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俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


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影からの襲撃者

『目標の家に到達。これより侵入を開始する』


 彩玉(さいたま)県北部にある、閑静な住宅街。何の変哲も無い民家を前に、体にピッタリと張り付く黒いスーツを身に纏ったあからさまに怪しい二人組の男の片割れが、インカムに向かって小声で囁く。それに対する返答はないが、問題はない。やるべき事は既にわかっているのだ。


『行くぞ(フゥイ)。魔導具の残魔力をチェックしろ』


『問題ありません、(イン)。まずは正面玄関に回ります』


 短く声を掛け合い、二人が剣一の実家の玄関前に移動する。少ないとはいえ人目も人通りもあるこの場所で二人の存在が露見していないのは、ミンミンも使っていた魔導具を彼らも使っているからだ。


 無論、五龍の四番隊……通称陰龍と呼ばれる隠密部隊である彼らなら、こんなものよりずっと高性能な魔導具の使用も許可されていた。だが強力な魔導具はそれだけ魔力消費も大きくなるし、何より少し前に、アメリカがこの近くで魔力感知網を広げていたという情報を得ている。


 故に彼らはあえて性能の劣る魔導具を選んだわけだが、その結果が功を奏したのか、今のところ誰に気づかれることもなくこの場に辿り着くことができていた。


『どうだ?』


『施錠されていますが、解錠は容易です。ただその際に大きめの音がなるのは防げません。それにこのタイプの引き戸ですと、開閉時にも多少の音が出るのはどうしようもないかと』


 剣一の実家の鍵は単なるシリンダーキーだったので、彼らからすれば目を瞑っていても開けられるような難易度だ。だが回転ではなく上下にスライドさせることで解錠と施錠を切り替える仕組みだったのと経年劣化により動作に引っかかりがでていることで、動かせばガチャンと音がなってしまう。


 加えて横引きの扉は、レールを滑らせて開くという関係上、こちらもやはり音が出る。単純だからこそ解決策のない問題に、銀と呼ばれた方はわずかに考えて決断する。


『では一瞬だけ隠蔽結界を解除し、遮音結界に変える。一秒でいけるか?』


『問題ありません』


『よし。カウント三……二……一……』


 気配を探って周囲に誰もいないことを確認した銀の声に合わせ、灰が鍵穴に金属の棒を突っ込んで動かす。それがゼロになると同時に二人の姿がこの世界に現れたが、それが誰かに見られるより早く扉が開かれ、一秒後には閉じた扉の向こう側にて再び二人の姿が消えた。


『潜入成功。これより目標の探索に入る』


 本部に報告を入れ、二人が家の中を歩き出す。するとすぐに居間でリラックスしながらテレビを見ている鞘香の姿を発見することができた。


「うわぁ、この人また不倫したのね。この人もそうだけど、やる方もなんで明らかに既婚者だってわかってる相手と不倫するのかしら?」


『目標を発見。これより確保に入る』


 ソファに座りお茶を飲む鞘香に、見えざる黒い手が迫る。だがその足に、不意に硬い何かが触れた。


「おいおい、無理矢理はよくないぜ?」


『っ!?』


『灰!』


 さっきまで何もなかった場所に突如として出現した、甲羅にハートを描かれた白い亀。それが言葉を口にした瞬間、灰の姿がその場からかき消える。その事実に銀は一瞬で意識を戦闘モードに切り替え、懐から暗器を捕りだし構えようとしたが……


『……っ!? ど、何処だここは!?』


『銀!? これは一体……!?』


 飛ばされたのは、何処ともわからぬ白い空間。戸惑う二人組に、白い亀が楽しげに声をかける。


「俺ちゃんのパーティ会場にようこそ! 招待状ナシでも歓迎しちゃうぜ、ウェーイ!」


『まさか強制転移!? 本部、応答しろ! 本部! 灰、そっちはどうだ?』


『駄目です、繋がりません。というか、ここは一体……?』


「ウェイウェイ、無視すんなよ! せっかくいい感じに決めたのに……ま、いいけどさ。それじゃお二人さん、シャルウェイダーンスとしゃれ込もうぜ? ウェーイ!」


『こ、れは…………!?』


『……覚悟を決めろ、灰。これより脅威の排除に移る』


 二人の前で、白い亀の姿が光り輝く巨大な竜へと変わっていく。何も気づかず煎餅を囓る鞘香とは裏腹に、二人の諜報員は無謀な戦いに挑むべく、その手に武器を握るのだった。





『目標を発見。しかし予想通り、拉致は困難だと判断する』


 時をほぼ同じくした、県内某所。とある一般企業に侵入した別の部隊員は、デスクについて仕事をしている剣一の父、忠蔵の姿を確認していた。


 ちなみにだが、こちらが使っているのは視覚どころか認識を阻害して存在を隠す、最上位の魔導具だ。本当に重要な施設ならば魔力系のセンサーに引っかかり一瞬で居場所がバレる代物だが、一般企業であるここには魔力センサーなど設置されていないので、今のところ誰にも気づかれていない。


 ただ、如何に高性能な魔導具とはいえ、無制限に認識を阻害することなどできるはずもない。自分以外の者には影響を与えられないし、物理的な接触や大きな音を立てるなどで違和感をもたれてしまった場合は、割とあっさりと看破されてしまう。


 なので、周囲に沢山の人がいるなか、仕事中の忠蔵を拉致することなど不可能。黒ずくめの屈強な男が部屋の隅で誰にも触れられないように窮屈そうに身を縮める姿はもし見えていれば滑稽であっただろうが、本人は細心の注意を払って状況を見ていた。


「ふーっ。さて、少し休憩するか」


 と、そこで仕事に一区切りついた忠蔵が、席を立って休憩スペースへと向かう。男がそれに追従すると、幸か不幸かそこにはちょうど誰もいなかった。


「さてさて、今日はどれにしようかな? 毎日コーヒーだと胃が荒れるっていうし、たまには別のものでも……」


 自販機を前に、忠蔵が指を彷徨わせる。そんな無防備な背中に対し、男が迫るが……


「残念、大はずれなのじゃ」


『っ!?』


 男の視界が途切れ、辺りが暗闇に包まれる。だが男は慌てず騒がず、忍ばせていた暗器を手に構える。


「ほぅ? この状況で動揺せぬとは、お主なかなかの強者じゃな?」


 そんな男の背後から、まったく緊張感のない声が響く。男が慌てて振り向くと、黒い黒い暗闇にポッとわずかな光が灯り、そこから人間と同じくらいの大きさの、だらしない腹をした黒いドラゴンが姿を現した。


『……………………』


「むぅ、ダンマリか。ワシの知る強者であれば、こういうときは堂々と名乗りをあげたりするのじゃが……まあ仕方なかろう。猫にすら至れぬ小鼠に矜持を求めたりはせぬのじゃ」


『……………………』


 あからさまな侮辱と挑発。しかし男は動じない。何故なら彼こそ「(ジン)」の名を与えられた、陰龍のトップなのだ。


「にしても、セーシュウの奴が珍しく読みを外したと思ったのじゃが、その気配……お主も何者かに憑かれておるな? じゃが操られているというわけではなく、単純な能力強化? おそらく元々持っている気質や思想が、操るまでもなくその者にとって都合のいいものだったからじゃろうな。


 しかしそうなると、解呪するというわけにもいかぬ。これは困ったのじゃ……ん?」


 ただ立っているだけで自分の情報が引き出されている。目の前の存在の脅威度が極めて高いと判断すると、金はかするだけで脳を焼き切る猛毒を纏った刃を振るう。だが鋭く研がれた鏢と呼ばれるその武器が、竜の鱗に突き立つことはない。


 当然だ。人類最強を自称する剣士の全力の一撃ですらほんのわずかな傷をつけるのが精一杯だったのだから、如何に一部隊のトップとはいえ、暗殺者の一撃如きが届くはずもない。


 それにもし奇跡的に傷がついたとしても、通常の生物が死ぬ程度の毒が、真なる竜に効くはずもない。つまり金には、最初から勝ち目など微塵もなかった。


『ならば…………?』


 見知らぬ場所に隔離され、攻撃が通じない相手と対峙した。この時点で勝機はないと悟り自決を選んだ金だったが、体内に仕込まれた骨まで残らず燃やし尽くすはずの魔導具が、どういうわけか発動しない。


 ならばと手に持った鏢でで己の喉を突こうとするも、喉に当たったのは己の手の感触。ここでようやくわずかな動揺を感じる金の目に映ったのは、右手で親指の爪ほどの大きさの赤い球を、左手で薄緑色の毒に塗れた刃を弄ぶ黒竜の姿であった。


「フンッ、自決などさせるはずがないのじゃ。生殺与奪は勝者の権利……負けたお主がワシからそれを奪おうなど、片腹痛いのじゃ」


『くっ……』


 ニヤリと笑う邪悪な竜に対し、金が小さなうめき声をあげる。それと同時に会社では、何も知らない忠蔵が冒険心を発揮して買ったジュースのまずさに「うぐっ」とうめき声をあげていたのだが、それは互いに知らぬことであった。

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