スキルポーション
ドートル国王が謝罪してから2週間が経った。
俺らは行きと同じ道でライナット王国に帰った。
行きは1日に一回くらいのペースでモンスターに襲われていたのに帰りは一回も襲われることがなかった。
不気味な程に静かだったので、何かあるんじゃないかと警戒していたが、結局何も起こらずライナット王国に着いた。
とりあえず今回の一件を教えようと思い、俺らは王城に向かった。
所々に学生の姿が見える。
ちょうど今は学校が終わった時間帯らしい。
貴族街に入ると、ドニエルと出会った。
「久しぶりじゃないか。一ヶ月もどこ行ってたんだ?」
そうか、行き二週間、帰り二週間で一ヶ月くらい学校に行ってなかったのか。
「そろそろ野外試験が始まるのに、準備しなくて大丈夫なのか?と思ったけど、君たちなら大丈夫か」
野外試験とは、指定の場所で一泊して、無事に帰ってこれたら合格となるテストだ。
3年生限定の、いわばこの学校のビッグイベントだ。
「もちろん準備しておくよ」
そう言って俺らドニエルと別れ、王城へ向かった。
久々に王城に行くが、見た感じ前来たときと変化はない。
畑とかなら変化もあるだろうが貴族街ならなおさらだ。
こうして俺らは王城についた。
門番は俺らをみるなり「長い旅路、お疲れ様でした」と言って通してくれた。
ついに顔パスでは入れるようになったか。
「皆さん!お帰りなさい!」
城に入るといきなりロースターが飛び出してきた。
そしてそのまま周りの目も気にせず俺に抱きついてきた。
「えへへ、豊さんの匂い〜」
俺もロースターを抱きしめた。
ロースターは少し驚いていたが、すぐにまた俺をギュッとした。
「よーし、お熱い二人の邪魔にならないよう俺らは帰るか〜」
ヤルタさんがわざとらしくそう言った。
「そうだね〜僕たちは帰ろうか〜あとは二人のお楽しみの時間だ〜」
トレディアもわざとらしくそう言った。
すると、ロースターは抱きしめるのをやめ、こほんと咳払いをした後、みんなに話しかけた。
「この度はご苦労様でした。ストライト公国の使者より大体の話は聞いております。今日はお疲れでしょうし、ここでおやすみください」
そう言ってロースターは俺らを部屋に案内した。
俺は悪いから寮に帰ると言ったら、ロースターに睨まれてしまった。
「そういえば、スキル覚醒のポーションは飲みました?」
ロースターが俺らにそう聞いてきた。
そう言えばそんなものもドートル国王から貰っていたな。
と言っても、俺とトレディアと莞爾はすでに覚醒してる。
アレスだけがまだ覚醒していない。
ただ、王虎のメンバーは誰が覚醒しているかはわからない。
ただ話を聞く限り、ヤルタさんは鑑定系のスキルが覚醒してそうだし、ミリアさんはおそらく『時短詠唱』のスキル持ちだろう。
『時短詠唱』とは、その名の通り、短い時間で魔術を放つのだ。
通常、こう威力の魔術は放つまでに時間がかかるが、ミリアさんの場合は一瞬で放つことができる。
莞爾の『多重詠唱』とは違うベクトルで最強格のスキルだ。
「俺らは全員スキル覚醒してるから、お前らが飲んでいいぞ」
ヤルタさんがそう言った。
「なら、私が飲みたいわ!」
アレスが間髪入れずにそう言った。
実際アレスは自分のスキルがいつまで経っても覚醒しないことに少し不安があったのだろう。
実際、俺らはスキルだけなら最強格。
周りに取り残される不安と言うやつだ。
「みんなスキルが覚醒してるみたいだしいいぞ」
俺がそう言うと、アレスはすぐにポーションを手に取り、蓋を開けて一気に飲み干した。
飲み終えたアレスはとても険しい顔をしていた。
「苦い....」
どうやら苦かったらしい。
ちなみにポーションは全般苦い。
この世界には一般的に治癒ポーション、筋力増加ポーション、魔力ポーションが流通してるがどれも苦い。
草の渋味を濃縮したような味だ。
まぁ、ポーション類は全部高いのであんまり飲むこともないのだが....
「どう?なんか変化あった?」
トレディアがアレスにそう聞いた。
「ええ、スキルが覚醒したわ。しかも結構面白い感じね」
そういうと、アレスはニヤッと笑った。
「どう?トレディア、一戦やらない?」
「いいね。覚醒したスキルを間近で見せてもらうとするよ」
こうして、俺らは王城の別館にある騎士団が普段使う闘技場に行った。
今までもよくアレスとトレディアはタイマンしているが、ほぼ100%トレディアが勝っている。
トレディアが繰り出す剣技と魔術にアレスは対処しきれない。
しかも最近は今までずっと部活の一環として研究していた新しい剣術流派を完成させ、防御に徹する流派を作り上げた。
剣で防御し、魔術で攻撃。
隙が出たら剣も攻撃に使う。
このコンボがアレスには難攻不落だったのだ。
「覚悟しなさい!トレディア!」
「新しいスキル、楽しみだね」
トレディアが剣を抜き、アレス見つめる。
アレスは何故か剣を抜かずに
トレディアもアレスも笑っているが、そこには殺意にも似た空気を感じる。
試合開始のベルが鳴った。
「ブースト」
「ブースト」
お互いがブーストをかけたその時だった。
アレスがスキルを使った。
『神撃』
次の瞬間、一瞬で2人の間合いはゼロになった。
そして近づきながら、居合い切りの要領でアレスは剣を抜き、トレディアを攻撃する。
トレディアはギリギリで剣を受け止める。
そしてそのまま鍔迫り合いだ。
『神撃』スキル。
一瞬で移動し、相手との間合いをゼロにするスキル。
居合切りとの相性がいい。
確か、ロースターの執事のセバスさんが持ってたスキルだ。
一度対面したことがあるが、音をも置き去りにする速度だった。
それを初見で受け止めたトレディアは凄い。
「アレスのスキルは『神撃』だったんだね。けど、それって一回しか使えないんじゃない?」
トレディアが笑みを浮かべながらアレスに聞く。
「さぁ、どうかしら」
アレスも笑顔でそう返す。
ただお互いの剣はぴくりとも動かない。
神撃スキルは一瞬で距離を縮められるから強い。
たが、それゆえに使用できる回数が少ない。
大抵のスキル所持者は一回。
極めれば二回。
その中でさらに才能があれば三回。
セバスさんは三回使えるらしいが、才能と努力の両方があるからだ。
対してアレスはさっき初めて使った。
故に一回が限度だろう。
そして、その乾坤一擲の一撃が受け止められてしまったら、あとはいつも通りの展開というわけだ。
「たしかにスキルは強いけど、これくらいなら受け止められるよ」
トレディアはそう言って攻めの姿勢をとる。
「秘策はまだあるわ」
アレスは自信満々にそう言う。
「じゃあ、これを耐えてみてね」
次の瞬間、トレディアが複数の斬撃を繰り出す。
それに対してアレスは防戦一方だ。
「魔術も追加してあげるよ」
そう言ってトレディアはさらに複数の魔術をアレスに打ち込む。
アレスはさらに苦しい戦況に追い込まれた。
が、それに対するアレスに反応は笑顔だった。
『未来予知』
アレスがそう言った途端、防御に余裕ができた。
今まではギリギリで受け止めていた攻撃を、余裕を持って防げるようになったのだ。
「どう?私の2つ目のスキル『未来予知』は?」
そう、アレスはスキルを使ったのだ。
『未来予知』とはその名の通り少し先の未来を見ることができるスキル。
少し先の未来が見えるからこそ、攻撃を繰り出す前に防御の姿勢を取ることができる、というわけだ。
勿論、ずっと続くわけじゃない。
この世界に時計はないので正確にはわからないが、制限時間はおよそ60秒くらい。
スキルを使っていけば長くはなるが、おおよそはそのくらいだ。
「まさか、アレスが2つ目のスキルを持ってたなんてね」
トレディアはアレスに猛攻を加えながらそう言う。
ただ、今までのような余裕は感じられない。
「私もびっくりしたわ、2つもスキルをもらえるなんて思わなかったもの」
「でも、その2つ目のスキルもそろそろ時間切れじゃないかな?」
「そうね」
アレスはそう返すと、再び黙った。
そしてただ淡々とトレディアの攻撃を防ぎ続ける。
ただ、勝機は突然訪れた。
トレディアの猛烈な攻勢に一瞬の緩みが出た。
アレスはそれを見逃さなかった。
『神撃』
アレスがスキルを使ったのだ。
次の瞬間、アレスはトレディアの正面にいきなり現れる。
一応は高速で移動しているのだが、もはや瞬間移動の速さだ。
そしてそのまま流れる様に、アレスは片方の剣でトレディアを斬ろうとする。
トレディアはそれをギリギリで受け止める。
が、アレスは二刀流だ。
片方を受け止めたが、もう片方がトレディアの心臓を突き刺した。
こうして、アレスのスキルデビュー戦は幕を下ろした。
「いやー、まさか2つもスキルを持ってるだけじゃなくて、『神撃』を2回も使えるなんてね」
トレディアが悔しそうにそういった。
この世界ではスキルは1人一個だ。
前世ふうにいうなら、スキルのスロットは1つしかない。
ただ、その1つのスキルのスロットにあるスキルが『プラスで2つのスキルを持つ』、だった場合、結果的に持ってるスキルは3つ、使えるスキルは2つとなる。
これがアレスの状況だ。
『神撃』が2回使えたのはおそらくただ、アレスの体力が化け物だからだろう。
元々身体能力はこのパーティで一番だ。
なんか、今日はアレスに驚いてばかりな1日だった。




