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軍事愛好家の転生記  作者: エアアンテーク
生徒会革命
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謝罪

 目が覚めた。

 確か昨日はドートル国王をぶん殴って、城を出て、それから下町の宿で一泊することにしたんだったな。


 俺はとりあえず部屋を見渡す。

 他のみんなはまだ寝てるようだ。

 確か、奇襲対策にミリアさんだけは起きて建物の玄関にいるはずだ。


 俺は静かに部屋を出て、玄関に向かった。

 比較的綺麗な宿で、俺らが泊まっていたのは2階。

 一階は大衆食堂のようになっている。

 一階はまだ準備中のようだった。


 俺は玄関を出る。

 まだ朝早いからか、通行人もいない。

 ただ一人、ミリアさんだけはいた。


「お疲れ様です。一晩中起きてて大変でしたでしょうし、変わりますよ」

「いや、大丈夫だ。それより、気持ちの方は大丈夫か?」


 ミリアさんは首を縦に振ったあと、そう心配してきた。

 おそらくフォルフさんが殺されたことについてだろう。


「ええ、フォルフさんを殺した騎士団の人はボコボコにしましたし、ドートル国王にも全力の1発をお見舞いしましたから」

「そうか。ところで、よく怒ると人が変わると言わないか?」

「いや、言われませんね....」

「そうか....」

「そうです」

 

 まぁ、確かに怒ると少し口が悪くなる癖はあると自分でも思ってる。

 けど、そこまでじゃないよな?

 うん。そうだよ。 


 そういや、俺がここに転生して、ヤルタさん達に稽古をつけてもらってる時から、あんまりミリアさんとは話さなかったな。

 別に仲が悪いわけじゃない。

 が、特別仲が良かったわけでもない。

 せっかくだし、ふと疑問に思ったことを聞いてみよう。

 

「どうしてミリアさんは王虎(キングティーガー)に入ったんですか?」


 王虎(キングティーガー)は世界三大冒険者だ。

 そんなすごいパーティに入った秘話を聞けるのは今しかない。


 それを聞いたミリアさんは、意外そうな顔をしながらもゆっくり話し始めた。


「どうしてか....私はもともと騎士だったんだ」


 騎士。

 前世で言う国家公務員の立場だ。

 安定した給料だし、冒険者なんかよりよっぽどいいのではないだろうか。


「私はコルモラン聖国の騎士だったんだ」


 コルモラン聖国。

 『ストイール教』という、世界で最も信仰されている宗教の総本山である国家。

 国のトップは教皇と呼ばれる人で、国家と宗教が一心同体な国だ。


「てことはミリアさんはストイール教の信者なんですか?」


「元々はね。ただ、あの国の騎士団は戦いに魔術を使わない聖的騎士のスタイルが基本なんだけど、私には合わなくてね。騎士団の中でも劣等騎士の烙印を押されてしまったんだよ」


 信じられない。

 ミリアさんは全魔的剣士が憧れる存在と言っても過言ではない。

 そんなミリアさんが、劣等騎士だなんて.....


「そんな時にね、ヤルタ達に出会ったんだよ。ヤルタとアテマだったね。それで、私が非番の時、ヤルタが勧誘してきたんだよ」

「それで、二つ返事でオッケーしたんですか?」

「まさか。その時は騎士団から冒険者に転職なんて冗談じゃないって思ったよ」


 そりゃそうだ。

 にしてもなぜ、ヤルタさんはいきなりミリアさんを勧誘したんだろう。


「なんでヤルタさんはいきなりミリアさんを勧誘したんですか?」

「それはね、私の魔力量が多くて、剣士の才能もあったからしいよ。ヤルタは鑑定スキルが使えるから、分かるんだ」

「あれ?でも、その時は劣等騎士だっんじゃ?」

「聖国騎士の戦い方っていうのは堅苦しいんだ。決められた形で決められた剣を使って決められた手順で戦う。それが合わなかったんだ」

「それで、その後はどうしたんですか?」

「そのあとはヤルタと決闘したよ。まぁ、僅差で負けたんだけどね。ただ、今までの戦い方と違う....なんて言うか、今まででいちばん1番戦ってるって気がしたんだ」


 あのヤルタさんと僅差まで持ち込んだのか。

 やっぱり王虎(キングティーガー)のパーティメンバーだけあってすごいな....


「それでね、その時、ヤルタとやった時みたいな戦い方だったら剣士としても活躍できるかもって思ってね。騎士団の人にその戦い方をさせてくれって言ったんだ。そしたら拒否されてね。過去の伝統とか、神の教えがとか言われてね。それで、なんか、全部嫌になった。神も伝統もどうでも良くなって、自由にやってるヤルタが羨ましくて、それで王虎(キングティーガー)に入ったんだ」


 そう言うと、ミリアさんは懐かしそうな顔をした。

 

「いいもんだね、冒険者って。自由にやれるし。それに神に助けを求めても何も解決しないって冒険者になってわかったんだ。ピンチになった時に助けてくれるのは自分と仲間だって。だから、私は冒険者になってよかったと思ってる」


 すごく感動的だな。

 落ちこぼれが実は最強でした、的なやつだ。

 これラノベにならないかな。


 気づけば太陽も結構高いところまで昇ってきている。  この世界に時計がないのが残念だが、おそらくは7時くらいだろう。


「そろそろみんなも起きそうですし、中にいきますか」

「そうだね、私も行こうかな」


 そう思って、扉に手をかけた時、後ろから声をかけられた。


「震電の方ですか?」


 俺は後ろを振り返る。

 そこにいたのは怪しいフードを被った人物。

 顔はよく見えないが、なんとなく初老の男性といった感じだ。


「皆さんにお話したいことがあります。中に入れてもらえないでしょうか....」


 どうしようか。

 怪しさ満点だ。

 ただ、中にはヤルタさん達もいるし、なんかされてもなんとかなりそうな気はする。


「わかった。入ってくれ」


 俺が悩んでいるとミリアさんがそう言った。


「大丈夫、こいつに敵意はないと思うよ」


 心配そうに見つめていた俺に対してミリアさんはそう言った。


 俺らは階段を登り、みんながいる部屋に向かった。

 ドアの前に立つと話し声が聞こえた。

 おそらくみんな起きたのだろう。


 俺はドアを開け部屋に入る。

 次にミリアさんが入る。

 そして最後に初老の男性が入る。


 みんなは会話をやめ、不思議そうにこっちを見つめる。


「誰だ、そいつ?」


 ヤルタさんが俺に質問する。

 俺がなんと返そうか迷っていると、初老のその人は被っていたフードを脱いだ。


「昨日はすまなかった」


 初老の男はそう言った。

 顔をみると、そこにいたのはドートル国王だった。


「数々の失言、深くお詫びする」


 そういった彼は深々と頭を下げた。

 

 あんまりにもいきなりだったので、俺らは何も言えなかった。

 なんと返すのがいいのだろうか。

 許すべきか、許さないべきか。

 そもそもそれを決めるのは誰なのか。

 そんな風に何を言ったらいいか分からず沈黙が続いていると、アレスが話し始めた。


「急になんなの?」


 その言葉には怒りが見えた。

 彼は頭を上げアレスを見て話始めた。


「昨日、貴方方に殴られて気がついた。私は王という立場におごって、人の気持ちも考えることができていなかったんだと。だから謝罪させて欲しい」


 その目は真っ直ぐにこっちを向いている。

 昨日のような蔑む目ではない。

 真剣に向き合っている目だ。


「本当にすまなかった」


 そういった彼はもう一度深々と頭を下げた。


 その返答に対してアレスは何も言わずにただドートル国王を見た。

 

 そこからはしばらく沈黙が続いた。

 時間にして5分くらいだろうか。

 ドートル国王はずっと頭を下げている。


「わかった。その謝罪は受け入れる。ただ、まだ許せるわけじゃない。贖罪として、お前はこの国をもっと良くしろ。誰も不本意で死ななくてもいい、そんな国を作れ」


 俺が出した答えはこれだった。

 この国王には国家運営に関しては類稀な才能がある。

 それは是非とも活かすべきだろう。

 そして人道を弁えた今、もっといい国になるだろう。


「そうね。貴方はこの国を三大大国レベルにまで押し上げなさい。それが贖罪よ」


 アレスもそう言った。

 賛成してくれたらしい。


 続いて、トレディアも莞爾も首を縦に振った。


 すると、ドートル国王は頭を上げて、こっちをみる。

 そして真剣な顔つきで、


「わかった。必ずこの国を豊かにして、誰も望まぬ死を遂げることのない国にする」


 その目は決意のこもった、力強い目だった。


「それと、これは心ばかりの謝罪の品だ。受け取ってくれないか」


 そう言って、紫色のポーションを渡してきた。


「それは宝物庫にあったものだ。スキルがまだ覚醒していない者に飲ませると、スキルを解放できる。すでに解放しているものに飲ませても効果はないので注意してくれ」


 そう言って、彼はこの宿を去っていった。

 その後ろ姿はどこかやる気に満ちていた気がした。


 ポーションはとりあえず後回しにして、俺らは下で飯を食い、そのままこの街を後にした。

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