冒険者+5:おっさんとオリハルコン(4)
目の前に佇む者達。
その中のリーダー格・『永遠の黄金船』の右腕・バサカ。
彼は私を見ながらも辺りと、そして私の背後に隠れるスライム達を見ていた。
「まさか、伝説級の鉱石の正体が……そんなちんけなスライムとはな」
「おじさんからの助言だ。そんな事を言っていると痛い目を見るよ?――それにどうやって入って来たんだ? ここはオリハルコンの所有者か、気に入られた人間しか入れない筈だ」
「後者の意味は分からんが、前者の条件を満たしている。――これだよ」
そう言ってバスクは、チェーンで繋がっているリングを見せてきた。
あの輝きに僅かな魔力。間違いない、オリハルコンだ。
だがどうやって手に入れた?
あんな物、装飾まで細かく刻まれているリングなんて、ドワーフ族しか作れないぞ?
「どうやって手に入れたんだ? そんなリング……ドワーフにしか――」
「そのドワーフから買ったのさ。ドワーフにも俺等人間と同じ、爪弾きにされた奴等がいるんでね、そいつらに言ったら高額で売ってくれたぞ」
「何てことだ……だから入れたのか」
あの誇りを大事にするドワーフにも、そんなのがいるとは。
だからオリハルコンを持つという、その条件を満たせたのか。
――だが危うい。
入いれたという条件を満たせているが、 彼等はまだスライム達の扱い。
そして怖さを分かっていない。
武器もそうだが、つるはしが一番の理由だ。
彼等・オリハルコンスライム――略して<オリハルスライム>達を舐めている証拠だ。
「フンッ……オリハルコンを半ば独占している奴に言われたくないな」
「独占している訳じゃない。私も、今までオリハルコンを貰って来た者達も、彼等を尊重している。だから貰えてきただけだ」
「つまり、スライム如きに媚を売ってんのか? ダンジョンマスターの異名を持つ者が、情けねぇ話だな」
そういう話じゃない。
これは――オリハルコンを手に入れるのに情けない云々は関係ないんだ。
オリハルスライム。彼等に酷い扱いをしてはいけないんだ。
「好きに言ってくれ。だが、君達ではオリハルコンを手に入れる事は出来ないよ? それとも依頼を無視して私から強奪するかい?」
『――!!』
私の言葉にエミックも口を開けて、闇の腕を出した。
そして拳を素早く出し、ジャブで彼等を牽制している。
「チッ……あのミミックもいるのか」
バサカはバツが悪そうな表情をして、頭部から嫌な汗を流している。
そりゃそうだ。私にだって力で負けて、最後はエミックにぶっ飛ばされたんだ。
きっとプライドもそうだが、軽くトラウマになっているんだろうな。
「バサカさん、どうしますか? あのおっさんを俺等で抑えて、他の連中にスライム達を狩らせますか?」
「そうするしかねぇな。ビビッて、何の成果も得られなかった。――そんな事は口が裂けても言えねぇよ」
そりゃ仮にも五大ギルドだ。
ただでさえ近年、彼等の名声が揺らいでいる。
そんな中で冒険者一人にビビったと広まれば、五大ギルドの名も失う筈だ。
けどそれだけじゃない。
「それもリスクがある筈だよ? 依頼しておきながら冒険者を襲撃、それと強奪。それはすれば冒険者からの信用を失う。いくら五大ギルドでもダメージが大きい筈だ」
「それでもオリハルコンと天秤に掛ければ安い買物だ。評判、噂、そんなもんは金で幾らでも買えるんだからな」
そう言って彼等は武器を構えた。
バサカは巨大な斧だ。だが他も接近戦用ばかりで弓はない。
それなら助かるな。
私は『力量の瞳』を開眼させ、彼等のレベルを調べてみた。
バサカ:レベル57
冒険者:32
冒険者:30
冒険者:42
冒険者:28
成程、並以上は揃えて来たか。
少なくともつるはしじゃないく、武器を構えた連中のレベルは分かった。
「ほう、それがあんたのトレードマーク――赤髪と金色の瞳って訳か。特殊な魔眼と言ったところか?」
「そんな大層なものじゃないさ。――エミック! スライム達を守ってくれ!」
『~~♪』
私からの言葉にエミックはスライム達の前に立ち、更にジャブを高速で放っていた。
――そして『+Level5』発動。
ルイス:レベル62
これでバサカ達を上回ったぞ。
それに彼等は口では大口を言っても、私やエミックを恐れている様だ。
バサカもそうだが、皆構えは硬いし、顔色に恐れが混ざっている。
動きも露骨にぎこちないな。
これなら人数差に気を付ければ恐れることはない。
私は両腕のガントレットブレードを構え、レベル相応の魔力を解放した。
「なっ! なんて魔力だ……!」
「これが……ダンジョンマスター!」
私の姿を見て、彼等は僅かに後退りする。
だが武器は構えたままで、まだ油断はできない。
「クソッ……全員で一気に仕留めるぞ」
どうやらバサカは戦う気の様で、斧を握りなおしていた。
やはり五大ギルドの幹部なだけはあるか。
彼等が退くことは無い。
そう判断して、私は先制を仕掛けようとした。
――時だった。
『カチプリィィン!?』
「なっ!?」
それは意識外の出来事だった。
私の背後以外にもまだオリハルスライムが残っていたんだ。
離れた場所でいて、私が気付いた時には既に『永遠の黄金船』の者が、つるはしは振るい上げていた。
「よっしゃ! まずは一匹!!」
「あぁっ!! まずい!!」
駄目だ! 攻撃させちゃいけない!
もしさせたら多分だが、キングが怒る!
「駄目だ!!」
私は叫びながらそちらへ飛び出そうとした。
だがそれよりも先に、バサカ達が先回りし、私の行動を妨害してきた。
「させるかよ! 折角のお宝採取! 邪魔をさせるかぁ!!」
「そんな事をしてもオリハルコンは手に入らないぞ!」
私は必死に叫んだが、もう遅かった。
つるはしを持った者は、泣き叫ぶオリハルスライムへつるはしを振り下ろしてしまった。
『カチプルルルルン!!?』
オリハルスライムの鳴き声が木霊した。
同時に振り落としたつるはしは、オリハルスライムに直撃した瞬間に折れた。
「なっ!? つるはしが折れた!?」
「ば、馬鹿な! あんなスライムで僅かでも欠けないのか!?」
だから言ったろ。
つるはし如きじゃ、オリハルコンは手に入らないって。
『カチプルルルルン!!!』
しかも無事だったといえ、泣き叫び続けるオリハルスライム。
その子をエミックが、手招きして近くに呼んで、撫でながら慰めている。
「バサカさん! どうりゃ良い! つるはしじゃ無理だぞ!?」
「ま、まさか……くそっ! おいダンジョンマスター! どうやったらオリハルコンは手に入る!!」
「もう無理だよ」
叫ぶ彼等へ、私は非常だがそう言った。
オリハルスライムに攻撃した。その時点でもう無理なんだ。
「逃げることをオススメするよ。そろそろ来る筈だ。仲間の鳴き声を聞いてね」
「なに? 何が来るって――」
『カチブラァァァァァァァ!!!』
あぁ、やっぱり手遅れだったか。
私がバサカ達へ逃げる事を助言した瞬間、怒号の様な声が洞窟内に響く。
それを聞いて私とエミック。そしてオリハルスライム達は壁際に寄った。
同時に揺れる洞窟内。
巨大な質量が動いている様に激しく揺れている。
「なっ! なんだこの声は!?」
「キングだよ……キング・オリハルスライム」
「キング? キングと言っても、所詮はスライムの――」
『カチブラァァァァァァァ!!!』
バサカがそこまで言った時、キングは洞窟の奥から現れた。
通常の100倍はデカイであろうキングが。
頭にオリハルコン製の王冠を付け、オリハルコン製の髭を付けた巨大なオリハルスライムだ。
キング・オリハルスライム:レベル88
もうおっさん、知らないからね。
こうなったら敵を排除するまで止まらないよ。




