生徒会革命
みなさん、いかがお過ごしだろうか。
私は、ライナット王国立魔剣術玲瓏学校の評議委員の豊だ。
生徒会役員選挙から一週間が経ち、生徒会の制度は廃止、評議委員会制度に移行した。
そんな我々評議委員会は校内大革命をしている真っ最中である。
俺ら4人は席に座り、旧生徒会室で話し合いを始めた。
「名称の変更と、生徒会制度の廃止は終わった。次にすることは部活動の作成と、学割制度の導入だな」
「部活動のことは私から学校長に伝えてあります。まだ準備中ですが、一ヶ月後には部活動をすることができると言われました。」
「部活動って何があったんだったかしら?」
「『剣術流派研究部』『魔術研究部』『軍事戦略研究部』『魔剣術研究部』の4つをとりあえず作るつもりだよ」
正直ここまでは校内の問題なのでなんとかなる。
問題なのは郊外との連携を取らなければいけない学割制度の導入だ。
「学割はどうするの?」
「野外演習で狩ったモンスターの肉や、授業で作ったスクロール、あとは地域とのコミュニケーションや社会科見学と称して労働力を街の人に提供すれば学割ができるんじゃないかと考えている」
「でも、それだけだったら飲食店と武器屋以外の場所の学割はつかえないよね?」
そこが問題なのだ。肉を提供すれば飲食店は協力してくれるだろうし、スクロールを提供すれば武器屋が協力してくれる。
あ、ちなみにスクロールとは、紙みたいなもので、そこに魔力を流し込むと魔術が発動できるものだ。
まぁ、異世界あるあるのあのスクロールとおんなじだ。
それを授業で作るため、作ったやつを武器屋に提供すれば武器屋も学割に協力してくれるだろう。
ただ、他の店ではこの学校から提供できるものがない。
「うーんどうしたものか」
俺らが悩んでいるとトレディアが手を挙げた。
「無理に全部に学割をする必要はないんじゃないかな?」
「というと?」
「使えるお店を限ることでその店にお客さんがいっぱい入ってくるでしょ」
「そうね」
アレスが不思議そうにそう返す。
「そうすると、売り上げは上がる」
「そうだな」
「それを見て他の店も学割をすればお客が入ってくれると思うんじゃないかな?」
なるほど、確かに一理ある。
だが、そんなにうまく行くのだろうか。
ただ現状、他にいい案も思いつかないのでそれにするか。
「そうしよう。2人もそれでいいか?」
「ええ、問題ないわ」
「異論はありません」
と、いうことで、俺らは学校を出て市場や商店街に行くことにした。
ちなみに莞爾はお留守番で、学校で教師に野外演習を増やしてもらえるように頼んでいる。
この学校は野外での活動が少ない。
冒険者の学校なのにそれが少ないのは問題なので実践経験を積ませるため、と言うことを理由に増やしてもらうよう頼んでみる。
ちなみにもう一つの目的は商店街に肉を提供しなければならないためだ。
俺らは一軒一軒商店街のお店に学割制度の参加をお願いした。
すぐに受け入れてくれる店、疑いながらも許可してくれた店、門前払いされた店、色々だ。
「七割くらいの店は承諾してくれたね」
「なによ、さっきの店のあの態度」
「まぁまぁ」
「あの店には絶対に行かないわ!」
さっきの店とは少しお高い店だ。
学割に参加してくださいと頼んだら、店の品位が落ちると小馬鹿にされた挙句門前払いされてしまったのだ。
「覚えてなさい!絶対に後悔させてやるわ」
「アレスさん....一体何をする気なんですかね....」
確かにあの店の態度は気になった。
ただアレスさん、暴力事件だけは起こさないでくださいね....
そんな感じでお店を巡っていると、見慣れた看板が目に入った。
名前は『ラチルア食堂』
そう、前にロースターと来たところだ。
俺らは中に入る。
「いらっしゃいませ、あ!豊さん!」
「久しぶり、シレジア。お父さんいるかな?」
「え?あ、はい。すぐに呼んできますのでこちらでお待ちください」
と言って俺らを席に案内してくれた。
シレジアのお父さんであるグラードさんはこの店のコックだし、急に呼び出したのはまずかっただろうか。
「ねぇ、この店って、前に豊が言っていたところ?」
「ああ、そうだよ」
「なら、せっかくだしお昼ここにしましょうよ!」
そういや、まだお昼を食べていなかった。
時間も多分昼頃だしここでお昼にするか。
「お久しぶりです、豊さん。本日はどうされました?」
現れたのは筋骨隆々の40代くらいの大男、グラードさんだ。
「お久しぶりです、グラードさん。今日は冒険者学校より、学割という制度を提案しに来ました」
「学割とはどんなものなんですか?」
「学割とは、冒険者学校の生徒にだけ少し値引きして料理を提供して欲しいのです。その対価として冒険者学校からモンスターの肉をこのお店に提供する。という制度です」
こんなことを言っておいてなんだが、この店って肉取り扱ってたっけ?
「なるほど、我々が料理を安く提供し、冒険者学校は肉を提供してくれると。いいですね。お願いします」
グラードさんは2つ返事でオッケーしてくれた。
「せっかくですし、何か食べて行きますか?『学割』していきますよ」
「じゃあ私ミネスクのパスタ!」
真っ先に答えたのはアレスだった。
「じゃあ、僕もそれで」
「じゃあ俺も」
「ミネスクのパスタ3つですね。かしこまりました」
そういうと、グラードさんは厨房のほうにいった。
「これでとりあえずは終わりかな」
「結局どのくらいの店が学割に参加てくれたんだい?」
「七割くらいかな」
「そこそこいい結果ね」
確かに、いきなり押しかけてこれだけの店が賛同してくれたのはいい結果かもしれないな。
「そういや、ミネスクのパスタってどんな味なんだい?」
「マイルドなチーズと塩味がクセになる、食べたら虜になる味です!」
いきなり後ろから声がした。
振り返るとそこにいたのはシレジアだった。
「ミネスクのパスタはこの店で1番人気のパスタです!」
「たのしみね!」
アレスは元気いっぱいにそう答えた。
「君も、この店で働いているのかい?」
トレディアが不思議そうに質問する。
「はい!」
「小さいのに偉いね」
そう言われると、シレジアはニコニコ笑った。
なんか、見た目だけでいけばトレディアも12から13歳なんだよな。
まぁ、魔王みたいな黒くて禍々しいツノがあるんだが...
「お待たせしました、ミネスクのパスタです」
出されたのは美味しそうなパスタ。
チーズがほんのり香り、食欲をそそる。
「美味しそうね!」
アレスは出されたと同時に食べ始めた。
そこに品なんてものはない。
トレディアもゆっくり食べ始めた。
こういう時、トレディアはちゃんとしてくれるからありがたい。
最近様子がおかしかったけど....
俺もパスタを口に入れる。
チーズと塩がいい感じだ。
俺らは一瞬でパスタを平らげた。
「美味しかったな」
「また来たいわね!」
「今度は莞爾といっしょにきたいね」
「そうだな」
莞爾はお留守番しているからな。
なんか、申し訳ないことをした。
俺らはお会計を済ませて店を出た。
「やることもやったし帰るか」
戻ることにした。
なんとなく莞爾に申し訳ないので手土産として屋台で売っていたダリオルというお菓子を5つ持って行くことにした。
ちなみにその場でアレスは一つ食べた。
手土産用のやつを。
学校に入り旧生徒会室に戻ると、莞爾が書類を書いていた。
「おかえりなさい。どうでした?」
「七割くらいの店は承諾してくれたよ」
「それはよかったです。こっちも野外演習を増やすという方針で決まりました」
それはよかった。
もし認められなければ十分な量の肉を提供できずに学割制度は廃止になってしまう。
「あ、それからお土産」
俺はダリオルを渡す。
5つ買ったはずなのだが3つに減っていた。
さっきアレスが一個食べたのはわかる。
なぜもう一つ消えているのだろうか....
「あれ?なんか足りなくないか?」
アレスの方を見ると口をもぐもぐさせていた。
「わはひはひらないわほ」
うん。
原因はこいつだ。
「トレディア、やれ」
「オッケー」
その後のことはご想像にお任せします。
そんな感じで順調に改革は進んだ。
とりあえず一通り問題はクリアだ。
一ヶ月後、部活動と学割が始まる。
それがどうなるかだ。




