冒険者+5:おっさん負傷する
意識が戻って来た――いや目を覚ました様な感覚だ。
「ここは……馬車か?」
どうやら私は馬車の中で横になっている様だ。
そうだ。思い出してきた。
バスクとの戦闘で気を失ったのか。
確かに肉体の節々が痛いし、体内にも重い痛みがあるな。
けど先程――っていうか、倒れる時よりは痛みがない。
私は顔を動かし、目だけで馬車内を見てみた。
すると、馬車の一角に沢山の空き瓶がある事に気付いた。
それ以外にも使ってあろう薬草が置かれている。
「確か……最後に見たのは――」
私がそう言った瞬間、ガタンッと馬車が大きく揺れた。
そして私は気付いた。馬車が動いている事に。
――誰が運転しているんだ……?
まだボォ~とする意識の中、私は身体を起こした。
どうやらまだ日は沈んでない様だ。夕日が眩しい。
「……おい、馬車を運転しているのは誰だ?」
そう言って馬車の運転席を見ると、そこには――
『~~♪』
「エミック……! お前か……治療と、馬車の運転をしてくれたのは?」
『~~!』
そこにいたのはエミックだった。
器用に闇の腕で馬車の手綱を握っていて、今も余裕そうに手を振ってくる。
「助けられたな……相棒」
『~~♪』
私がそう言うとエミックは一回だけ跳ねた。
そして、闇の腕が私の所に伸びてきて、まるで寝てろ!――そう言わんばかりに床へ指差していた。
「分かった、分かった……すまない。一旦、頼むよ」
『~~♪』
私はそう言って再び横になると、エミックも腕を引っ込めた。
そして、運転に集中し始めた様だ。
気分よく跳ねる音が聞こえてくる。
気分転換で楽しいんだろうな。
「アハハ……少し、休ませてもらうか」
私はそう呟いて、目を閉じた時だ。
馬車がまた揺れ、すると近くの袋から何かが出てきたことに気付いた。
「……オリハルコン」
あぁ、そうだ。バスクとの闘いで忘れていたが、少し面倒になりそうだな。
冒険者としての規定を破った『永遠の黄金船』
そのメンバー達はバスクによって殺されてしまった。
依頼品のオリハルコンはあるが、素直に渡しても渡さなくても面倒になる。
実際、メンバー達が死んでいる。
きっと『永遠の黄金船』は何か言ってくれるだろうな。
それにバスク自身はどうなったのだろう?
あの頑丈さなら死んだとは思えない。
きっと生きているし、エミックの事だ。その場に放置したんだろうな。
「面倒になりそうだ……」
色々と面倒ごとがあるな。
だが今はまだ休みたい。そう思って、私は静かに瞳を閉じるのだった。
♦♦♦♦
――その頃。
夕日が沈み始めた頃、バスクはまだ洞窟の前で大の字で倒れていた。
「負けたか……」
しかし意識は戻っていた。
そんな中で彼はそう呟き、ようやく立ち上がる。
「魔人化をしなくて……正解だったな……!」
きっと魔人化すれば、こんな清々しい満足感はなかっただろう。
バスクはそう思いながら大乱世を持ち、近くの岩場に手をかざす。
「だが、すまんなダンジョンマスターよ。始高天としては俺の勝ちだ」
そう言って手をかざした先に魔法陣は現れた。
それは始高天の目的――創世の為の魔法陣だ。
「俺はこの世界が嫌いだ。お前もだろうダンジョンマスターよ……いつか答えを聞こう。――さらばだ」
バスクは、既にいないルイスへ対してそう言うと、歩きながらその姿を霞の様に消してしまった。
その場に残ったのは『永遠の黄金船』の者達の遺体と、一つの魔法陣だけだった。




