冒険者+5:おっさんとエリク草(7)
『ガオォォォォォォン!!!』
間違いなく力が一段階上がった。
遠吠えにも先程よりも覇気があるな。
「ミア……気を付けろよ」
「おう……センセイもな。――第二スキル! 獣戦闘」
ミアは頷くと、第二スキルを使い、獣を模った魔力を肉体に纏う。
私もブレードを変えるか。
魔剣・ニブルヘイム。そして魔剣・グラビウスだ。
特にグラビウスの刃には炎と纏わせた。
やはり特攻は炎だ。あとはそれで、どこまで追いつめられるか。
短期決戦が理想だが、再生能力がある以上、長期戦も覚悟か。
「ミア……飛び出すと同時に左右から仕掛けるぞ」
「あぁ、さっきと同じだな。任せろ、センセイ」
『獣戦闘』を身に纏ったミアの雰囲気。
それは獣のそれと同じだった。
鋭い眼光でフォレストレオを睨み、まるで縄張り争いの獣のようだ。
だがこうなったミアは頼りになる。
前に五大ギルドで戦闘した時に第四スキルも習得したし、近接戦闘ではクロノを超え、弟子一番だろう。
『ガオォォォォォォン!!!』
そして私達は身構えたと同時だった。
フォレストレオは、両足を地面へと叩きつけた。
すると地面から、鋭利な木の根が私達目掛けて飛び出してくる。
あれは木の魔法の類だ。ならばこっちも仕掛けるぞ。
「行くぞミア!!」
「おう!!」
私とミアは、一気に左右へと跳んで木の根を回避。
そのまま駆け出し、フォレストレオへ向かって行く。
『ッ! ガオォォォォォォン!!』
「こっちに来るか……!」
フォレストレオめ。先程の僅かな戦闘で、私とミア――どっちが危険か判断した様だ。
そして標的は私だ。
確かにレベルは90を超えている。
それに奴め、さりげなくエミックにも意識を向けているな。
私への攻撃時、明らかに範囲がミアよりも広い。
そして腰にいるエミックも僅かに反応しているから、間違いないだろう。
「勘の鋭い奴め……!」
私は全速力で走り、呼吸が乱れるよりも前に仕掛けようと試みる。
けれど、それよりも先にフォレストレオから大きな魔力を感じとる。
『ガオォォォォォォン!』
「突風!? 風魔法か……!」
こいつめ、私を近付けさせないつもりか。
フォレストレオが口を開けると、奴の肉体から突然の突風が吹き荒れた。
それは私を襲い、思わずその場で踏ん張る為、足を止めてしまった。
だが、それでやられっぱなしじゃないぞ。
「魔剣・悪食!!」
私はブレードを変えた。
現れたのは牙のある魔鎌――悪食だ。
魔力を喰らう悪食ならば、この風も――
「喰え!!」
私が叫びながら翳すと、悪食は口を開く様に牙が動いた。
そして一気に風を吸い込むと、突風はやがて消えて行った。
「良し! 返すぞ、魔力! 炎魔の怒り、紅の黄昏、紅蓮の罰は虚空を貫く――断罪炎・獄炎槍!!」
私は手をかざし、呪文を唱えた。
すると強烈な炎が渦巻き、やがて巨大な槍となって私の腕へ収まる。
レベル80以上じゃないと使えない、この呪文――
「うけとれぇぇぇぇ!!!」
『ッ!』
私が炎槍を投擲すると、フォレストレオの様子も変わった。
流石に危険を感じたのだろう。表情や様子が変わった。
今にも回避しようとしているが、忘れてないかフォレストレオ。
私は一人じゃないぞ。
「おう、植物猫野郎……! いつまでシカトしてんだ?」
『ッ!!』
フォレストレオが気付いた時には、ミアが奴の顔の真下にいた。
その拳に全力の魔力を込めた状態で。
「こっちも喰らっとけ!!――獣王拳・幻爪魔葬!!」
ミアが回避しようとしたフォレストレオの顔面を、顎からぶん殴った。
あのミアが溜め込んだ全力の一撃だ。いくらお前でもただで済まないぞ!
強烈な一撃は、魔力で作られた巨大な爪が拳となり、フォレストレオの身体が浮いた。
そこへ私の炎槍が迫り、そのままフォレストレオの胴体を貫いた。
『ガオォォォォォォン!!!?』
瞬間、フォレストレオの胴体から左前脚が燃え上がり、奴は大きな断末魔をあげた。




