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俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


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夢の残り香

「あ、おい!? それは俺ちゃんが育てたタマネギだぞ!? 何食ってんだよ!」


「ウオーッホッホッホッホ! ニオブさんは相変わらず小さな事にこだわるのですね。そんなに食べたいなら、こちらをどうぞ」


「生じゃねーか! そのトロトロ具合にするのに、俺ちゃんがどれだけ火加減に気をつけたか――」


「まあまあニオブ様。こちらの焼きトウモロコシもいい感じですわ」


「レヴィも意地悪しないの! ほら、一緒に食べましょ」


「英雄君、それもういいんじゃない?」


「ですね。うわー、口の中でとろける……凄くいいお肉だなぁ」


「お気に召していただけましたか? そちらは本日のために特別に取り寄せた肉で、とても貴重な……はて? 何故そこまで貴重な肉を用意したんでしたっけ?」


「海外でバーベキューは、普通に特別だよー」


 快晴の空の下、皆が笑顔でバーベキューに興じる。そんな光景を一歩引いたところから剣一が眺めていると、不意に紙皿に肉を山盛りにしたディアが近づいてきて声をかけた。


「もぐもぐ……どうしたのじゃケンイチ、食わぬのか?」


「いや、食うけど……てか、お前は食い過ぎだろ! 何だよその肉の山!」


「カッカッカ、戦った後は腹が減るものなのじゃ。それに肉祭りをやると約束したじゃろう?」


「っ!? ディア、お前記憶が……!?」


 驚きに目を見開く剣一に、ディアがペロリと大きな壺焼きカルビを飲み込んでからニヤリと笑う。


「平行世界を渡る握神竜の力が、残滓とはいえ残っておるからじゃろうな。おそらくこの世界で……いや、あらゆる世界において、ワシとお主だけウロボレアスのことを覚えているはずじゃ。


 残念じゃったのう。本来ならお主は、世界を救った勇者としてもてはやされておったのじゃろうが」


「そう、だな……」


 ディアの言葉に、剣一が軽く俯いて頷く。すると今度はディアの方が驚きの表情を浮かべた。


「うむ? ビックリしたのじゃ。自分で言っておいて何じゃが、お主はそういうのにはあまり興味がないと思っておったのじゃが……?」


「あー、違う違う! 別に俺が有名になりたいとかじゃなくて…………ウロボレアスのこと、誰も覚えてねーのは、ちょっとこう……寂しいかなって」


 ウロボレアスのしでかしたことは、とても許容できるものではない。加えて自分が見ていない場所でも、きっと世界中に大きな被害が出ていたであろうことも想像に難くない。


 だがそれでも、己の存在全てを忘れられてしまうというのは、あまりにも寂しい。そう告げる剣一に、ディアは優しい微笑みを向ける。


「お主のその優しさを、ワシは心から誇りに思う。ならばこそ、お主に倒されたならウロボレアスも本望だったじゃろうて。


 皆ではなくても、お主は覚えておる。彼奴にはそれで十分じゃろう」


「……そうだな」


 剣一とて、人や物が黒い火に塵と変えられる光景を思い出して欲しいわけじゃない。餞は己の胸の内に。そう考える剣一に、親友から声がかかる。


「おーい、剣ちゃん! リンゴ焼いたんだけど、食べる?」


「焼きバナナもあるよー!」


「え、もうデザートかよ!? 俺まだ全然肉を食い足りねーんだけど」


「心配なさらずとも、まだまだお肉も沢山ありますわ」


「でもずっと肉ばっかりは飽きるでしょ? 味変よ味変! 肉肉野菜デザート肉よ! アイスだってあるんだから!」


「流石にそれは最後にしとけよ……」


 エルの言葉に苦笑しつつ、剣一は仲間の側に戻る。すると祐二がホイルの上に置かれたリンゴを指差し、剣一に頼み込んだ。


「じゃあ剣ちゃん、悪いけどこのリンゴ、スパッと六等分に切ってくれない? 普通のナイフで切るとグズグズになっちゃうけど、剣ちゃんならいけるでしょ?」


「当然! んじゃ、早速…………?」


 世界を喰らう大ミミズすら両断した剣が、焼きリンゴを斬れないはずがない。剣一は軽く意識を焼きリンゴに向けたが……何故かリンゴは微動だにしない。


「あれ? 何でだ?」


「剣ちゃん、どうしたのー?」


「いや、何か斬れねーっていうか……悪い、剣使ってもいいか?」


「そりゃいいけど、潰さないようにね」


 祐二に断り、剣一は腰に下げていた剣を構える。それをそのままスッと振り下ろすと……刀身の当たったリンゴは、見るも無惨にべちゃっと潰れてしまった。


「あっつ!?」


「ちょっと、ケンイチ!? アンタ何やってんのよ!?」


「いけません! すぐに回復魔法を……え?」


 飛び散ったリンゴが剣一の腕につき、慌てて聖が回復魔法を使おうとする。だがどういうわけか、聖の魔法が発動しない。


「魔法が発動しない!? どうして……!?」


「剣ちゃん、こっち! まずは水で流してから……ヒール!」


 動揺する聖をそのままに、近づいてきた愛が火傷の部分を水で流してから回復魔法を発動する。するとそちらは問題なく効果を発揮し、剣一の腕にできかけていた軽い火傷はあっという間に治ってしまった。


「ふぅ、よかった。すぐ対処したから、これで平気なはずだよ」


「ありがとなメグ。でも今のって、一体……?」


 不審げに顔をしかめながら、剣一は改めて周囲を見回す。白い雲の漂う青い空は平和そのもので、スキルを封じる紅い空も、全てを焼き尽くす黒い火も存在しない。


 というか、愛のスキルが発動した時点で、ウロボレアスの「スキル封じ」が残っていたというのは考えづらい。だというのに何故自分や聖のスキルは発動しなかったのか?


 考えてはみたものの、剣一にはわからない。振り向いてみたが、ディアも不思議そうに首を傾げている。


「なあ祐二、祐二はスキル使えるか?」


「え? どうだろう? 槍なんて持ってきてないから、ちょっとわかんないな。むしろ何で剣ちゃんは剣を持ってきてるの?」


「えっ!? あー、いや、それは…………な、何となく?」


 剣一的にはここは決戦の地だったので、武器を持ってこないなどあり得ない。が、ウロボレアスがいなくなったことでただのバーベキュー会場になったのなら、確かに武器を持ってくることの方がおかしい。


「剣ちゃんって、時々そういうことあるよねー」


「うぐっ!? ちが、俺は…………」


「あの、常在戦場って感じで、僕はいいと思います!」


「英雄……ありがとう…………」


 必死にフォローしてくれる英雄に、剣一は微妙に引きつった笑みで答える。そこでふと思いつき、剣一は英雄に剣を渡した。


「なら英雄、これでちょっとスキル使ってみてくれるか?」


「いいですよ。それじゃ、スラッシュ! ……あれ?」


 剣を振る英雄だったが、やはりスキルは発動しなかった。そのまま二度三度と繰り返すも、結果は同じ。


「本当に不思議だね。剣ちゃんも英雄君も聖さんもスキルを使えないなんて……でもじゃあ、何でメグだけ使えたんだろ?」


「私と英雄様だけなら共通点もあるのですが、剣一様も使えないとなると……」


「ねえレヴィ、どういうことかわかる?」


「流石にこれだけだと何とも言えませんわね。もう少し情報が欲しいところですわ」


「レヴィちゃんとかニオブちゃんは大丈夫なのー?」


「ウェイ? 俺ちゃん達ドラゴンの力は、技神の加護じゃないからなぁ。とはいえ一応……ウェーイ!」


 ニオブが声を上げると、その甲羅がピカッと光る。つまりドラゴンの力は普通に発動できるということだ。


「ワシの方も問題ないのじゃ」


「そっか。ディアの転移がねーと帰れねーから、そこは安心したけど……でもじゃあ、本当に何なんだ?」


「「「うーん……?」」」


 その場の全員が、首を捻って考え込む。だがそうして場が沈黙に満ちたところで、徐に剣一が声をあげた。


「……ま、今は別にいいか。日本に帰っても続くようだったらまた調べりゃいいし、とりあえず冷めないうちに肉食おうぜ肉!」


「それもそうだね。場所的なものの可能性もあるしね」


「そうじゃそうじゃ! 今は肉の方が大事なのじゃ!」


「ディアさん、まだ食べるんですね……」


「沢山ありますから、お代わりしても大丈夫ですわ」


「アンタ達って、本当にお気楽ねぇ」


「ならエルちゃんは食べないのー? 焼きバナナ、トロトロだよー?」


「うっ……た、食べるわよ! ねえメグミ、アタシにもそれ頂戴!」


「俺も食おうかな。焼きバナナなんて初めてだぜ」


「あら? 剣一様、何か落としましたよ?」


 歩き出した剣一のポケットから、不意に小さな板がポロリと落ちた。普段はしっかり鞄の底に入れているのだが、決戦においては鞄すら邪魔だと判断し、とはいえ身分証として持ち歩かない訳にもいかないので、ポケットに突っ込んでいた協会証(ライセンス)だ。


「……え!? 剣一様、これは!?」


「ん? 何……は!?」


 そこに刻まれていた内容に、誰よりも剣一自身が衝撃の声をあげた。

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