冒険者+5:おっさんとオリハルコン(7)
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
「うぅっ!!?」
バサカからの一撃を両腕のガントレットブレードで受けた。
だが、それは凄まじい重さのある一撃だ。
もしガントレットで受けなければ、そのまま貫通していただろ。
それか顔面が吹っ飛んだ。それぐらいの重さだ。
「アッハッハッハ!! 俺の一撃を受け止めるか!」
「それだけでこっちは――限界手前だ!」
嬉しそうに笑うバスク。
彼の言葉に返答しながら、私は槍を弾いた。
そして一気に内側に入って回し蹴りを腹部へ放った。
「魔連脚・樹縛!」
「ぬぅっ! これはドーワの魔剣――!」
強烈な蹴りだ。バスクは後方に足を付けたまま吹っ飛んだ。
そして直後、蹴った個所から木々が伸びてバスクを縛り上げた。
「だがぬるい!!」
バスクが叫んだ瞬間、一気に彼を縛る木々が吹き飛んだ。
おいおい、仮にも魔剣の力だぞ。
なのに気合だけで木々の呪縛をぶっ飛ばしたのか。
「なんて奴だ……!」
こいつ、間違いなく『武』という点ではノアよりも上じゃないのか?
明らかにノアには無かった重さが槍にある。
クソッ! 楽な依頼ではないとは思っていたが、始高天の相手をすることになるなんて。
「アッハッハッハ! 俺に一撃を入れ、更には縛るとはな! だがぬるいぞ!」
「――!?」
こいつ、一気に間合いを縮めて――
「大乱世!!――斬首!!」
「うおぉっ!!?」
バスクが槍を首目掛けて横薙ぎにすると同時に、私も身体を逸らした。
お陰で首は繋がっているが、風圧だけで服が切れている。
なんて奴だ。槍を振るった後の風が、まるでかまいたちじゃないか。
長期戦は危険だ。集中力が続いている間が好機だ。
「このっ!」
「むっ!」
身体を戻した私はすぐに槍を踏んだ。
そして出来た隙を突いて、ブレードを顔面目掛けて放った。
「フンッ!」
だがバスクは首だけで逸らして攻撃を躱した。
そして一気に槍を上げ、私も思わず足をどかしてしまう。
それだけの馬鹿力だ。
私は呼吸するのも忘れて対峙した。
「ハッ!!」
バスクが突きを放った。
それを身体を逸らして避ける。
そしてニブルヘイムの魔力で槍を右腕ごと凍らせた。
「アッハッハッハ! 魔剣を使いこなしているな! だが!――ハァッ!!」
バスクは凍り付いた腕と槍で、再び横薙ぎをしてきた。
その瞬間に氷は砕け、私は左腕だけでそれを受けた。
「ぐぅっ!!」
なんて衝撃だ! 受け止めただけで骨が悲鳴をあげたぞ!
だが動きを止めるな! 反撃するんだ!
「グラビウス!」
重力の纏ったブレードをバスクの首へ振るう。
「なんの!!」
それをバスクは槍を持ち直して、それで受けた。
同時に彼を襲うのは重力の魔法だ。
身体が重くなる筈だ。重圧で身体が悲鳴をあげる筈だ。
けれどバスクは額に血管が浮き出る程、力を込めていた。
「ぬるいと言った!!」
そう叫んで、無理矢理に重力魔法を逃れたバスク。
おいおい、どんな肉体をしているんだ!?
私のブレードは槍で弾かれると、彼は槍で連続の突きを放ってきた。
私もブレードで弾き、隙あれば内側に潜り込んで蹴りを入れたり、ブレードを振るう。
だがバスクもその度に後ろに跳び、槍を振り回してブレードを弾いてくる。
そして再び槍を放ってくるのを、ブレードで弾く。
これを高速で、短時間の内で、私とバスクも行った。
身体は悲鳴をあげている。
36歳にはキツイ動きだ。彼の攻撃受けるだけで古傷にも響く。
それでも止められない。
止まったら死ぬからだ。
互いの顔や腕に僅かな傷が付く。
衣服も千切れていく。
「小細工させてもらうぞ!」
「アッハッハッハ! 好きにしろ!!」
余裕なのか、それともハイになっているだけか。
どちらにしろバスクは笑っている。
そんな彼へ、私は『道具合成』のスキルで作った爆発するナイフを3本投げた。
「ぬっ!!」
だがバスクはそれだけ何かを嗅ぎつけたのだろう。
僅かに体を退き、ナイフを一気に大乱世で薙ぎ払った。
――瞬間、ナイフが一気に爆発する。
爆発、爆煙がバスクを包んだ。
だがそれは、本当に僅かな時間だけだった。
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
咆哮と共に槍で爆煙を振り払うバスク。
だが攻撃した瞬間、その隙は逃さない!
「視えた――魔氷連脚・氷晶撃!!」
回転からの連撃。しかも氷の魔力付きだ!
その連撃が確実にバスクの腹部へ入った。
「ガハッ!!」
――入った!
今までと違う感触。そしてバスクの声。
蹴りで吹っ飛んだバスクの腹部から、氷が一気に彼を侵食する。
「まだだぁぁぁぁ!!!」
だがまだ終わらない様だ。
彼は咆哮の様に叫ぶと、氷を砕いて侵食を止めた。
だが完全にじゃない。腹部は氷で未だに覆われている。
でもそれでも、バスクにはまだ余力がある様に見えるぞ。
「ハァ……ハァ……! 勘弁してほしいな」
「アッハッハッハ……アッハッハッハ!! 楽しいな! 楽しいぞルイス!! これこそが戦いよ! 生きている証よ!!」
あぁ駄目だ。完全にハイになってるな。
この手の相手は面倒でしかない。
けど身体はデカくて丈夫。そして力も強いと来たもんだ。
私もだ。もっと一気に力を込めろ。
一撃必殺。それぐらいの覚悟で叩きこむしかない!
しかし何てタフなんだ。レベルは私が上だ。
けれど力は、彼の方がまだ上だぞ絶対。
「さぁ続けよう!! ルイス! ダンジョンマスターよ!!――殺し合いだぁ!!」
「こんなおっさんに殺し合いを望むのは、君ぐらいだよ……!」
逃げられない。ならば全力で足掻いてやる。
それが冒険者だからだ!
私とバスクは再び構え、対峙した。
きっと次で決まる筈だ。




