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<16万PV達成>おっさん冒険者+レベル5  作者: 四季山 紅葉
第十五章:対決! 永遠の黄金船(エルドラド)
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永遠の黄金船

 ルイスとミアがフォレストレオと激闘していた頃、王都――『永遠の黄金船』のアジト。


 そのギルド長室で、ギルド長クシルは頭を抱えていた。


 綺麗に整った髪はクシャクシャで、化粧もしていない顔は怒りや悩みで歪んでいた。


「どうする……! まさかダンジョンマスターの影響力と、五大ギルドへの不信感がこれ程までなんて……!」


 彼女はそう呟きながら、八つ当たりの様に近くにあった酒瓶を壁へ放り投げた。


 酒瓶は壁に当たって粉々に砕けるが、それでもクシルの気は晴れない。


「クッ……まさかバサカ達が死ぬなんて、クソッ! 役立たずが!」


 彼女の怒り――その原因は、ルイスがオリハルコン採取の時に死んだバサカ達にあった。


「まさか死ぬなんて。それだけルイス・ムーリミットは強かったの……! しかも、襲撃の噂が漏れるなんて……!」


 命令したのは彼女だが、バサカ達――依頼主である『永遠の黄金船』がルイスを襲撃したことがクロノ達を通し、冒険者の間に知れ渡っていた。


 結果、冒険者達は疑心暗鬼を抱き、冒険者へのルールを破った『永遠の黄金船』の依頼を断るようになった。


 そうなればダンジョンの素材は手に入らず、『永遠の黄金船』にとって打撃となった。


 しかし、そこは腐っても五大ギルド。

 その程度では傾きは弱い。


 在庫だって大量にあるしと、高を括っていた。

――のだが、それだけで終わらなかった。


「商人共めぇ……! ここぞとばかしに反抗するなんてぇ……!!」


 冒険者に続き、商人ギルドである彼女達の要――商人や店。


 彼等も反発――否、反乱に近い形をとって来たのだ。


 元々、『永遠の黄金船』は利益重視の為、彼等をぞんざいに扱ってきたことが多々あった。


 だが不満が出れば五大ギルドの影響力と、バサカ達によって力づくで抑えてきていたのだ。


 なのにバサカ達が死に、五大ギルドの栄光も近年では落ち目であることが災いしてしまった。


 商人や店は勝手に独立。

 クシル達――『永遠の黄金船』とは商売しないと反乱を起こし、そのせいで遂に損害が大打撃となってしまっていた。


「まだ規模は少ない……けど、人手が足りない」


 バサカ達のような揉め事処理――つまりは力はある馬鹿な奴隷。

 それが足りず、このままでは規模が広がってしまう。


「古い連中も私を引きずり降ろそうとしやがって……!」


 元々、セシルは『永遠の黄金船』の直系の人間ではなかった。


 先代――代々の直系。

 そして利益ではなく、商人や冒険者との信頼関係を重視していた男。


 その男を引きずり下ろし、クーデターの様に実権を奪った彼女を嫌う、古株のギルド員達も多かった。 


 商人達の離反も、その現れだ。


 結果、今現在『永遠の黄金船』は経営破綻の危機にあった。


「クソッ! どいつもこいつも! 旨い汁を吸えたのは私のお陰でしょ!!――力が足りない……力が……!」


 時代は変わった。

 五大ギルドだから無敵の時代は終わり、必要なのはやはり力だ。


 金はある。だが冒険者も商人達も商売をしてくれない。


 このままでは破滅だ。

 クシルは悩みながら、一本金貨50枚するワインをぞんざいに開けた時だった。


「力が欲しいのですか?」

 

「ッ! 誰……!?」


 自分以外いない筈の部屋。


 その背後から声をかけられたクシルは振り向くと、そこには古代文字のローブを着た白髪の青年が立っていた。


「私はノア……始高天・創世のノア」


「始高天……! 噂は聞いてるわ。それで……一体、何の用?」


 予想外の客を前にし、クシルはすぐに冷静さを取り戻した。


 今までどんな商談も乗り越えてきた彼女だ。


 並みの人間ならば臆してしまうが、彼女は場数が違った。


 ノアを前にしても平常心を保つことが出来ていたのだ。


 それを見てノアも笑みを浮かべる。


「商談ですよ。力が欲しいと言っていたでしょう? これを――魔人化・半魔人化が出来る薬・<合成魔剤(ごうせいまざい)>。そして<ダンジョン化の秘石>です」


 そう言ってノアが手をかざすと、彼女のテーブルに小さな錠剤や石が現れた。


 それを見てクシルは思わず喉を鳴らす。


「魔人化……! 確か、魔物の力を得た人間のことね。それに<ダンジョン化の秘石>は……文字通り、ダンジョン化を起こす物ね?」


「流石は五大ギルドの長……耳が早い」


 これにはノアも、少し感心した。


 騎士団が情報規制をしている中、彼女は独自の繋がりで情報を得ていたのだから。


「そ、それでいくら? いくら払えば良いの!?」


 クシルは今にも手が伸びそうな勢いだ。


 それだけ彼女は今、変化を望んでいたのだ。

 流れが変わる様な変化を。


 そして、そんな彼女の姿と言葉にノアは笑い始めた。


「クククッ……いえお代は結構です。代わりの条件はただ一つ――ダンジョンマスターの排除」


「ダンジョンマスター……ルイス・ムーリミット……!」


 その名を聞いてクシルの瞳が血走った。


 自身をこんな目に遭わせ、損害を与えた、逆らった虫けら。


「良いわ! 受けましょう! この商談!!」


 その条件を聞いた瞬間、クシルは豪快に一つの<合成魔剤(ごうせいまざい)>を手に取った。


 そして一気に呑み込み、ワインで飲み流す。


 すると、すぐに異変は起こった。


「……クククッ……アハハハハ!! これが魔人化ね!!」


 クシルは異形の姿に変わり、禍々しい魔力を放ち始めた。


 だがすぐに人型に戻り、高らかに笑う彼女のを見てノアは驚いた。


「まさか()()するとは……クククッ、これは想像以上に面白くなりそうですね」


 ノアはそう言い残して姿を消した。

 

 だがクシルはそれには気付かず、ただ室内に彼女の笑い声だけが木霊した。


「アハハハハ!! 覚悟しなさい!! ダンジョンマスター!! 必ず報いを受けさせてやるわ!!」


 そう笑う彼女の瞳は狂気に包まれており、止める者はもう誰もいなかった。

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