冒険者+5:おっさんVS永遠の黄金船(1)
命からがらフォレストレオから逃げおおせた私達は数日後、無事に王都へと帰還を果たしていた。
眠たい身体に鞭を打ち、可能な限り最速で辿り着いた筈だ。
ミアの話ではチユさんを王都に呼んでいるらしく、今は彼女のギルドで『エリク草』を待っているとのこと。
けれどチユさんがいるなら話は早い。
世界でも五本指の薬師らしいチユさんがいれば、薬はあっという間に完成する筈だ。
チユさんがいれば後は任せられるだろう。
――というより、私がいても邪魔になるだけだ。
ミアも気を利かせてくれたようで、一直線に馬車で私を拠点まで送って行ってくれた。
「じゃあセンセイ、今回は助かったぜ。後はオレがチユばあちゃんとやっとくから、まずは休んでくれよ」
「すまないな。本当なら最後まで付き合いたかったが、今回は流石に疲れたよ」
フォレストレオは強敵だった。
最後の一線を越えない様にしながらの死闘に、野宿であんまり疲れが取れなかったからな。
私は日が暮れる中、欠伸をしながらミアへそう言うと、彼女も頷いて馬車を走らせた。
「んじゃ! この礼は後日な!!」
「ゆっくりで良いぞ~!」
筋が通っているミアが依頼料を忘れるはずもないし、不安はない。
私は手を振り終えてミアを見送って拠点の前に来ると、ベヒーが駆け寄って来てくれた。
『グオォォォ~ン!』
「やぁベヒー……また留守番で済まなかったな。――ほら、お土産のフォレストボアの肉だ。ゆっくりお食べ」
『グオォォォン!』
可愛いものだ。
ベヒーは嬉しそうに尻尾を振りながら、エミックが出した肉にかぶり付いた。
見た感じ毛並みも良いし、クロノ達はしっかりと面倒を見てくれた様だ。
私は内心で感謝をしながら拠点内に入ると、とりあえず装備を外した。
そして、一通り持ち物を片し、そのままベッドへと倒れた。
「あぁ~疲れたぁ……! もう眠いぃ」
クロノ達はベッドも洗濯してくれていた様だ。
お日様の匂いとフカフカ具合が凄い。
一気に眠気が着てしまい、私は風呂に入るのも忘れて今日はそのまま眠ってしまうのだった。
♦♦♦♦
そして翌朝、私が起きたのは朝――寄りの昼であった。
餌寄越せと、エミックからのダイナミックダイブと、ベヒーの悲しそうな声を目覚ましに私は起きた。
「ごめんごめん、すぐに準備するから……!」
可哀想なことをしてしまったなと、私は急いでエミックとベヒーの準備をした。
二匹が、がっつく様に餌を食べているのを見て、私は不意に日を眺めた。
「もうすぐお昼か……シャワーを浴びて、少し買い物もしないとな」
多少の汚れや汗を流さねば、恥ずかしくて外を歩けない。
ただでさえ加齢臭してないか気になり始めているし、清潔にはしないとな。
弟子やエリア達に臭いと言われたらショックで、すぐに引退だな。
そんな冗談を思いながら私はシャワーを浴び終えると、着替えて外に買い出しに向かうのだった。
♦♦♦♦
外に出た私が向かったのは、王都で良く利用しているお店だ。
王都の広場にあるその店は、食材や道具、ちょっとした武器・防具も売っているお気に入りの店だ。
そこの店主とも仲良くしているし、安心できる場所だ。
「……ん?」
だが店に入ろうとしたが、不意に私は動きを止めた。
何だろう。視線を感じるな。
敵意? 興味? 分からないが、出店の方からか?
私は視線を感じた方を見てみると、そこには予想通り出店の商人達がいた。
彼等は私のことをジッと見ており、やがて私が見ていることに気付くと一斉に顔を逸らした。
「何なんだ?」
何か服に変なものでも付いているのかな?
それとも寝ぐせ? いやどっちにしろ、そんな感じじゃないな。
興味深そうに、けれど腫れ物でも見る様な変な感じだ。
「……まぁ良いか」
少なくとも商人と問題を起こしたこともなければ、彼等とも初対面だ。
心当たりがないことを、ずっと気にしていても仕方ない。
私はそう思いながら店の扉を開け、店内へと入って行く。
「いらっしゃ――ルイスさん!?」
「ん?――やぁ店主、また来たよ。今日は食材も欲しいんだ」
何やら振り返った店主の顔がおかしいな。
驚いた様子だし、一体何があるんだ?
とりあえず、買い物してから聞いてみよう。
「まずはリンゴとワイン、それから――」
「すまない……ルイスさん。あんたには売れねぇんだ」
「――えっ? 私、何かしたかい?」
待って待ってくれ。
出禁にされるようなことしてないんだけど、一体どういうことだ?
私は何が理由か聞いてみるが、店主は申し訳なさそうに、もじもじしているだけだった。




