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軍事愛好家の転生記  作者: エアアンテーク
生徒会革命
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殴り込み

 ライナット王国を出発してから二週間。

 俺らはストライト公国に着いた。

 大きな石壁が首都全体を覆っていて、その中央部にはライナット王国の城ほどではないが、それでかなり大きい城が佇んでいる。

 そこに住む王は『偉才の王』と呼ばれる『ドートル国王』だ。

 なぜ彼が偉才と呼ばれているのか。

 それは彼が一代でストライト公国の国力を中小国の中でトップレベルにまで押し上げだからだ。


 元々、ストライト公国はそれほど豊かな国ではなかった。

 森林が多く、農耕地は少ない。

 他国に比べてなにか突出する産業もなく、細々と国民が暮らしているような国だった。

 国力的にも小国の中の小国だった。


 ただ、ドートル国王はそんな国内に数々の改革を行った。

 森林を開墾し、作る農作物の品種改良を行い、特産物を作り出した。

 その特産物とは酒だ。

 醸造酒が一般的なこの時代に蒸留酒を積極的に作り、それを他国に輸出した。

 今までの葡萄酒なんかと違い、糖分が少なく、二日酔いになりにくい、痛風なんかも予防してくれる蒸留酒は国内外問わず人気となった。

 今だとそれ目当てに観光してくる人も多い。


 そんな改革をして、ドートル国王はこの国を中小国の中でもかなりの国力を持った国にしたのだ。


 そんな国王に俺らは今謁見しようとしている。


 俺らはまず、首都に入るための門を潜った。

 衛兵が待機していたが呼び止められることもなくすんなり入った。

 次にさまざまな店が見える。

 門の近くということもあってか、宿屋や武器屋、食料品店が多い。

 そしてそのどこもが賑わっている。


 俺らはそこで休むよりもまずはドートル国王に会いたいので先に進んだ。

 俺らによくしてくれてフォルフさんはこの国の騎士団に殺された。

 そしてその騎士団の上に立つのかドートル王だ。

 いくら責めたところでフォルフさんは帰ってこない。

 だが、せめてドートル国王にあって謝罪してもらわなければ腹の虫も収まらない。


 さらに進むと、住宅街に入った。

 基本的な見た目はライナット王国と同じだ。

 ただ、窓の形や屋根の色なんかは少し違う。

 

 そして城に近づくにつれて建物も大きくなっていく。

 有力な商人や上級冒険者の家、そして下級貴族の家だ。

 庭なんかもあって、所々にはメイドが見える。


 さらに奥に進む前に門があった。

 

「ここからは上級貴族街です。許可のあるものしか入れません」

「我々は震電です。ドートル国王から謁見の許可をいただいてます。それと、王虎(キングティーガー)の人達もいるんですが、一緒に謁見できますか?」


 そういうと、兵士は確認しにどこかへ行った。

 こうなった元凶に敬称を使うのは腹立たしいが、不敬罪で捕まっては元も子もない。

 ちなみにもし襲われてもいいように王虎(キングティーガー)の皆さんにはぜひともついてきてもらいたい。


 しばらくして、さっきどこかに行った兵士が戻ってきた。


「お待たせしました。国王陛下がお呼びです。王虎(キングティーガー)の皆さんもご一緒に謁見されても大丈夫だそうです。さぁ、どうぞこちらへ」


 そう言って俺らは上級貴族街を抜けて、城まで案内された。

 道中にはものすごくでかい家なんかがあった。

 でかい庭に噴水、明らかに金持ってますって感じだ。


 そんな上級貴族街を抜けて、俺らは城の中に入った。

 中にはたくさんのメイドがいて、装飾品も豪華絢爛だ。

 おそらく装飾品一つで豪邸が建つだろう。

 

 その次に待ち構えていたのは長い廊下。

 直線に長い廊下だ。

 なんでも、王と会う前に緊張感を高めるため、とか威圧感を出すため、とからしい。

 ロースターが前に言っていた。

 今の俺からしたら、早く会いたいので腹立たしいがな。


 そこを抜けると、謁見室だ。

 謁見室に入るには大きな扉があって、その大きさは3メートル以上だろう。

 近くにいた兵士が扉越しに話す。

 

「国王陛下、震電の皆様です」

「よい、通せ」


 その言葉と同時に扉が開いた。

 中は大きな部屋となっており、おそらく縦横が50メートル以上あるだろう。

 そしてそこにも装飾品の数々だ。


 中央の玉座に座っているのは当然『偉才の王 ドートル王』だ。

 普通の衛兵が前に二人と、ドートル国王の左右には強者の風格の男と女が一人ずついた。

 玉座は壇上になっていて、当然だが、俺らを見下ろす形になっている。

 なんとも腹立たしい。

 

 俺らはドートル王に近づく。

 そして一応、形式に則り、膝をつき、下を向く。

 ここで楯突いても仕方がない。


「よく来たな」

「陛下、何のご用でしょうか」


 俺は前置きとか世辞を聞きにきたのではない。

 単刀直入に聞く。

 ドートル国王は少し黙ったあと、話し始めた。


「ライナット王国の『王都事変』では何があった。詳しく聞きたい。勿論、いい話を聞かせてくれたら報酬は出そう」

 

 この国は諜報力に優れていると聞く。

 おそらくそれで、本来秘密にされてるはずの王都事変での俺たちの活躍を聞きたいのだろう。

 

 だが、王都事変が起こってから、ストライト公国からの手紙が来ていたので、実は予測できていた。

 それに、ロースターもおそらくバレていると言っていた。


「すみません。一端の冒険者には詳しいことは何もわかりません」

「ライナット王国国王に金で買われたか?いくらだ?その倍を出そう」


 なんともふざけた話だ。

 ロースターをなんだと思っているのか。

 ロースターが金で人を買うやつだとでも思っているのか。


 俺はギリギリで理性を保ちながら、俺らにとっての本題に無理矢理入る。


「ところで陛下、先日、陛下の部下の騎士団にやって、私達の大切な隣人が殺されました。それについてはどうお考えで?」


 先日、ストライト公国の騎士団によって、隣人であり友人のフォルフさんが殺された。

 俺らはそれに対して怒り心頭だ。

 

 ただ、俺らとて理性がある。

 ここで争っても利益にはならないし、フォルフさんも戻ってこない。

 ただせめて、謝罪の一言が欲しいのだ。

 

 そして王は俺らの問いに返答した。


「そうか、すまなかったな、その分の金も追加しよう。それで、王都事変では何をした?我々ですでに調べはついている。嘘はつけんぞ」


 それだけだった。

 謝る気のない謝罪と、それをかき消すかのように金を払うと言われただけだった。


 その時俺は何かが切れる音がした。


「テメェあんま調子乗んなよ」


 それを合図に俺らは立ち上がった。

 いきなりのことで衛兵達は動揺していた。


 俺は王に向かって歩き出す。

 少しして慌てて衛兵が俺に近寄ってくる。


「止まれ!陛下に近寄るな!」


 衛兵がそう言った瞬間だった。


超局所的重力操作(ユニグラビティ)


 そう言って魔術を発動させたのはアテマさんだった。

 重力に押しつぶされて、衛兵の動きが止まる。


 そして俺が玉座の壇上に登ろうとした時、左右にいた強者の風格を纏った衛兵2人が剣を抜き、俺を睨んできた。


「止まれ。さもなければここで斬る」


 男の方がそう言った。

 その時だった。


「ブースト」

 

 莞爾がそう言って魔術を発動させた。

 そしてすぐにアレスとヤルタさんが前に突っ込んで俺の左右にいた衛兵と組み合った。

 アレスは女の方と、ヤルタさんは男の方とだ。

 

「なんの真似だ貴様ら。国家反逆罪だぞ」


 そういう男の口に余裕は感じられない。


「私も流石に怒ったわ。豊やってちょうだい!」

「貴方たちはどうやら死にたいようですね」


 そういう女の方の口にも余裕はなかった。


 そう言ってアレスとヤルタさんは衛兵を横薙ぎで追払い、壇上の外へと追いやった。


 俺はドートル国王に近づき、階段を登った。

 それでも奴は顔色を変えずにただこちらを見ている。

 おれは奴の目の前に立った。

 そして奴の胸ぐらを掴む。

 それでも奴はまだ顔色を変えずにこちらをみていた。


 俺は左足を前に出し、右足を後ろに引く。

 右手を思い切り引く。

 そしてそのまま魔力強化無しの腕で、思いっきり奴を殴った。


 殴られた衝撃でやつは大きく頭を振った。


「テメェのせいで人が死んでんだよ。俺らの大切な人だったんだよ。それなのに金を渡して解決しようだ?ふざけんじゃねぇぞ。

 それにロースターは金で俺らを買ってもいない。その金でなんとかしようとするその性根が気に入らねぇ。

 お前王としては偉才かもしれねぇけど人としては最低だよ。二度と顔見せんな」

 

 俺はそう言って胸ぐらを掴むのをやめた。

 そして奴にロースターからもらった国書を渡した。

 

「これはロースターからの国書だ」


 少し沈黙の後、俺は玉座の壇上から降りた。


「よし。みんな、帰ろうか」


 それを皮切りにアレスもヤルタさんも戦闘をやめて、俺の方にやってきた。


「待て、逃すか!」


 アレスと戦っていた衛兵が逃すまいと、アレスに接近する。

 その時だった。


「よい」


 国王が衛兵に止まるように命じた。


「ですが、彼らは処罰されるべき....」

「よい....」


 衛兵はアレスに接近するのをやめた。


 俺らはそのまま謁見室を後にした。


「いやー、やったねー豊」


 トレディアが上機嫌でそう言ってくる。


「あとで処刑されないといいですね」


 莞爾が真顔で言う。

 怖いこと言わないでくれよ....


「いやー、にしてもさすがロースター陛下だな」


 突然ヤルタさんがそう言った。


「どうしたんですか?」


 俺は聞き返す。


「お前ら、あの国書の内容見たか?」

「いえ、国家のことですから、俺らがみるわけにもいかないでしょう」

「それもそうだな。実はな、あの国書、割とキツめに抗議してるんだよ」


 ふーん。

そうなのか....

 あれ?

 でも、確かライナット王国としてはオルデンブルク帝国との関係悪化のため、ストライト公国との関係悪化は望ましくないって言ってたよな。

 だから、ロースターもここに来なかったはずだ。


「それって、関係悪化するんじゃないですか?」

「普通にやったらそうなるな」


 普通にって....

 何か特別なことをしたのだろうか。


「ただ、ロースター陛下はおそらくお前らが暴れるだろうって言っててな。だったらキツめに書いてもそれは脅しになるだろうって言ってたぞ」


 なんというか、そこまで読まれていたのか。

 流石は策士ロースター。

 

「なんていうか、さすがだね....」


 トレディアも苦笑いしていた。


 そんな感じで俺らは下町に降りた。

 あたりはもう暗くなっていて、人の出も少なくなっていた。

 とりあえず冒険者用の宿を取り、その日はそこで寝らことにした。

 明日にはこの国を出よう。

 おそらく長居したら捕まるだろうからな。

 それがいい。

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