到着
俺らはテントを出て外に出た。
外に出ると、ちょうど兵士たちが食事をしていた。
肉を食う兵士、そして近くには肉を焼いている莞爾。
その近くには処理された後のフェンリル。
皮と骨だ。
兵士たちは美味しそうに食べている。
「アレスさん!ありがとうございます!」
「いっぱい食べなさい!」
アレスはえっへんと言わんばかりにそう答えた。
「アレス....何してるの?」
「余った肉をみんなに分けたのよ。ただ足りなかったからまた狩ってきたわ!」
あー、さっき莞爾が焼いていたのは追加の肉か。
にしても兵士100人分の肉っていったいどれだけ必要なんだ.....
「普通どうしても干し肉になってしまいますからね。アレスさん、ありがとうございます」
あの、「国王陛下」口調でロースターはお礼を言った。
「そうなんですか?」
俺も敬語で質問する。
「ええ、どうしても生肉をこの人数分は持っていけませんから」
そうなのか、となれば兵士からしたら有難いよな。
そんなことを思っていると召使いらしき人がこちらにやってきた。
「ベッドの準備ができました」
「わかりました」
すると、ロースターは俺の袖を掴み、そのままベッドのあるテントまで連れて行った。
俺らはベッドで横になる。
「寝ましょうか」
「だな」
「おやすみなさい、豊さん」
「おやすみ、ロースター」
俺はそのまま深い眠りについた。
目が覚めた。
あたりが暗い。
おそらく夜中だろう。
俺は抱きしめているロースターの手をどかし、外に出た。
あたりは静かで、数人の兵士がいるくらいだ。
おそらくは見張りなのだろう。
俺はそのまま何も考えず、ぷらぷらと歩き回った。
「わかりました、ではその方向でいきましょう」
どこからか聞いたことのある声がした。
その声は落ち着いていて年季を感じる。
ただ覇気があり、強さも感じる。
俺はその声の方向に向かった。
「これは豊様、どうなされました?」
セバスチャンさんだった。
「セバスチャンさん。どうしてここに?」
「仕事の都合で一緒に出発することができなかったので、早馬で急いで来ました」
この人はロースターの執事だ。
「こんな遅くにどうされました?」
「少し目が覚めてしまって、歩いていた所です」
こんな夜中まで馬を走らせなければいけないとは、執事っていうのは大変なんだな。
「豊様、少しお手合わせ願えませんか?」
急だった。
なんの前触れもなく、セバスチャンさんはそう言った。
「ええと、どうしてまた?」
「なんでもでございます」
どうしようか。
おそらくなんらかの意図があるのだろうが、その意図が全くわからない。
裏切るような人ではないし、前国王からの信頼もあついと聞く。
勿論現国王であるロースターの信頼もあつい。
おそらく何かしらの意図があるのだろう。
「わかりました」
そう言って俺とセバスチャンさんは少し離れた森の中へ移動した。
そして、セバスチャンさんが剣を抜く。
その剣先が俺に向けられる。
「では、よろしくお願いします」
その言葉が合図だった。
「ブースト」
彼がブーストを掛ける。
「ブースト」
俺も急いでブーストをかけるが相手はすでにこっちに向かってきている。
銃で迎撃するか....
いや、今はやめた方がいいな....
俺はギリギリのところでナイフを召喚し、セバスチャンさんの剣を受け止める。
そこから始まるのは剣対ナイフの白兵戦。
と言ってもリーチが短い分、俺は防御に徹する。
セバスチャンさんの剣はザ正統派と言った感じだ。
基礎が磨かれていて、一撃一撃が重く、鋭い。
もちろん俺も日頃からアレスの手数の多い、かつ一撃一撃が重い剣を受けているのでそこそこには応戦できている。
すると、セバスチャンさんは剣を止め、後ろに下がった。
通常は数メートルしか下がらないが、彼は数十メートル下がった。
「さすがは豊様。ですがこれはどうですか」
そういうと、彼は剣を鞘にしまい、身を低くして、剣に手をかける。
この構えは居合斬りの構えだ。
『神撃』
次の瞬間、目の前にセバスチャンさんが現れた。
本当に一瞬だ。
何が起こったかもわからない。
急いでナイフを目の前に出すが間に合いそうにない。
俺は急いで後ろに下がる。
が、胸が斬られてしまった。
致命傷には至ってないが、かなり深い。
戦いが長引くほど不利だろう。
もう一度セバスチャンさんは後ろに下がる。
さっきと同じ距離だ。
「では、もう一撃いきます」
あれはおそらくスキルだ。
どんなのかはわからないが、とてつもない速さで移動して、一瞬で斬られる。
ただ、居合い切り、しかもスキルならやれることはある。
俺は目の前にナイフを出し、実を低くして構える。
スキル全般に言えるが、発動まで時間がかかるため隙が生まれる。
その間に迎撃の姿勢をとるのだ。
『神撃』
くる。
「氷撃」
俺は5級水魔術を放つ。
もちろんそれはセバスチャンさんには効かない。
目の前で真っ二つに斬られてしまった。
が、目の前で剣を振り切ったセバスチャンさんはすぐには剣を振れない。
俺は「ロングソード」を召喚し全力で突っ込んだ。
その刃が彼に当たる直前、俺の剣ははたき落とされた。
「貴方には銃というものを使うスキルがあると聞きました。なぜ使わないのです?」
セバスチャンさんは距離をとりながらそう質問してきた。
「銃は音が大きいですから、みんなを起こしてしまいます」
すると、セバスチャンさんは剣を納め、こちらに近寄ってきた。
「流石は豊様です。そこまで気を使われていたとは、感服いたしました」
何がなんだか全くわからない。
なんで戦闘中止になったんだろうか。
「数々の無礼、大変申し訳ございませんでした。これをお飲みください」
そう言って治癒ポーションを渡された。
俺はそれを一気に飲み干した。
「あの、セバスチャンさん。何が何だか....」
「失礼いたしました、全てお話しします。それと私のことはセバスとお呼びください」
セバスさんは魔術で簡易的な椅子を作り俺を座らせた。
そして、セバスさんは全てを話し始めた。
「私は前国王陛下が処刑される間際、ロースター陛下を頼むと言われました。故に今回、ロースター陛下の婚約者であるあなたの実力を見せていただいたのです」
と、するなら、俺はセバスさんに傷ひとつつけられなかった。
結婚は認められないのだろうか。
「それなら、私は貴方に傷一つつけられませんでしたし、認められないんでしょうか」
俺は聞いてみた。
「いえ、かなり私もギリギリでしたし、何よりあなたには周りを思いやることができるとわかりました」
なんか許されたみたいだ。
さっきまでの行動のどこに思いやる心があるのかはわからないが....
「ロースター陛下はとても優秀で、仕事も武芸も非常に秀でています。豊様、どうか、ロースター陛下をよろしくお願いします」
なんか、相手の父親に挨拶に来た婚約者みたいな気分だ。
「はい。この命を賭してでも、ロースターを幸せにして見せます」
俺は真剣にそう答えた。
キャンプ地にもどり、俺は寝た。
さっきまでの運動のせいか、ベッドに入った瞬間にぐっすり眠ることができた。
次の日、俺らは再度旅を再開して、結局その貴族の邸宅についたのは夕暮れ時になってしまった。
ロースターに一緒に来るかと誘われたが、場違い感が半端ないということで遠慮させてもらった。
その日俺ら4人は適当な冒険者向けの宿に泊まり、夜を過ごした。




