出発
今日はロースターと海に行く日。
俺らは早速準備を済ませて待合場所まで行くことにした。
待合場所は王城。
海に遊びにいくなんて小学生以来だ。
前世では高校の時に一人彼女がいたが海なんて行かなかったし、すぐに別れてしまった。
男友達とは行こうとも思わなかったしな。
野郎の水着姿みたってしょうがないしな。
遠出ということもあって俺らの馬車にのった。
多分みんな忘れてるだろうが俺らは馬車を持っている。
まだロースターと出会う前、ヤルタさん達との卒業試験が終わった時にもらったものだ。
維持費が高いことが玉に傷だが、こういう時にはかなり役に立つ。
この学校を卒業したら旅に出るつもりなのでこの馬車『シルビア』は持っておきたい。
王城についた。
正門の奥を見てみる3台の馬車がある。
その馬車は綺麗な装飾をされており、王家の紋様が刻まれている。
さらにはそれを取り囲むように馬に乗った兵士がずらりと並んでいる。
その馬一匹一匹に鎧が着せられ、それに乗っている兵士もまた重武装だ。
たしか、重装騎兵と言ったずだ。
その数は100近くいるだろう。
俺らは門にいた門番に話しかける。
「すみません、予約していた(?)震電なのですが」
「了解です、少々お待ちください」
そういうって門番のうちの一人が中に入って確認しようとした時。
「その人達は震電の皆様です。中に入れてあげてください」
ロースターの声がした。
「失礼いたしました。どうぞ中へお進みください」
そう言って門番は通してくれた。
中に入るとその兵の多さと重武装さに声が出なかった。
圧倒的兵力だ。
すると一台の馬車からロースターが降りてきた。
「ようこそ皆さんお越しくださいました。どうぞこちらへ」
その口調は『国王陛下ロースター』の口調だった。
「それともみなさんが乗ってきた馬車でいきますか?」
俺らの馬車はお世辞にも豪華とは言えない。
装飾なんてないし、塗装すらされていない。
間違いなく場違いだ。
「いえ、せっかくですから陛下の馬車に乗らせていただきます」
俺も一応敬語で話しておこう。
「では、どうぞこちらへ」
こうして俺らは馬車に乗り込んだ。
中も豪華で赤いフカフカの椅子があった。
いいな、これ。
人をダメにするやつだ。
「陛下、それでは発車いたします」
こうして俺らの旅は始まった。
「ロースター陛下、どちらに向かわれるのですか?」
前回どっかの領主の場所と言っていたがすっかり忘れてしまった。
「もう、豊さんは別にそんな話し方しなくてもいいんですよ」
いつものロースターの口調に戻っていた。
「この中は完全に防音ですから大丈夫です」
「そうか、あの口調はなんだったんだ?」
「仮にも一国の王ですから、来賓には一応ちゃんとした態度を取らなければならないのです」
大変だな。
国王っていうのはもっと威張り散らかすものかとおもっていたんだがな。
「それで今向かっているのはアルベマール侯爵家の領地です。あそこは海に面しているのでそこで遊びましょう!」
なるほど、仕事ついでに遊ぶのか。
「何か有名な食べ物はあるの?」
アレスが目をキラキラさせながらロースターに質問する。
アレス、1番楽しみにしてたもんな。
「やっぱり海産物ですかね、中でもヴォートというものが美味しいらしですよ」
「それはどんなものなの?」
「すみませんがそこまではわかりません」
「まぁついてからのお楽しみだよ。僕も楽しみだし」
それから俺らは雑談していた。
評議委員会の話とか、あの学校の名前プレートの話とか色々だ。
ちなみにあのプレートはそういう魔法があるらしい。
鍛冶屋とか大工とかが主に使う、接着魔法というものらしい。
そんなことを体感時間で二時間くらいしていて思ったことがある。
遅い。
当然なのだが、馬車は遅い。
歩きよりは断然速いう上楽なのだが、前世の車に比べるとほんとに遅い。
多分自転車くらいの速度だ。
「あとどれくらいで着くんだ?」
「あと少しですよ」
そうか、この世界には持ち運べる時計がないのか。
それからさらに二時間くらいが経過した。
すると、ドアからノックの音がする。
ロースターが窓をあけると、兵士の一人がこちらに話しかけてきた。
「陛下、ここからは盗賊が多いと聞きます。お気をつけください」
そういうと、兵士は元の位置に戻って行った。
「皆さんも、気をつけてくださいね。ここら辺には大規模な盗賊団がいますから」
そうなのか、怖いな。
でも多分、重装騎兵が100人もいれば大丈夫だろう。
いや、これはフラグか....?
「そいつらって強いの?」
アレスがロースターに聞く。
まさかアレスさん、戦おうとしてるわけじゃないですよね?
「そんなに強くはないんですが、一人腕の立つ魔術師と剣士がいると聞きます。その人達の強さが桁違いだそうです」
すると、莞爾が突然
「囲まれてますね」
と言った。
「探査魔術です。数にして100はいるかと」
まじか、それ多分というか絶対にさっきの盗賊だよな。
するとロースターが窓を開けて叫ぶ。
「敵に囲まれています!」
すると周りの兵たちは馬車を止め、剣を抜いた。
そしてさっきの兵士がまたこっちに来た。
「陛下は馬車の中で身を隠していてください」
そう言って馬車の窓を閉めた。
「ちょっと外に行ってくるわ!」
アレスが元気よくそう言った。
「僕もいってくるよ」
「じゃあ私も」
待て待て待て、盗賊がいるんだぞ?
でもな、ロースターを守らなければいけないしな。
ここで逃げたら男が廃るか。
「じゃあ俺も行く」
すると、ロースターが心配そうにこっちをみて、俺の袖を掴んだ。
「絶対に死なないでくださいね」
「ああ、お前と結婚するまでは死ねないよ」
と、盛大にフラグを立てて、俺らは外に出た。
「危険ですので皆様は馬車の中に!」
兵士は焦っていた。
そりゃそうだ、来客がわざわざ危険なとこに来たのだから。
「大丈夫よ!私たちも加勢するわ!」
そう言って俺らは四方に散らばる。
俺は兵士を出せるだけ出した。
武器は取り回しのいい『M4』だ。
トレディアも重装スケルトンを出せるだけ出した。
スケルトン自体は強くないが、鎧をまとった重装スケルトンになるとかなり強くなる。
一気に総兵力は400追加された。
内訳は俺の兵士が150と、トレディアの兵士が250だ。
森の中から笛がなった。
次の瞬間、四方からお世辞にも身なりがいいとは言えない輩が大量に出てきた。
「撃て!」
俺は斉射を命令する。
「戦闘開始!」
トレディアも重装スケルトンたちに突撃を命令する。
俺の方は圧倒的だった。
相手はおそらくそう強くない。
銃弾数発なら躱せるが100人から攻撃となれば話は別、と言った感じだ。
トレディアの方も優勢だった。
アレスは敵が見えたと同時に突っ込み、そのまま目の前にいる敵を切り刻んでいた。
アレスの攻撃は一撃一撃が重い。
生半可なガード通用しない。
莞爾もお得意の光撃魔法で敵を大量に倒していた。
もちろん、重装騎兵の人達も負けてはいない。
こうして、あらかたの山賊が片付いた時、左右から2人の人が出てきた。
「これはすごいなぁ、味方が全滅だぁ」
「お前ら、殺す」
片方は剣を持ち、片方は杖を持っている。
雰囲気だけでわかる。
こいつらはさっきロースターが言っていた、腕の立つ剣士と魔術師だ。
剣士の方はアレスと、魔術師の方は莞爾と向き合っていた。
「きみぃ、名前はなんていうのぉ?」
「アレスよ」
「そうかぁ」
次の瞬間、その剣士はアレスに近づき、白兵戦になった。
火花を散らすその戦いはアレスがやや劣勢だった。
「さっきまでの威力がないねぇ、速度に持っていかれてるんじゃないぃ?」
「そうね、速度を出さなきゃいけない分、威力が足りないわよね」
気づけばアレスの周りには血が飛び散っていた。
体の中心は外しているものの間違いなく切られている。
「それじゃあ、勝負といくわよ」
次の瞬間、アレスは剣を片方落とし、全力で後ろに飛ぶ。
「何するんだいぃ?」
奴は笑いながらアレスを見る。
「最重の一撃をくらわせてあげるわ」
アレスは全力で踏み込み、限界まで剣を上げ、そのまま全身全霊で剣を振り下ろした。
その一撃の風圧は凄まじかった。
『硬化』
が、奴はそれを真正面から受け止めた。
「僕のスキルはねぇ、体を固くすることなんだぁ。だからねぇ体が動かなくなるんだよぉ」
「それでいいのよ」
次の瞬間、いきなり奴の後ろから斬撃が飛んだ。
トレディアだ。
奴はギリギリで回避するも、体勢が悪い。
「もう一撃よ」
アレスはさっきと同じ斬撃を繰り出す。
『硬化』
奴は体勢が悪いながらにもそれを受け止める。
「君、それ使ってる時は体が動かないんでしょ?」
そういうとトレディアはニヤリと笑った。
「接触消滅」
そう言ってトレディアは奴に触った。
奴は触ったところから徐々に消えていった。
「僕は死ぬのかぁ」
それが奴の遺言だった。
莞爾は魔術師と睨み合っていた。
「莞爾!大丈夫か!」
俺は急いで莞爾のところに駆けつける。
「豊くん、少し時間を稼いでくれませんか」
「わかった」
おそらく莞爾は何か準備をするのだろう。
「ブースト」
俺は魔術師に突っ込んだ。
魔術師は遠距離戦が基本だ。
近距離なら勝機がある。
「風斬」
奴は風の刃で俺を攻撃する。
「空間調整魔術 真空」
が、その刃は俺に当たることなく消えていった。
「どうです?私が新しく作った魔術は」
「くそっ、殺す」
俺は奴と白兵戦を開始した。
俺はナイフ、あっちは杖。
勝機は俺にある。
相手は防戦一方だった。
奴から鮮血が舞う。
いい感じだ。
そして奴が杖を右に動かした時、俺は真ん中にナイフをねじ込もうとした。
ただ、それはブラフだった。
「氷連弾」
俺は氷の弾丸を真正面から喰らってしまった。
貫通こそしなかったものの腹部からの出血がひどい。
俺は意地で立ち上がり、もう一度白兵戦に持ち込む。
そして奴が杖を真ん中に持ってきた時、俺は賭けに出る。
俺はナイフを消し、メイスを召喚した。
そしてありったけの魔力を込めて、その杖をぶん殴った。
杖が折れた。
「豊くん!準備できました!」
そう言われたので俺は全力で離脱する。
「物質精製魔術 応用 兵器精製 超電磁砲改」
音速を超えた弾丸が発射された。
生徒会長、グラン・スカイホークが敗れたあの技だ。
「土壁」
奴は土壁を作るも簡単に貫通してしまう。
奴は音速の弾丸を喰らって死んだ。
「弾丸を劣化ウランに変えた超電磁砲改です」
莞爾は説明するようにそう俺にいってきた。
「とんでもない威力だな」
「さらにパワーアップさせるつもりです」
一体何をするつもりなのか....
「そっちも終わったのね」
アレスとトレディアが来た。
「豊、傷すごいけど大丈夫?」
トレディアが心配そうにこっちをみる。
「今治します」
そう言って莞爾が俺に治癒魔術をかけてくれた。
しばらくすると痛みは消え、傷は元通りになった。
服はダメになったが....
とりあえず俺らは馬車に乗った。
「豊さん!大丈夫ですか?!」
乗って1番、ロースターに心配された。
「ああ、怪我も治ったし問題ないよ」
「よかったです」
ロースターの目はうるうるとしていた。
心配をかけてしまった。
「じゃあ、旅を再開しましょ!」
盗賊に襲われたことなんかよりも、アレスは早く海に行きたいようだった。




