冒険者+5:おっさんとエリク草(5)
その後、火の番をしていた私だったが、途中でミアが起きたので交代した。
少しでも眠れるのはありがたい。
私は少しの間、眠り、次に起きた時は日が昇り始めていた。
朝は昨日のフォレストボアの余りと、エミックからパンと水を出してもらい、軽い朝食を取った。
しっかりと朝食を取る。それも冒険者の鉄則だ。
「センセイ。今日はどこを探すんだ?」
「今日は北の方を探そうと思う。北にはフォレストレオの縄張りも多いからな」
私はパンに肉を挟んで食べているミアへ、そう言った。
フォレストレオは縄張りを巡回している。
最悪、一つの縄張りに張り付いていれば、いつかは会えるんだ。
だがそれでも最低7日は掛かる。
どんな病気かは知らないが、依頼主の子が大丈夫だと良いんだが。
とりあえず私達は地図を広げ、向かうポイントを把握した。
それから装備を整え、キャンプ地を跡にするのだった。
♦♦♦♦
「第一スキル『粉砕』――獣王拳!!」
『ガウッ!?』
密林を進んでいると、どうしても魔物と出会ってしまう。
目の前でミアにぶっ飛ばされているのも、このダンジョンも固有種――『タイガーベア』だ。
両腕に木の甲殻を付けた、トラ柄の熊だ。
だがミアのスキルによって防御は意味がなく、そのまま仰向けで倒れてしまった。
「だぁぁぁ! 邪魔くせぇ! 勝てねぇのに出てくんなよ!!」
「無理を言うな。向こうからすれば、私達は縄張りを荒らす人間だ。否が応でも構ってくるぞ?」
理不尽に叫ぶミアへそう言って、私は彼女を落ち着かせた。
その叫びで他の魔物がやってくるだろうし、体力だって無駄に消耗する。
まぁこれでフォレストレオが来てくれるなら良いんだが、そうそう甘くはない。
「でも縄張りを二つも回って、まだ出会えてないんだぜセンセイ!」
「そうそう会える魔物じゃないって、何度も馬車で言ったろ? 焦るな、縄張りを確実に張り込めば必ず会える」
私はそう言ってナイフを近くの木に投げた。
すると木に刺さると、何もない筈の場所から血が流れてきた。
そして、その正体を現した。
毒々しい色をしたトカゲだった。
こいつは麻痺毒を持つトカゲ『ポイズン・エレキリザード』だ。
擬態能力もある厄介な奴だよ。
その姿を見ていたミアも、またかと表情を露骨に歪ませていた。
「またそいつかよ……擬態ばっかりで面倒くせぇ。面倒くせぇダンジョンだな」
「危険度9ダンジョンだぞ? 楽なものか」
私はそう言って彼女へ水筒を手渡した。
ミアは受け取ると、水筒を少し飲んで汗を腕で拭う。
「プハッ……ったく、どこにいんだよフォレストレオ」
「さっきの縄張りで見た足跡を触ったら、まだ温かった。運が良ければ、次の縄張りで会えるかも知れないが……」
「確証はないってか……まぁ都合よく絶対はねぇわな」
ミアはそう言って地図を広げている。
彼女なりに考えようとしているのだろう。
願わくば、次の縄張り辺りで見つかると良いんだが。
まぁそうなれば死闘が始まるから、大変なんだがな。
そんな事を思いながら私達は先を進むことにした。
目標は次の縄張り――大きな水場がある、広い空間の場所だ。
そこで出会えると良いんだが、そう思っていた私だ。
だがまさか、本当に出会えることになろうとは、この時はまだ思ってもみなかった。
暫く歩き、次の縄張りへ近付いた時だった。
私達を強烈な威圧感が襲った。
「これは……!」
「センセイ、いるぜ……!!」
重力が変わったかの様に、首に刃を突き付けられているかのように。
身体が重くなり、同時に私達は冷や汗が噴き出した。
「そう言うことか……!」
私は全てを察した。
フォレストレオは最初から《《気付いていた》》んだ。
私達の存在を。
「気付かれていた……! だから次の縄張りで待っていたんだ、フォレストレオは……!」
「どういうことだよセンセイ!」
冷や汗を流しながらミアが聞いてきた。
「フォレストレオは『植獣王類』――水や自然のマナがあれば、その力を大いに発揮できる! そして次の縄張りは、この辺りなら比較的、自然のマナが多く発生する場所なんだ! しかも水辺でもある!」
「嘗めやがって……! 地の利を活かす気満々ってか!」
私達は拭いても拭いても流れる冷や汗を、鬱陶しく感じながらも、この威圧感の耐えて足を進めた。
そして広い空間に出ると、そこは確かに水辺で、爽快さを感じさせる自然のマナに満ちていた。
本来ならば深呼吸して昼寝をしたいぐらいだが、それは出来ない。
何故ならば、ヤツが縄張りの中央で陣取ってるからだ。
『ガルルルル……!』
唸り声を出す、その存在――フォレストレオ。
下手な屋敷よりも大きな、その巨体。
威厳ある、エリク草である葉の鬣。
眼光、爪、尾。その全てにおいて強烈な威圧感を放つフォレストレオ。
奴は鋭い眼光で間違いなく私達を捉えていた。




