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俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


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ドリーム剣一フェスティバル

 その後、「いやー、久しぶりに男同士で語り合いたい気分だなぁ! ねえ剣ちゃん、今日僕泊まっていっていいかな?」と必死の形相で祐二に頼み込まれた剣一だったが、「おう、いいぜ!」と言おうとした瞬間、ディアと戦った時の一億倍くらいヤバい気配を感じて声が出なかった。


 その結果祐二は愛と一緒に普通に帰宅することとなり……ガッチリと腕を組んで歩く、いつもならちょっと羨ましい光景に、剣一は何故か「頑張れ祐二」と心の中で声援を送っておいた。


 気づけばすっかり夕方になっていたので、その後は冷蔵庫のありもので簡単な夕食を済ませ、風呂に入って身支度をしたら、剣一は温かいベッドに潜り込む。


 なお、ディアの寝床はフローリングの床である。もしディアが美少女になっていたならベッドを渡すことも吝かではない剣一だったが、一日で買い置きの茶菓子を全部平らげてしまうようなメタボドラゴンに対しては、タオルケット三枚を貸し出す温情が限界であった。


(にしても、結局何の解決案も出なかったな……マジでどうすっか……)


 差し迫ってるとまでは言わないまでも、将来に対する漠然とした不安。それを抱えて眠りにつく剣一の心は夢の世界へと旅立っていき……





「……はっ!?」


「やぁ、剣ちゃん」


 気づくと、そこはピンクのモヤモヤに囲まれた謎空間だった。声のした方を見ると、そこには見覚えのあるメガネが浮かんでいる。


「お前まさか、祐二か……? 何でメガネだけ?」


「ははは、やだなぁ剣ちゃん。僕の本体がメガネだからに決まってるじゃないか」


「そうなのか!? いやいや、祐二がメガネをかけ始めたのって、確か八歳の頃だったよな?」


「つまりそれが、パーフェクト祐二誕生の瞬間だったってこそさ。体なんて飾りだよ。偉い人にはそれがわからないのさ」


「そ、そうなのか……」


「さあ剣ちゃん。僕をかけるんだ。そうすれば僕の賢さが君に宿る。頭がよくなればきっといい解決法だって思いつくよ」


「確かに……じゃあ、いくぜ?」


「うん。来て、剣ちゃん」


 宙に浮かぶメガネにそっと触れると、指先から温もりが伝わってくる。剣一はそれを優しく摘まんで装着すると、その瞬間剣一のなかにドクンと熱い迸りが生まれた。


「うぉぉ! 来てる! 俺のなかに祐二が来てるぜ!」


「出ちゃう! 出ちゃうよ剣ちゃん! 僕我慢できない!」


 来るのか出るのかわからないが、とにかく剣一の体がパッと光に包まれる。そして次の瞬間、祐二と合体した(メガネをかけた)剣一の前に立っていたのは、白衣に身を包むもう一人の自分であった。


「フッフッフ、遂にここに辿り着いたか……」


「お、お前は!?」


「私か? 私はレベル二兆の天才スキルを持つジーニアス剣一……通称賢一だ」


「レベル二兆!? 半端ねーな!」


「フッフッフ、何せ天才だからな……では天才の私が、お前に素晴らしい解決法を教えよう」


 意味深な笑みを浮かべる賢一に、剣一はゴクリと唾を飲んでその言葉を待つ。


「ダンジョンの第三階層までしか入れない……ならばダンジョンの床を全て壊して一部屋にしてやればいい。そうすれば何処まで潜っても第一階層だぞ」


「なっ!? うぉぉ、何て斬新かつ画期的な解決法なんだ!」


 あまりに素晴らしい解決法に、剣一は思わず声をあげる。だがそんな剣一に別の誰かが声をかけてくる。


「待て!」


「お前は?」


 現れたのはタンクトップに半ズボンで、小麦色に焼けた健康そうな肌を無駄に強調しまくる自分。剣一の問いに、日焼け男が生野菜をバリバリ囓りながら答える。


「俺はレベル四京の健康スキルを持つヘルシー剣一! 通称健一だ!」


「お前も剣一だと!? 何て健康そうなんだ!」


「ハッハッハ、健康は全ての基本だからな! そんな俺が、お前に素晴らしい問題の解決法を教えよう!」


「どんなのだ!?」


「一つのダンジョンで稼ぎが足りないなら一〇〇個のダンジョンを回れ! 一〇〇個でも足りないなら一〇〇〇個回れ! 日本全国走り回ればそれだけ稼げる! 健康なら余裕だ!」


「おぉぉぉぉ…………確かに道理だ」


 足りないならその分増やせばいい。実に単純明快な答えに剣一が感心していると、また別の誰かが声をかけてくる。


「待て待て待てーい!」


「お、お前は誰だ!?」


 現れたのは蛍光テープがこれでもかと貼り付けられたねずみ色のツナギを着て、黄色いヘルメットと赤くて光る棒を持った自分。剣一の問いに、作業着の男は手にした棒を振りながら答える。


「俺はレベル二万の建築スキルを持つビルダー剣一! 通称建一だ!」


「お前も剣一なのか!? あれ、お前だけ微妙にスキルレベル低くないか?」


「仕方ないだろ! お前の脳みそで作れるのは豆腐ハウスが限界だ! サインコサインタンジェントだぞ! 接点tは出ないんだよ!」


「うぉぉ、何だか難しそうなことを言ってるぜ! それでお前はどんな解決法を知ってるんだ?」


 流石に三人目なのでやや巻きで問いかけると、建一がドヤ顔でその口を開く。


「簡単だ! ディアに頼んで新しいダンジョンを作ってもらえ! 全三階層の超高難易度ダンジョンがあれば、それで全部解決だろ?」


「っ!?!?!?」


 あまりにパーフェクトな提案に、剣一は言葉を失う。横を見ればジーニアスな賢一やヘルシー健一もまたウンウンと頷いている。


「流石は私だ……であれば入場料をとって、他の奴にも使えるようにするのはどうだろうか?」

「なかにドリンクサーバーも併設しようぜ! 野菜ジュース飲み放題だ!」

「ならいっそファミレスの地下をダンジョンにするか? あれなら全体的に四角いしな!」


 盛り上がる剣一達。その時オリジナル剣一のかけていたメガネが再び光を放つ。


「どうだい剣ちゃん。これが僕と剣ちゃんのコラボの結果さ!」


「流石だぜ祐二! これなら確かに問題は解決しそうだ!」


「……ならもう、僕がいなくても大丈夫だよね」


「祐二!? いきなり何を言い出すんだよ!?」


「僕がいなくなったら、少しだけ目元や耳回りが寂しくなるかも知れないけど……元気でね、剣ちゃん」


「待てよ祐二! 待ってくれ!」


 フラフラと飛び去ろうとするメガネを、剣一は必死に追いかける。しかしどれほど走っても、剣一と祐二(メガネ)の距離は離れていくばかり。


「祐二! 待ってくれ! 置いていかないで……一人にしないでくれ! 俺にはお前が必要なんだよ! 祐二! 祐二ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


 魂の叫びも虚しく、光るメガネがフッと消え去る。それと同時に剣一のなかに言い知れぬ喪失感が満ちて、思わずその場に崩れ落ちてしまう。その場で体育座りをした剣一は、寂しげに、しかし決意と覚悟を以て呟く。


「祐二。お前がいなくなったら、夢の世界ががらんとしちゃったよ。でも……すぐに慣れると思う。だから……心配するなよ、祐二」


 懐から新しいメガネを取りだし、剣一が装着する。それは祐二ではないけれど、メガネ補正によって剣一の賢さが五ほどあがって見える。なお平均値は五〇で、現在値は補正込みで三五だ。


「さあ行こう。新しい明日へ……っ!」





「……………………ふがっ!?」


 朝。目が覚めた剣一はむっくりと上半身を起こし、半分寝ぼけたままで周囲を見る。カーテンの隙間からは朝日が差し込み、近くの床ではディアが腹を出して仰向けに寝ている。


 へー、ドラゴンって丸まって寝るんじゃないんだな。そんなどうもいい感想が起き抜けの剣一の脳裏に刻まれ……


「…………よし、バイトしよう」


 生活費の稼ぎ方は、アルバイトをすることに決定した。

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