震電逮捕 前編
夏休みが明け二ヶ月が経った。
外は肌寒くなりそろそろ冬が来そうな感じだ。
今日は休みの日なので、俺ら震電4人と、ロースター、スピットさんの6人で市場に出かけています。
特に目的があるわけではないが、なんとなく食べ歩きするみたいな感じだ。
そういや、ロースターはいつも腰に剣を差している。
ロースターの身長に合わせて作られているのか、短剣よりは大きいが長剣よりは少し小さい。
「なぁロースター、なんでいつも剣を差しているんだ?」
「護身用です」
護身用か。
スピットさんがいれば問題ないような気がするんだがな。
この人聞いた話によると相当強いらしいし。
そんなことを思ってぶらぶらしていると前の方がなんだか騒がしかった。
民衆がざわざわしながら前の方に集まっていた。
「どけ!」
奥の方からそんな声がした。
次の瞬間、集まっていた民衆は一瞬にして道路脇によけた。
民衆が退いた先にいたのは、兜や胴当てなど全身に鎧を着込んだ騎士団と、兜は被っていないものの胴当てをしている騎士らしき人間。
おそらく顔が唯一見えるその人がリーダーなんだろう。
とりあえず俺らも道路脇に寄ろうとした。
「震電!そこを動くな!」
騎士団のリーダーのような人に呼び止められた。
どこかでみたことがあるような顔だった。
騎士団の人達はこちらに近づいてくる。
そしてあっという間に囲まれてしまった。
「震電、貴方達には逮捕状がでています」
逮捕状だと?
当然だが、俺らは何もしていない。
最近は平和に暮らしていたし、海に行った時も犯罪なんか犯していない。
もちろん、学校でも何かしでかしたわけではない。
他人のものを盗ったり、暴力事件を起こしたりなんかはしていない。
そうやって思考を巡らせているうちに一つ思いついたことがある。
貴族邸宅に不法侵入したことがあったな....
しかも侵入した後にそいつを殴って、脅したな。
やべぇ....
たしか、ブラックウィドウ家だったかな。
とりあえず俺は一応罪状を聞いてみる。
「罪状はなんなんですか?」
もし、罪状がブラックウィドウ家のことなら、潔く捕まるしかないな。
「どぼけるな!クルース伯爵を殺害しただろ!貴族殺しは重罪だ!」
ただ、返答は予想だにしないものだった。
クラース伯爵なんて聞いたことがない。
当然、関わったこともない。
すると、隣にいたロースターはハッとしたような顔をした。
何かに気づいたようだった。
そして懐から紋様のはいった、なんていうのかはわからないが印籠のようなものを取り出してこう言った。
「私は国王ロースターです。国王の名の下にこの人たちの逮捕を取りやめなさい」
すると、そのリーダーのような奴はニヤッと笑いながら嘲るように言い返した。
「貴様、そんなものはいくらでも偽造できるだろう。ロースター陛下を語るのは不敬罪だ。貴様も逮捕する」
ロースターは苦い顔をしながら俺らに話しかける。
「みなさん。あれに捕まってはだめです。その時は間違いなく処刑されます」
そういうと、剣に手をかけた。
それをみて、スピットさんも剣に手をかける。
間違いなく、戦闘が起こる直前だ。
俺はとりあえず兵士を出そうとする。
武器は『M4』数は50体。
ただ、兵士は出なかった。
「あれ?アンデットが出てこない」
どうやらトレディアもアンデットを出そうとして出なかったらしい。
すると、リーダーのような男は笑いながら話した。
「私のスキルは『スキル封印』一度触れたもののスキルを封じることができるんですよ」
厄介なスキルこの上ないな。
自分では何かできるわけではないが、相手の手札を減らせるのはかなり厄介だ。
「みなさんがいつかのパーティに参加した時、『たまたま』握手していたおかげでこのスキルが使えました」
思い出した。
こいつは王国騎士団副長のドレッドノートだ。
すると突然、ロースターは剣を抜いた。
スピットさんも抜いた。
「抵抗するなら命は保証できませんよ」
ドレッドノートは嬉しそうにそう言った。
「少し時間を稼いでください。魔術で脱出します」
莞爾はいきなりそう言った。
ただ他に策があるわけでもない。
アレスとトレディアは前方に移動し、俺とロースターは後方に移動した。
前と後ろから莞爾を守る体勢をとる。
スピットさんは莞爾のそばに行き俺らが撃ち漏らした敵や攻撃を迎撃してもらう。
俺は『AK-47』を召喚しようとする。
が、召喚できない。
しまった。
スキルは使えないんだった。
となると俺には武器がない。
俺はこの世界に来てから、武器は常に自分で出していた。
持ち歩く必要がなかった。
俺は拳に魔力を込め、インファイト用の構えをとる。
「豊!これ使って!」
俺が武器を持っていないのを危惧したのか、アレスが自分の持っていた剣の一つを投げてきた。
俺はそれをキャッチする。
初めて持ったが結構重い。
俺がいつも使ってるのがナイフだから、慣れてないのもあるだろうが、一般的なやつより重いんじゃないだろうか。
これを片手で振っているのか.....
とりあえず俺はもらった剣を両手で握って構える。
騎士団の誰かが魔術を唱える。
「ブースト」
それが開始の狼煙だった。
「ブースト」
莞爾もブーストをかける。
次にあたり一面に魔法陣が展開された。
莞爾が何かしらの魔術を詠唱しているのだろう。
俺らは一斉に接敵した。
そこからはいつも通りの白兵戦。
ただ、俺はなれないアレスの日本刀、莞爾は現在魔術詠唱中で戦力外、さらには兵士が出せないため数的発生
劣勢。
正直かなりきつい。
俺らはだんだんと押され始めた。
防戦一方だ。
ただまだかろうじて後退はしていない。
「火炎弾」
「氷弾」
俺らの横を魔術が掠める。
その先にいるのは莞爾だ。
ただ、今の俺にそれに対処余裕はない。
ギリギリのところでスピットさんが両方とも迎撃してくれた。
俺とロースターはじわじわと後退し始めた。
相手はおそらくそうとうな手練。
「豊さん、足元に気をつけてください」
ロースターがそう言った瞬間、地面が凍った。
騎士団の兵士達は対応できずに転びそうになる。
「炎床」
ロースターが作った氷は敵の魔術師によって一瞬で溶かされてしまう。
「隙ありです」
ロースターは兵士の目の前まで来ていた。
そのまま鎧の隙間から兵士の腕を刺した。
ただ、多勢に無勢。
他のやつがロースターに斬りかかる。
ロースターは全力で避けるも避けきれず、胸を斬られてしまった。
俺はそれが許せなかった。
15歳の少女を平気で斬らやつが許せなかった。
俺は叫びながらそいつに切り掛かる。
「強風」
風魔術でさらに速度を上げながら剣にありったけの魔力を込める。
そしてそのままそいつの腹部をひと突きした。
俺の剣は鎧を貫通しモロに刺さった。
「準備できました!」
莞爾が叫ぶ。
俺らは急いで莞爾の魔法陣の中に入る。
ただ敵も手練れ。
魔法陣に移動する際、ロースターに斬りかかろうとする。
俺は急いでロースターをこっちに引き寄せた。
が、運が悪かった。
その刃はロースターには当たらなかったが、俺に当たってしまった。
かなり深い一撃だ。
傷口が焼けるように痛い。
ただ俺は気合いで魔法陣の中に入った。
「超局所的重力操作」
次の瞬間、俺らは空高く舞い上がった。
その一方で魔法陣内にいた騎士団の兵士達は重力によって押しつぶされてるようだった。
そしてそのまま俺たちは空を飛び少し遠くまで飛んだ後、裏路地に着地した。




