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<15万PV達成>おっさん冒険者+レベル5  作者: 四季山 紅葉
第十三章:オリハルコン
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冒険者+5:おっさんとオリハルコン(1)

 嫌な相手が来たものだ。


 五大ギルド『永遠の黄金船(エルドラド)


 金にものを言わせて店や商会を買い漁り、勢力を拡大した連中。

 ギルド長を始めて見るが、私個人として好きな相手じゃない。


 しかも目的は『虹鉱石』と『オリハルコン』と来たもんだ。

 厄介事の匂いしかしないな。


「まぁオリハルコンは後回しにね。まずはその『虹鉱石』をいい値で買いましょう?」


「ふざけるな! これは私と師匠が命がけで取って来たものだ! 元々の依頼人でもない貴様等に渡す理由はない!」


「クロノの言う通りだ。本来、依頼金は依頼した冒険者が死んでも戻らず、リスクが多い場合もある。――だから君達は他所でも依頼をせず、確実にブツを持ってきた私達に接触してきた。違うか?」


 恐らく、このギルドを監視していたのもこの連中だ。

 確実に『虹鉱石』を持って帰ったギルドを探していたんだろうな。


「悪いが帰ってくれ。君達のやっている事はハイエナと変わらない!」


「酷い言いようね。でも私相手にそんな口を利くなんて、流石は『白帝の聖界天』を敵に回した男かしら?」


「それを知っているなら話は早い。私は五大ギルドを恐れてないよ。――さぁ、帰ってくれ」


 五大ギルドはとっくに腐ってる。

 その中でこの連中は、その筆頭だろうな。


 白帝の聖界天は後継者が駄目だったが、それでもこの連中よりはマシだ。


「そんなに嫌わなくて良いでしょ? 言ったはずよ、いい値で買うって。――バサカ!」


「はい」


 クシルの言葉にバサカと呼ばれた巨漢の男は、大きな麻袋を私達の前に置いた。

 そして中身を目の前でぶちまけると、中からは大量の金貨が出てきた。


「なっ! あれ全部金貨か!?」

 

「す、すげぇ……! 1000以上はあるぜ」


 確かに圧巻だ。だが所詮はパフォーマンスでしかない。

 こんな圧巻な光景を見せれば、今の彼等の様に反対していた者の心象すら変えてしまう。


「これでどう? 足りなら、あと5袋は追加できるわよ」


「5袋!?」


「す、すげぇ……!」


 黒の園のギルドメンバーの数名は既に目が金貨で一杯になっているな。

 だが甘い。クロノはそんなでなびく男じゃないぞ。


「何袋でも同じだ! お前達のやり方が気に入らない! その金貨ごと帰れ!」


 よく言ったクロノ! それでこそ私の弟子だ!

 もう何人も見てきたからね。彼女達のやり方で夢を見せられて、そのまま駄目にされた人達を。


 この金貨だって怪しいものだ。

 『虹鉱石』以上の対価を求めるに決まっている。


「頑固ね……けど、金貨を払った以上、もう良いでしょ?――バサカ!」


「はい」


 バサカと呼ばれた男は、ゆっくりと『虹鉱石』へ近付いていく。

 まさか、このまま持っていく気か!?


「待て! そんな事は許さん!」


 私が止めに入ろうとした時、それよりも先にクロノが動いた。

 『虹鉱石』の前に飛び出し、スキルを使おうとしている。

――時だった。


「邪魔だ。――剛拳力(ヘビーパワー)!」


 男の腕に魔力が篭った。

 質の高く、重い一撃が来る。


「下がれクロノ!!」


 私は咄嗟に叫んで腕を伸ばしたが、間に合わない。

 クロノはスキルと出したと同時に吹きとばされてしまった。


「ぐわっ!?」


「クロノ!?」


「ギルド長!?」


 私とギルドメンバー達が一斉にクロノを心配したが、クロノは最後は受け身を取っていた。


「……問題ありません!」


 問題ないって言うが、くそっ! 好き放題してくれる。

 クロノも疲労しているから、あんな攻撃を受けてしまったんだ。


 だが、そんなクロノを見てバサカと呼ばれていた男は笑っていた。


「フフフッ……オリハルコン級ギルド長が、この程度か」


「何を……!」


「貴様! ギルド長を侮辱するか!!」


 侮辱する言葉にクロノとギルドメンバー達が怒りの声をあげている。

 だが駄目だ。クロノ達に手を出させれば、きっと奴等の思う壺だ。

 

 私は咄嗟に間に入り、腕を出して制止させた。


「クロノは疲労しているんだ。君達と違って、彼は楽を覚えなくてね……師としても心配だ」


「なんだと……? ダンジョンマスターよ、異名を持つ貴様といえど喧嘩を売るなら容赦はせんぞ」


「試してみるかい?」


 私はそう言ってバサカの前に腕を出し、手を広げた。

 ちょっとした力勝負だ。


「面白い……!」


 バサカは乗ってきた。

 私の倍以上の掌で私の手を掴むと、私も彼の手を掴んだ。


 そして同時に握りつぶす様に力を入れた。


――だが悪いな。エミック、力を借りるぞ! スキル発動『+Level5』だ!


 私はレベルを変化させた。

 対象はエミックのレベル84だ。そこから+5――レベル89だ!


「ぬぅっ!!?」


「どうした力自慢……こんなおっさん相手に余裕がないぞ?」


 バサカから大量の汗が流れ始めた。

 だが容赦はしない。弟子に手を出されて黙っている訳にはいかないんだよ。


「何をしているバサカ! 早く終わらせなさい!」


 クシルは焦った様にそんな事を言うが、流石にレベル差があり過ぎるぞ。

 

 そして技量もだ。

 私は相手が力を入れずらい態勢へと持っていき、最後にこれでもか力を入れた瞬間、バサカは叫んだ。


「ぐああぁぁぁ!!? ま、待て! 待ってくれ!!」


「これ以上は、いたぶりか……」


 私はサディストじゃない。

 弟子に手を出されたが、一線を越える気はない。


 私が手を放すと、バサカは掴んでいた左腕を抱えながら膝を付いた。

 呼吸は乱れ、彼のスキンヘッドから大量の汗が流れていた。


「何をしているバサカ! 早く『虹鉱石』を!」


「っ! は、はい!」


 バサカはすぐに立ち上がって『虹鉱石』を奪おうと手を伸ばした。

 しかし、それよりも先に『虹鉱石』に触れるものがいた。


『~~♪』


「エミック!?」


 それはエミックだった。

 エミックは口を開けて闇腕を出すと、スッと残った『虹鉱石』を根こそぎ口の中に入れてしまった。


「なっ! なんだこのミミックは!――この野郎!!」


 バサカは怒りに任せ、エミックに殴りかかった。

 だがそれは無謀だ。よりにもよってエミックを相手するのは――


『――!』


 そして案の定、エミックは闇の腕を出し、殴り掛かってきたバサカを逆に殴り飛ばしてしまった。


 バサカはそのまま入口から外へと吹っ飛んでいき、最後は大きな音が聞こえた。

 

 多分だが、壁に思いっきり激突したんだな。


「なっ! バサカ……!」


「マジか……! バサカさんはギルド長の右腕で、最強のギルドメンバーだぞ!?」


「それを……! あんなおっさんとミミックに!?」


 成程ね、所謂副ギルド長的な立ち位置だったのか。

 彼が吹っ飛んだ事で、クシルと残りの『永遠の黄金船』の者達の様子が変わった。

 

 恐れる様に、思わず後退りしていた。

 良し、やるならここだな。


「さてどうするメアリギルド長殿? やり合うなら私個人が相手をする。だが忘れるな。『白帝の聖界天』はケジメを付けたから許したんだ。君達はどうケジメを付けるか楽しみだ」


「うっ……わ、分かったわよ! 降参よ!――全く、本当に五大ギルドを恐れてないなんて。その金貨は慰謝料代わりにやるわ! 『虹鉱石』も諦める!」


 よしよし、流石に引き際は分かってるな。

 そこは流石は商売人ってところか。


「ふぅ……なら正式なら依頼ならどう? ダンジョンマスター。オリハルコンの回収を依頼するわ!」


「オリハルコンか……あれは別に私じゃなくても採れる筈だ。最悪、ドワーフに頼めば良いだけだ」


 世界中の鉱石を扱えると言われるドワーフ族。

 彼等ならオリハルコンぐらい取って来てくれるし、それか売ってくれると思うが。


「それが出来たら苦労しないわよ……訳あって、ドワーフ族には頼めないのよ」


「怒らせたな彼等を」


 気まずそうに顔を逸らすクシルを見て察したよ。

 

 確かに職人気質の多いドワーフ族だ。

 金払いだけ良い連中は平然と嫌うだろうな。


 信頼関係、彼等と商売・協力するならまずそこからだよ。


「他の冒険者は?」


「依頼したわよ……けど皆、貴方の名を出すのよ」


 連中め、面倒くさがったな。

 確かにオリハルコンの採取は特殊過ぎるが、全くもう。


「……量は流石に確約できないよ?」


「それでも良いわ……全く、伝説の物質オリハルコン。それの採取を依頼しても涼しい顔をするなんて。これがダンジョンマスターって事かしら」


 そう言ってクシルは指を鳴らすと、後ろからギルド員達が麻袋を持ってきた。

 

「依頼金よ。量次第じゃ倍出すわ」


「こんなに要らないって……この程度で十分だよ」


 そう言って私は麻袋の中に手を入れ、6枚程金貨を手に持った。


「欲がないのね」


「ダンジョンで欲を持つと早死にするからね。基本ルールだよ」


「あっ、そう」


 そう言ってクシルは麻袋を回収すると、そのまま他のギルド員達を引き連れて出て行った。


 やれやれ、ようやく一息つけるよ。

 そう思いながら私はクロノの方を見た。


「大丈夫か、クロノ?」


「えぇ……しかし、良いんですか? 確かオリハルコンの採取は――」


「まぁ何とかするさ。気分次第だけどね」


 オリハルコンの採取。

 それは本当に時の運とも呼べるだろう。


 だから危険度というよりも、難易度が安定しない代物だ。

 だがそれだけの価値はある。


 私の両腕のガントレットブレードもそうだし、業物の大半はオリハルコン製だ。

 

「全く、休めると思ったが……準備次第ですぐに出ないとな」


 全く、36歳に無理をさせないでくれよ。

 断れない私も私だけどさ。


 そんな事を思いながら、二日後――私はオリハルコンの採取へ向かうのだった。

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