表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/175

清秋の説明

 その後聖によって呼ばれた大型のワゴン車に乗って、一行は剣一の家へと移動を開始した。アリシアにとって幸いだったのは、それに自分や聖だけでなく、剣一達も全員一緒に乗り込んだことだ。


(何だか訳ありっぽいケンイチ君はともかく、ユウジ君とメグミちゃんは明らかに一般人だし、これなら酷いことにはならなそうだけど……)


「あー、やっぱ車は便利だな。バスだと時間が合わないと全然来ないからなー」


「だよね。一時間に一本は割とキツいよね」


 暢気な会話をする剣一達を脇目に、アリシアは気を引き締める。程なくして車は都市部を抜け、人気の無い場所へと進み……そうして停車すると、全員がワゴン車から降りる。


「……ここが?」


 アリシアが降りた先にあったのは、生け垣に囲まれたごく普通の民家。草の壁の向こう側には奇妙なほどに音がなく、辺りは静寂に包まれている。


「ええ、そうです。おーい、帰ったぞー!」


 そんな家の門に、剣一は無造作に手をかけ開く。すると突然その奥から、聞き覚えのある声が響いてきた。


「ぐぅぅぅぅ……も、もう無理。お願い、助けて…………」


「っ!? ジミー!」


「うわっ!? ちょっ、アリシアさん!?」


 苦しげな仲間の声に、アリシアは剣一を押しのけて門をくぐり、家の中に入る。するとそこには……


「そんな泣き言知らぬ! ほれほれ、キリキリ働くのじゃ!」


「だから無理だって! 僕の手はマウスより重い物を持つようにはできてないんだよ!」


「……えぇ? 何これ?」


 変なドラゴンの着ぐるみを着た人物に、重そうなウッドチェアを運ばされるジミーの姿があった。





「…………なるほど? つまりこの人達はアメリカの軍人で、俺の家のことを調べてた、と?」


「ああ、そうだね。なので不法侵入ってことで、こうして一時身柄を拘束させてもらっているわけだ」


 全員が敷地内に入った後。集まった剣一達に、清秋がそう説明してくれる。ちなみにその背後では、今も二人の外国人男性が重そうなウッドテーブルを運んでいる。


「ひぃ、ひぃ、なんで僕がこんなことを……」


「情けない声を出すな、ジミー! だからお前はもっと体を鍛えろと言っているんだ!」


「まったく、人の家に無断で入り込んだ悪ガキ共が! せめて菓子折の一つも持ってくるのが礼儀じゃろうに!」


(不法侵入を菓子折で許しちゃ駄目だろ……)


 その二人を監督するディアに内心でツッコミを入れつつ、剣一が清秋の方に視線を戻す。


「あの、清秋さん。そもそもの問題なんですけど、何で俺の家がアメリカ軍に調べられてたんでしょうか?」


「ああ、それか。それは勿論、ディア殿の転移魔法のせいだよ」


「え? でもそれ、痕跡はどうにかしてくれるって話じゃなかったですか?」


 清秋の言葉に、剣一が驚きの声をあげる。一回目はともかく、二回目の転移魔法は清秋の要請により使ったものだ。なのにそれが原因でアメリカ軍に目を付けられたのではたまらない。


 するとそんな剣一の疑問に、清秋はまっすぐに目を見て答えてくれた。


「ではその辺も纏めて説明しようか。まず最初、ディア殿がアトランディアに跳んだ時の痕跡だが……これに関しては、この段階でならどうにでも誤魔化すことはできた。実際それだけならば、何の問題にもならなかっただろう。


 だが次……アトランディア王国を包む結界の破壊はどうしようもなかった。この世界にダンジョンやスキルが生まれて、まだたったの五〇年。世界中が気を張って調査をしているなか、あの規模の魔法現象は、流石に誤魔化しようがない」


「……………………」


 苦笑する清秋を前に、剣一の表情が猛烈にしょっぱいものに変わる。あの時の決断に後悔など微塵もないが、自分が盛大にやらかしたせいで誤魔化せなくなったと言われたら、剣一にできるのは「全部俺が悪かったです!」と全力で土下座することだけだ。


「どちらか片方ならば、問題なかった。だが絶対に無視できぬ巨大な反応があったことで、その直前に起きた小さな反応も、いつか必ず誰かが関連性を見いだし、調べようとする。


 ただ、それがいつかわからないのでは困る。延々と備え続けるのはとても大変だし、何より私は老い先短い身だ。『いつか必ず来る脅威』を、悠長に待てる年齢ではない。


 故に私は、蔓木君に頼んでディア殿に二度目の転移魔法を使ってもらったのだ。いつか誰かがではなく、それを探ろうとするものが、すぐに動き出すように。そうして餌を撒き、もっとも早く食いついてきたのが彼らだった……そうだろう、アリシア君?」


 清秋の視線が、剣一の隣に立つアリシアに向けられる。すると唯一肉体労働を免除された……あれは不法侵入に対する罰なので……アリシアが、小さくため息を吐いて頷いた。


「ええ、そうよ。私達はアトランディアに起きた大きな『次元震』と、その前後にあったわずかな次元震の関連を調査しに来たの。まさかそれが、転移魔法なんてとんでもないものだとは思わなかったけれど」


 転移魔法は、世界各国で研究されている夢の魔法だ。そしてそれが夢で終わっていないのは、ダンジョン内部に「転移罠」という実際に使える見本が存在するからである。


 故に転移魔法は「必ず完成する魔法」であり、何処の国がその先陣を切るかで世界のパワーバランスが変わると言われている技術だったのだが、それがこんなところであっさり使われていたという事実に、アリシアは頭を抱えてうずくまらないのが精一杯の心境であった。


「さて、それはそれとして、この件に関して、私は蔓木君には謝らねばならない。これは君のみならず、最悪の場合君の友人や家族を巻き込むような事態にもなりかねなかった。勿論私にできる限りの力でこっそり警護させてはいるが、それも絶対ではない。


 だから本来なら、事前に君に相談し、協力を仰がねばならなかった。それを怠った私を、どうか許して欲しい」


 そう言うと、清秋が深く腰を折り、剣一に向かって頭を下げた。見る者が見れば仰天どころの騒ぎではない行為だが、剣一はただお年寄りに頭を下げさせたという事実に慌て、清秋に声をかける。


「いえ、そんな! あーでも、なんで事前に説明してくれなかったんですか?」


「これは言い訳になってしまうかも知れないが、正直蔓木君に、何も知らないふりの演技ができるとは思えなかったのだ。特に今回君に接触してくるのは、プロの諜報員などが想定された。素人の演技など簡単に見抜かれてしまうだろう。


 そしてそうなると、逆に君の危険度があがってしまう。隠そうとするということは、隠すべき何かがあるということだからね。何も知らない状態でいてくれることが、一番君の安全に繋がると判断したのだ」


「な、なるほど……そういうことなら、まあ」


 説明されれば、剣一にも納得しかない。実際もし先にそんな話を聞いていたら、剣一はアリシアに対しもっと違う態度を取っただろう。そしてその場合アリシアがどう動くかは剣一には予想もできなかったが、それでも今の関係になれなかったのは間違いないだろう。


「おい、セーシュウよ! 終わったようじゃぞ!」


 と、そこで庭先に椅子やテーブルを並べる作業が終わったらしく、ディアが清秋に声をかけた。その背後では渋い顔をするロイとへたり込むジミーの姿がある。


「ハァ、ハァ、ようやく終わった……これジュネーヴ条約に違反してるんじゃない?」


「国際司法裁判所が、パーティの準備を拷問と認識してくれるかは微妙なところだな……それで? ミスター・シラサギ、次はどうすれば?」


「いや、それで終わりだ。後は本番の交渉が終わったならば、約束通り君達のことは解放しよう。さあ、アリシア君達の方に行くといい」


「……ねえロイ、それ交渉の結果によっては『肉体からの解放!』になったりしないかな?」


「知らん。我等はただ、偉大なるアメリカの軍人として恥ずかしくない態度を貫くだけだ」


 そんな事を話しながら、ロイとジミーがアリシアの側に歩み寄る。無事な仲間が手の届く距離までやってきたことで、アリシアはようやく安堵で胸を撫で下ろすと、そのまま清秋に向かって問いかけた。


「それでミスター? 一体貴方は誰と交渉するつもりなの?」


 こんな場を整えさせたのなら、誰かを直接招くのだろう。だがアリシアの知るかぎり、今日本に自分達の上官となるような人物はいない。ならば誰をと問うアリシアに、清秋は懐からスマホを取りだし事もなげに告げる。


「年寄りはせっかちでね。交渉するなら一番上と決めているんだよ」


「一番上……?」


 困惑するアリシアの前で、清秋は友の置き土産となる番号を、静かに押していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白い、続きが読みたいと思っていただけたら星をポチッと押していただけると励みになります。

小説家になろう 勝手にランキング

小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ