冒険者+5:おっさんとエリク草(3)
木々が凄い。
道らしい道がない。あっても獣道寄りの道だけだ。
危険度8以上は、殆ど人の手が入らないダンジョンだ。
部外者である私とミアを嫌うかの様に、木々が行く手を阻んでくる。
「ミア、毒草の類には注意しろよ。あと擬態系の魔物にもだ」
「分かってるけどよ、凄い木々だなセンセイ。これじゃ、まともに進めない……!」
「最初だけだ。暫く進めば多少は広い場所に出る」
ミアの鬱陶しそうな言葉に、そう返答しながら進むと私の言った通り、やや広い道に出た。
人の手が入った場所ではないが、それでも人が歩くには十分な広さだ。
「ふぅ……ようやく出れたな。全く、腰にきたよ……!」
「センセイ、その言い方、おっさん臭ぇよ」
「もうおっさんだ、私も」
何度も言ってきたが36歳だぞ。
腰や肩にもガタ来てるし、こんな木々まみれの中に来れば腰だって叫ぶぞ。
それに、ここは良い思い出がないからなぁ。
可能なら、とっととガイアンレオを見つけて素早く帰りたいさ。
けど、それも楽じゃないんだよなぁ。
このダンジョンは広い。そしてダンジョン内全てが、ガイアンレオの縄張りだ。
つまりは出会うだけでも大変なんだよ。
ミアの仲間――そのお子さんの為にも早く帰ってやりたいが、これだけは仕方ない。
「まずは拠点となる場所に向かうぞ。それからガイアンレオを探す。――近場にいると良いんだが……」
「そんなに見つからないもんなのか、センセイ?」
「このダンジョンは広い。そして、ここ全てがガイアンレオの縄張りだからな。今、どこにいるのやら……ただお気に入りのスポットがあるから、そこを狙うぞ」
それでも確実じゃないがな。
だが闇雲に探すよりかは可能性が高い。
「だがまずは拠点だ。私が使っていた場所が残ってる筈だから、そこへ向かうぞ」
場所が場所だけに残っている筈だ。
でも同時に昔の嫌な記憶も蘇るなぁ。――ちょっとしんどい。
「ハァ……とりあえず付いて来い、ミア。日が暮れる前に準備はしたい」
「りょ~うかい。でもだったら食料も、もっと必要になるかもな。――おっ! 良い感じの木の実があんじゃんか!」
木の実? ミアの言葉を聞いて、私は彼女が小走りに向かう場所を見た。
そこには黄色の柑橘系の様な木の実が実っていた。
――って、駄目だ! あれは駄目だ!
「待てミア! それは魔物だ!?」
「へっ?」
ミアはその場で立ち止まったが、それと同時だった。
木の実が実っていた木が――木の地面が動き、根っこが飛び出してきた。
「根っこが――!」
「魔物『悪魔樹の根』だ! 燃やすぞ!――大炎斬!!」
「よっしゃ!――爆炎咆哮!!」
私は両腕のブレードに、ミアは拳に炎を纏わせて迫りくる根っこへと放った。
私が斬ると一気に根っこは燃え上がり、ミアの攻撃で根っこは木端微塵となる。
そして根っこが消えた途端、木は力尽きた様に倒れた。
「うわぁ……ビックリした!」
「だから擬態魔物に注意しろと言ったろ! このダンジョンには、こんな奴等が沢山いるんだぞ!?」
「わ、分かったって……反省してるよ」
本当か? ミアは野生の勘は鋭いが、たまに鈍い時があるからな。
特に空腹の時とか。
「ハァ……とりあえず、この木の実は貰って行こう。結構、美味いんだこれ」
悪魔樹のオレンジ。冒険者の間では希少な果実で有名だ。
程よい酸味、そして甘味。疲れた時には最高の食材だ。
「へぇ~擬態用じゃなく、本当に食えるもんなんだな」
「不味い擬態に獲物は寄ってこないだろ? とりあえず……エミック! オレンジを収納してくれ」
『~~♪』
私とミアは次々に採ったオレンジを、腰を降ろしてエミックの口の中に放り込んで行く。
やがて一通り採取し終えると、私達は立ち上がった。
「さて、ジッとしてたら他の魔物も来そうだ。ミア、行くぞ? 付いて来い」
「あいよ! 良い土産ができたぜ」
ミアはオレンジを一個、かじりながらそんな事を呟いていた。
そして私達は急ぎ、その場を跡にするのだった。




