」
「御意に」
クロノやレイ、そして小太郎も動いてくれることになった。
特に小太郎は、裏でも『永遠の黄金船』の話題が増えたことに違和感があるらしく、十六夜にも手紙を持って行ってくれるとのこと。
ハッキリ言って助かる。
十六夜の力――つまりは裏ギルドの力を借りられるなら、もっと何か得られるかも知れない。
「助かるよ。今回は流石に『白帝の聖界天』の時とは違うからね」
あの時と違ってこれといった因縁もなければ、被害は私しかいない。
だからぶっ飛ばして解決――ってやる訳にはいかない。
こちらに非が限りなく少なくてもだ。
私はクロノ達とそんな会話をし終えると、忙しいであろうミアの所へは行かず、拠点へと帰還するのだった。
♦♦♦♦
「それでダンジョンマスターはどう?」
暗い一室でクシルは、宝石を手に持ちながら目の前にいる部下達へ、そう問いかけた。
そして整列する部下の内の一人が前に出た。
「予想通り、弟子や騎士団から物資を貰っている様です」
「あらそう……でも良いわ。あんなの嫌がらせ以上の意味はないもの」
そう言ってクシルは、宝石を口の中へ放り込むと、そのまま噛み砕いて呑み込んだ。
すると彼女から強い魔力が発せられ、思わず部下達も息を呑んだ。
自分達も運良く力は得られたが、クシルだけは別物だと思っているからだ。
「あぁ~最高。――じゃあ……次の段階に進みましょうか。それで? ダンジョンマスターは最近までどこに行っていたの?」
「どうやら<幻爪のミア>に依頼され、『エリク草』を採取に行っていた様です」
「エリク草? 何に使う気?」
「聞いた話ではミアの部下――その娘が病気になった様です。その為の物とのこと」
「ふ~ん。成程ね……じゃあ次の策は決まったわ」
そう言ってクシルは、宝石をチェリー食べるかの様に口に入れた。
「……傘下の隠密ギルドを呼びなさい」
「はい、すぐに」
そう言って部下達は部屋を跡にしていった。
それを見てクシルは、楽しみだと歪んだ笑みを浮かべた。
「ウフフフ……さぁて、小さな命を守れるかしら? ダンジョンマスター」
宝石に埋め尽くされた部屋で、クシルの笑い声だけが響き渡るのだった。




