冒険者+5:おっさんとオリハルコン(5)
『カチブラァァァァァァァ!!』
「うわぁぁ!! なんだこいつは!!?」
だからキングだよ。キング・オリハルスライム。
レベルはまさかの88だ。危険度なら間違いなく10だよ。
だが当然だ。全身がオリハルコンで構成されたスライムの王。
数百年、いや千年以上は生きていると言われている伝説級の魔物だぞ。
そんなキングは咆哮をあげながら、つるはしを持った一人をぶっ飛ばした。
そして一旦動きを止めて、周囲を見渡し始めた。
『カチプルルルルン! プルルルルン!!』
やっぱり怒ってるな。身体が激しく動いているよ。
仲間の危機に気付いてやってきたんだから当然か。
私はブレードを引っ込め、可能な限り無抵抗を提示してみた。
このキングとは数回は会ってるから、覚えていてくれるなら助かるが――
『プルルルルン!!!』
「おっと……!」
こっちを見たぞ……とりあえず両手をあげて敵意がないのをアピールだ。
すると気持ちが通じたのか、私とエミックの後ろにいるオリハルスライム達に気付いた様だ。
彼等が元気に跳ねているのを見て、キングの視線が私から逸れた。
まずは許された感じかな?
だが問題は彼等――『永遠の黄金船』だろうな。
露骨につるはしを持っているし、未だに武器も身構えている。
キングも基本的には温厚だから、敵意を示さなきゃ良いんだが。
彼等にそんな考えはないだろうな。
既に一人はぶっ飛ばされて気を失ってるし、彼等からすればキングは宝にしか見えないだろう。
「すげぇ……こいつ、全身がオリハルコンか!」
案の定、バサカは唖然としながらも目が輝いているよ。
身の丈に合ってないなら欲を出さない事。これがダンジョンの鉄則なんだけどね。
「せめて欠片でも……! 欠片でも――うおぉぉぉ!! 強力撃!」
あっ、馬鹿! 逃げるならともかく、今のキングに攻撃する奴があるか!
私が声を出そうとするよりも先、彼はキングに魔力の纏った斧で攻撃してしまった。
『……カチプルルルルン?』
けれど、当然ながらキングには傷一つ付いてない。
何をされたか理解すらまだしてないだろう。
だが鈍い訳じゃない。
やがてキングは攻撃されたことに気付き、バサカ達の方を見た。
『プルルルルン!!?』
しかも、そこへ最初につるはしで攻撃されたオリハルスライムも出てきてしまった。
オリハルスライムはキングに何かを伝え始めた。
するとキングの視線が『永遠の黄金船』達を完全に捉えた。
つるはし、武器。そして攻撃したであろうバサカの姿。
それを見てキングが段々と震え始めた。
「あっ……もう駄目だな」
これは止められない。
仲間を攻撃されて、しかも自身まで攻撃された事を完全に理解してしまったんだ。
『カチブラァァァァァァァ!!!!』
「ギャアァァァァッ!!?」
キングがバサカを身体でぶっ飛ばした。
そして何かを呟き始めると、キングの前に圧縮された魔力が現れ始めた。
「あれは本当にマズイ!? 下がるぞエミック!」
『~~♪』
私はすぐにエミック達とキングの影に下がると同時だった。
逃げ始めた『永遠の黄金船』達を前に、キングは魔力を爆発させた。
「ギャアァァァァァァ!!!」
それは悲鳴だったのか、それとも爆発音だったのかは分からない。
だが私が見たのは、彼等が爆発によって外に放り出される光景だった。
まぁ自業自得だ。
それにキングの攻撃を見る限り、加減したのが分かる。
やはりオリハルスライム達は優しいな。
そう思っていた私だが、キングの傍で動く者に気付いた。
「クソッ……! 俺様は……五大ギルドのバサカだぞ……! こんな……!」
「悪運が強いな」
そこにいたのはバサカだった。
運よく爆発から逃れた様だが、ダメージは大きそうだ。
腹ばいで倒れてるし、仕方ない。たすけてあげよう。
「言った通りだろ? 彼等を甘く見てはいけないって」
「……ハッ! 知った事か、そんなこと……! だが、これで学習したぞ! オリハルコンの採取方法! あのスライムに媚を売れば――」
「だから、もう無理だよ」
「なに……!?」
私の言葉にバサカは唖然とした表情をしている。
だが事実は変わらない。彼等はもうオリハルコンを採取するのは無理なんだ。
「オリハルスライム達は長い時を生きる魔物だ。だから一度でも攻撃されたら魔力や姿を覚えられ、二度とオリハルコンをくれることは無い」
「なんだと!? だ、だったら別の連中を連れて――」
「それも無理だ。言ったろ? 彼等は長い年月を生きる。だから攻撃した者の子孫も分かるんだ。――だから一度でも攻撃すれば、末代までオリハルコンを渡す事はないんだよ」
「ば、馬鹿な……!」
バサカは唖然としながら、やがて顔を下へ向けてしまった。
「嘗ては誰もが扱えた伝説の鉱物――オリハルコン。だが今となっては使える人間は限られている。その真相がこれさ」
皆、オリハルスライム達を乱獲しようとしたんだ。
私は運が良かった。先祖がオリハルスライム達に何もしていなかったから。
そして初めて見た時も、あまりに可愛らしくて攻撃できなかったんだ。
そしたらまさか、オリハルコンを口から吐き出し始めて驚いたものだ。
「……ちくしょう」
私の言葉を最後まで聞いたバサカは、やがてゆっくりと立ち上がった。
そして何も言わず、洞窟から出て行ってしまった。
流石にこれ以上は無理だと悟ったんだな。
『カチブラァ……!』
「おっと、私は何もしてないぞ?」
私を見降ろしているキングに、私は両手をあげて敵意がない事を示した。
するとキングはジッと私を見ていると、やがて口から小さなオリハルコンを吐き出した。
『キン、プルルルルン!』
『カチプルルルルン!!』
そしてキングは一鳴きすると、他のオリハルスライム達と共に洞窟の奥へと去ってしまった。
残ったのは私とエミックだけだ。
そして残されたのは、やや小さなオリハルコンだ。
「どうやら、怒りは静まってくれたようだ」
『~~~♪』
冷や汗を流す私の隣でエミックは、楽しそうに口をパカパカさせている。
待ったく、他人事と思ってるなコイツ。
まぁ良いさ。一旦、オリハルコンを回収しよう。
例え、『永遠の黄金船』が依頼違反をしたとしても、仕事だからね。
念の為、最後まで仕事はしよう。
私はそう判断すると、エミックと共に袋へオリハルコンを入れ始めるのだった。




