冒険者+5:おっさんとオリハルコン(8)
次のやり合いで決まる。
恐らく、短期決戦だ。
互いの力が強い分、ダメージも大きい。
きっと決まる。だから全力でやるんだ。
「グラビウス・マーズ、ジュピター」
「大乱世――修羅ノ刻」
私は両腕のガントレットブレード。
それぞれに重力魔法と火魔法を、そしてガイアの刀身に重力魔法を纏わせる。
だがバスクも魔槍・大乱世へ魔力を送っている。
先程より禍々しく、そして荒々しい魔力刃が生成されていた。
「俺をここまで本気にさせたのはノア以来よ!」
「だろうね……!」
彼を本気にさせる相手がポンポンいると面倒になりそうだ。
だが大丈夫だ。彼にも隙はある。
ノアの時とは違う。第四スキルは必要ない。
――さぁ、行くぞ!
「グラビウス・マーズ――マールス!!」
私はマーズをバスク目掛け、目の前に振り下ろした。
直後、マーズのブレードから炎と重力魔法の合わさった斬撃が放たれる。
「むっ!――大乱世! 一騎先駆け!!」
なっ! 突きの型で斬撃を飛ばすのか!?
驚いたことにバスクは私の攻撃に対し、突きを放ってきた。
すると槍から斬撃が同じ様に飛び出し、互いの中間で斬撃がぶつかり合った。
斬撃を飛ばす。同じことをしてくるなんて。
いや当然だ。これぐらいは出来るだろう。
ならやる事は一つ。止まるな!
「グラビウス・ジュピター――ユーピテル!!」
私はもう片方のブレード――ガイアを掲げる。
すると、その剣先から茨の様に木々が四方八方へ伸びた。
重力魔法を纏った魔の木々だ。
当たればズタズタでは済まないよ。
四方八方へ伸びたそれだが、狙いは一つバスクだ。
すぐに彼目掛けて一斉に伸びていく。
「ハッハッ! 面白い技だな!――だが! 大乱世――大戦極陣!」
バスクは槍を両手で持つで、高速で回転させるように振り回していた。
全く、面白い技はこっちの台詞だよ。
放たれた木々は重力魔法を何とも思わず、槍の前に粉々された。
だが、そんな大振りの技を待っていたんだ!
確かに見えるぞ。彼の隙が!
私は一気に距離を詰めた。
これを逃せば、きっと彼は隙を見せなくなる。
警戒が最高潮に達していない今、今が好機なんだ。
私は全力で走った。そして一気に間合いへと入っ――
「それを待っていたぞ! ダンジョンマスター!!!」
それは突然の事だった。
バスクは槍を一瞬で止めると、そのまま横薙ぎ放ったんだ。
そしてそれは、間合いに入った私の右脇腹へ直撃した。
「ガハッ!!」
呼吸が止まった。内臓を痛めたのか、吐血までしている。
――だけどこれで良い。
「むっ! この手応え……! それに貴様、何故斬れぬ! 何を身に纏っている!?」
「ゴホッ!――ハ、ハハ……切り札はこういう時に……こそ……役に立つ……!」
「なにっ!? それは……!!」
バスクは驚いた様に槍が直撃した私の右脇腹を見ている。
そこの個所は衝撃で服が破けて見えている筈だ。
――オリハルコン製の鎖帷子が。
「鎖帷子だと!? それにこの感触! まさかオリハルコン!?」
「軽くて……丈夫で……重宝しているよ……衝撃は防げないけどね――さぁ次はこっちの番だ!」
私は逃がさない様に、全力で槍を握った。
絶対に逃がさないと、そして今のレベルで出来る最大の力で。
「なっ! 大乱世が動か――」
「グラビウス・マーズ――」
私は左腕の手のひらに、魔力を込めた。
火・重力・そしてガイアの力を込めた魔力玉だ。
その濃度の高さで分かる筈だ。
どれだけのものか。
だからバスクも、それを見て驚愕の表情をしていた。
「ダンジョンマスター! これが! ノアが敗れた男の――」
「――エウレカ」
そう呟くと同時に私はバスクの腹部へ、その魔力玉をぶつけた。
――瞬間、爆発なのか、爆風なのか分からないがバスクが吹っ飛んだ。
「うおぉぉぉぉぉ!!!!」
そして咆哮と共に最後は背後にあった岩にぶつかった。
けれど、彼はそこから少し歩いていた。
――まだ余力があるのか……!
私はそう思い、覚悟を決めた。
だがその時だった。
「アッハッハッハ……! 楽しめたぞ……ルイス・ムーリミット……!」
バスクはそう言うと、最後はそのまま大の字で倒れた。
「や……った……!」
駄目だ。私も限界の様だ。
さっきの一撃で内臓とかを痛めた様だ。
もう意識が――
それが私の限界だった。
私もバスクと同じく倒れ、意識が薄れていく。
『――!!』
そして最後に見たのは、慌てた様子で近付いて来るエミックの姿だった。
そこで私の意識は途切れた。




