冒険者+5:おっさんとオリハルコン(6)
やれやれだったな。
キングがあれ以上、暴れなくて本当に良かったよ。
『永遠の黄金船』の連中も今回は懲りた筈だ。
彼等ではオリハルコンの採取も、キングへの対応も出来ない。
とりあえず私の仕事もこれで終わりそうだ。
キングが最後にくれたオリハルコンを袋に収納すると、私とエミックは洞窟の出口へと歩いていく。
「ふぅ……全く、五大ギルドが絡むと絶対に面倒が起こる。これじゃ、おっさんの神経が死んでしまうよ」
ただでさえダンジョンは神経を削るのに、実際に問題を起こされたら堪ったものじゃないよ。
きっと帰っても色々と言ってきそうだが、オリハルコンは私が持っている。
ならばそれを材料に、彼女達の口を閉じさせるしかない。
「……とりあえず帰るか、エミック。ちょっと気疲れしたよ」
『~~♪』
私の言葉にエミックは楽しそうにしている。
全く、お前の性格が羨ましいよ。
「さて、まずは馬車の所まで戻るか――」
そこまで言って、私は洞窟の入口から出た。
――時だった。
「遅かったな」
「――えっ?」
私は目の前の光景を見て、一瞬理解できなかった。
何故ならば、目の前には二mを超えている男が立っていたから。
そして何より、その周辺ではバサカ達の遺体が倒れていたからだ。
「……何故、殺した?」
気づいたら男に向かって名乗る前に、私はそんな事を聞いていた。
それだけ混乱していたんだろう。
あまりに予想外の光景のせいで。
「コイツ等が武器を持って向かって来たからだ。武器は脅す為でも、ましてや飾る為でもない。――敵を殺す為の物だ。ならば答えは一つだ」
そう言って男は、その巨体の身の丈以上の槍を取り出した。
槍からは乾いてない血が付着しているが、男には一切の返り血がない。
――強者だ。間違いなく……だが何故、これ程の男がここに?
「目的はオリハルコンかい?」
「違う。――貴様だ。ダンジョンマスター・ルイス・ムーリミット。貴様と死合う為に俺はここに来た」
成程、つまり分からない。
私は彼を知らない。一体、どこで繋がりを作ったんだか。
「君は一体……?」
「名乗ろう――俺はバスク・ウォーライ!」
男はそう名乗った瞬間、男は槍を振るった。
――瞬間、槍の先にあった大岩がプリンの様に斬れた。
「なっ!」
なんて斬れ味。そして槍の扱いも超越している。
あんなのガントレット以外で受ければ、あっという間に四肢が無くなるぞ!
私が思わず血の気が引いていると、男はそんな私の目を見ていた。
そして――
「始高天の一人だ」
そんな事を言った。
「っ! エミック! 離れていろ!!」
それを聞いた瞬間、私はすぐにオリハルコンの入った袋を捨てた。
そして両腕のガントレットからブレードを展開。
エミックもすぐに私から離れると、私はすぐに力量の瞳を開眼させた。
バスク・ウォーライ:レベル84
レベル80越えか!
だが84でも一切油断はできない!
エミックよりもレベルは低い。
だがそれだけ判断しては死ぬ。
彼はレベル以上に力と技――つまり『武』が高い!
「ほう……それが金色の瞳か。赤髪と金色の瞳、間違いなく貴様がダンジョンマスターだな」
「私を狙う……ノアの指示だな」
「違う。俺の意思だ。数々の猛者である始高天の者達を退け、数々のダンジョンの魔物と戦ってきた貴様だ。――血が滾る!」
バスクはそう言って両手で槍を持った。
そして放たれる殺気。逃げる事は――死だ。
「……相手するしかないか」
私は諦めて、身構えた。
そして同時にスキルを発動させる。
――第一スキル『+Level5』発動!
私は魔力を解放した。
溢れ出る魔力。当然だ、今の私はレベル89だ。
伝説の英雄達の領域――レベル90一歩手前だ。
しかし、それでもバスクはただ笑みを浮かべていた。
「ほう……レベルを変動させるタイプか。さっきまでと格段に強さが変わったな。ならば、俺も相応の力で対応せねばな!――行くぞ! 魔槍・『大乱世』!」
「うおっ!?」
バスクからとんでもない量の魔力が!
レベルは関係ないぞ。まさかあの槍か、彼のスキルか!
「魔剣……いや魔槍か!」
「その通り、俺の槍――魔槍・大乱世。敵を屠れば屠る程、俺に力を与える! そして我が第一スキル『一騎の極み』! このスキルは一騎討ちの時のみに俺に力を与える!!」
「なんて奴だ……!」
恐ろしい。力は既にレベル以上の力を持っている。
なのにレベルは変動していない。
きっと力だけが上がっているんだ。
たった5レベル差、油断すればすぐにやられる!
「魔剣・グラビウス! ニブルヘイム!」
私も両腕のブレードをそれぞれ魔剣へと変えた。
全力だ。今やれる全力で相手をするんだ。
「ほう! 魔剣の類を複数も……! 流石だ……さぁ! ここまで整ったのだ! さぁ死合おうか!!」
「――来い!!」
魔力の嵐が吹き荒れる中、バスクが槍ごと迫ってくる。
それを私は両腕を交差して構え、真っ正面から受けた。




