出発
モンスターが王都を襲撃してから数日が経った。
あの事件は『王都襲撃事件』と言われるようになった。
あれから俺らは色んなところから勧誘を受けるようになった。
貴族の護衛や商人の護衛などその内容は様々だ。
が、俺らはそのどれも受けるつもりはない。
みんなで話し合ったが、俺らがなりたいのは冒険者。
自由にやりたい事をやる、という訳だ。
まぁ、俺的には有名な貴族のところに就職して、安定した生活ってのも悪くないんだけどな....
てきなことを言ったら「面白くない」と一蹴されてしまった。
そんな俺らは今、王虎の皆さんと特訓している。
この間の王都襲撃事件で俺らは死にかけた。
たまたま王虎がきてくれたから助かったが、まだまだ俺らは弱い。
てことで次はそうならないように特訓、と言うわけだ。
ヤルタさんは俺に、ミリアさんはトレディアに、ワイオミングさんはアレスに、と言った感じだ。
ちなみに莞爾とアテマさんは王城で本を読みに行っている。
と言うのも、王城には『禁書』と呼ばれる本が沢山あるらしく、それを読みに行ったとのこと。
もちろん、禁書なので普通は読めないが、王都襲撃事件の報酬として特別に解禁された。
でな感じで、各々特訓してるというわけだ。
ちなみにヤルタさんの特訓はめちゃくちゃきつい。
まず、とてつもない速度で繰り出される斬撃を全て受けることから始まる。
俺はすんでのところで受け止めるが、またすぐ次の斬撃がくる。
しかも一撃一撃が重い。
全力で踏ん張らないと間違いなく後ろに吹き飛ぶ。
それが終わると、今度は俺が攻撃側だ。
が、俺が繰り出す一撃はヤルタさんにとっては軽いようで、片手で受け流されてしまう。
速度にふっても威力にふっても片手でだ。
「震電の皆さんはいらっしゃいますか」
寮の玄関からそんな声が聞こえた。
男の人の声だ。
おそらくは「うちで働きませんか?」とかの勧誘だろう。
ここ最近はそう言うのがよく来る。
ちなみに俺はこのパーティの外交役だ。
と言うのもアレスとトレディアは短気だし、莞爾は無口。
消去法で俺だ。
嬉しいような悲しいような....
俺が玄関に向かうと、そこには重装の鎧を纏った人が3人と軽装の鎧を纏った人が一人だ。
俺を見るなり軽装の男が近づいてきた。
「私はストライト公国第三騎士団員のメルセスと申します。我が公国までご同行願えますか?」
と、言われた。
ストライト公国は確かライナット王国には及ばないものの中小国の中では割と豊かな国だ。
王都事変以降、ストライト公国に来てくれ、という手紙はきてるのだが、何かと都合が悪かったので断っていた。
と言うのもここから結構遠く、どんなに急いでも片道二週間はかかる。
今回も、王虎の皆さんがいるので、とりあえず断ることにしよう。
次にいつ会えるか分からないしな。
「すみません。我々は少し忙しいものでして、また次の機会でもよろしいでしょうか?」
俺はとりあえず低姿勢で柔らかく断った。
まぁ、向こうもわざわざきてくれたわけだしな。
「これは王命です。拒否権はありません。同行してもらいます」
と、返されてしまった。
いや、俺は別にストライト公国の国民じゃないんだけどな。
王命とか言われても知らんし....
「ですから、私どもは忙しいので....」
「拒否をするのであれば、実力行使をするまでです」
そう言って、メルセスは剣を抜いた。
嘘だろ?!
ここ市街地だぞ?
確かに俺らは王都事変以降なので、2年以上ストライト公国に行くのを断り続けていた。
ただそれはちゃんと用事があったからでしっかりと手紙にも書いたはずだ。
前世基準だが、そもそも選択権はこっちにあるはずだろう。
「やれ」
そういってメルセスは3人の騎士に指示を出した。
3人の騎士はこっちを見て抜刀し、
そのまま近づいてくる。
しまった。
ここは町のど真ん中。
銃は使えない。
他の人に流れ弾が当たったら大問題だ。
俺は『M84スタングレネード』を召喚してすぐに投げた。
そしてすぐに後ろに全力で下がり耳を塞いで目を瞑った。
当然奴らはそれに反応できずにその爆音ととてつもない光をもろに受けた。
俺はその機を逃すまいと、全力でやつらにつっこみ、『メリケンサック』を召喚した。
メリケンサックに魔力を込めて、一人目の騎士に全力のパンチを腹部に喰らわせた。
その一撃で奴は倒れた。
俺は流れるように2人目3人目にも同じことをして、騎士3人を無力化させた。
伊達に王虎式スパルタ特訓術を受けたりしてない。
さっきの音で気づいたのか、庭で特訓していた震電の他のメンバーや王虎の人たちも来た。
「どうした?大丈夫か?君たち」
さらに近所のおじさん、フォルフさんも剣を持って駆けつけてくれた。
フォルフさんはお向かいに住んでいると言うこともあり、何かとお世話になっている。
ここら辺で美味しい店だったり、この世界の常識には疎いので、そこら辺を教えてくれたり、気さくでいい人だ。
元々は冒険者だったらしいが、今はやめて大工になった。
ちなみに、俺らの家にある棚なんかも作ってくれた。
剣を持っていることを見るに何事かと駆けつけてくれたのだろう。
「チッ、面倒なことになりましたね。ですが、こちらも王命である以上引き下がれません。」
そう言うと奴は剣をこっちに向けた。
俺もナイフを握りしめて迎撃の体制を取ったその時だった。
「豊くんから離れろ!」
そう言って、なんと近所フォルフさんがメルセスに突っ込んだ。
「貴方に用はありません」
奴がそう言ったと同時、フォルフさんは縦に真っ二つなった。
あまりに一瞬の出来事だった。
嘘だろ....
だってフォルフさんはもと冒険者で、そこそこ強いはずだ....
縦に真っ二つに斬られたせいで遺言も聞けなかった。
俺らによくしてくれた人はあまりにも一瞬で死んだの
だ。
それ理解した時、次に来たのは怒りだった。
「テメェだけはぶち殺す」
俺はそう言って奴に向かって走り出した。
「怖い怖い、これなら実力行使もやむなしですね」
そう言って奴はニヤリと笑いながら剣を上に上げる。
俺は再度『グレネード』を召喚してすぐにやつ投げる。
「その対策はもうわかってます」
そう言うとやつは目を瞑り、耳を塞ぐ。
が、俺が投げたのは『M84スタングレネード』ではない。
『MK3手榴弾』だ。
ぱっと見は細長なので見分けは付かない。
ましてや手榴弾なんてものがないこの世界だと尚更だ。
やつはそのままもろに爆発を喰らった。
奴が断末魔の叫びをあげていたが、そんなものは関係ない。
俺はさらに『M84スタングレネード』を召喚して急いでやつに投げた。
奴はさっきと違う攻撃に焦って目を開けた。
当然だ。
目を瞑っていたところに爆発を喰らったのだから。
だが、それは悪手だ。
俺の投げた『M84スタングレネード』が起爆した。
奴の目の耳は死んだ。
俺は奴に近づく。
「空間認知」
奴は空間認知魔術を使った。
空間認知魔術は近くの空間を立体的に、かつ視認できないところまで把握できる様になる魔術だ。
だが、人の判別まではできない。
いわばレーダーのようなものだ。
俺は10人の兵士を呼び出しながら、やつに突っ込む。
俺の前にも後ろにも兵士がいる状態だ。
「なぜ増える!?」
奴は相当焦っていた。
俺としては好都合だ。
俺は容赦なく奴の右膝にナイフを突き立てた。
次に流れるように左膝にもナイフを突き立てた。
奴は崩れるように地面に倒れ込んだ。
人間、膝を壊されると立っていられないからな。
そんな奴に俺は馬乗りになって顔面を殴った。
拳に魔力を乗せて力一杯殴った。
「返せ!俺らのフォルフさんを返せ!テメェらのその勝手な理由で人を殺すんじゃねぇ。テメェら何様だよ!」
俺は殴りながら思ったことを口にした。
冷静さのかけらもない。
ただ感情のままに口にして、殴り続けた。
初めは何か言っていた奴も次第に何も言わなくなった。
「やめろ豊」
そう言って肩を叩いたのはヤルタさんだった。
「それ以上やるとそいつが死んじまう」
その時俺は少しだけ冷静さを取り戻した。
奴の顔面は血だらけで、あざだらけで、歯も折れてて、顔の原型なんてなかった。
俺は深呼吸をして気持ちを整えた後、みんなに向かって話を始める。
「ストライト公国に行こう。それでこの元凶とも言える国王に文句言いに行こう」
文句を言う、と言う部分が気になるがこれが今、俺が1番丁寧に言える言い方だった。
「そうね!私もこのままは終われないわ!」
「僕もフォルフさんにはお世話になったし、せめてもの『お礼』はしなくちゃね」
こうして俺らはストライト公国に行くことを決めた。
そこからは早かった。
莞爾にも帰ってからそのことを話すと、怒髪天を衝いた。
そして、その日のうちに準備して次の日には出発した。
ロースターもフォルフさんにはお世話になっていたし、そもそも大切な国民を殺されたと言うことで怒り心頭に発していた。
直接殴り込みに行きたいと言っていたが、オルデンブルク帝国と仲が悪くなった今、直接乗り込むのはよく無いので、俺らにライナット王国の国書を渡した。
それを持って俺らは出発した。
もしかしたら早く移動出来るかもと思い、戦車を召喚してみたが、なぜか俺が乗ると動かなくなった。
それなら戦車で牽引するのはと思ったがそれもダメだった。
他の人なら運べるんだけどな....
ちなみに俺が召喚する銃も他の人が使おうとすると動かなくなる。
渋々、馬車に乗って気を取り直して出発することにした。
あ、そうそう、護衛として王虎も一緒に行くことになった。
最強の護衛だ。
道中、モンスターに襲われることもあったが、王虎さん達が一瞬で片付けてくれた。
そんな中、長い道のりで時間もあることだし、俺は一つ前から疑問に思ってたことを聞いてみる。
「そういえばヤルタさん。どうして4年前の訓練の時にスキルの存在を教えてくれなかったんですか?」
この世界だと人はスキルを持っていると言うのはみんな知ってることだ。
それなのにヤルタさん達は一切教えてくれなかった。
「ああ、それはな。お前らは強いスキルを持ってるってわかってたからな。俺はスキルに頼った戦い方は嫌いなんだよ。だからあえて教えなかった」
ヤルタさんは俺らがどんなスキルかわかってたと言ったな。
となるとヤルタさんのスキルは『鑑定』とか、その辺なのだろうか
なんか、世界最強クラスなのに武術とかのスキルじゃ無いのは意外だな。
「まぁ、王都事変に関わるってわかってたら、スキルについても教えてたけどな」
そんなことを話しながら、俺らはストライト公国に向かった。




