最高指導者
俺らは進級した。
今日から2年生だ。
莞爾は成績トップクラス。
俺とトレディアは中間。
アレスは少しやばかったが、武技大会で準優勝したのでそこが加点された。
そういや『王虎』との決闘だが、なんでもヤルタさん達曰く
「せっかくだから卒業するときにやり合おう」
とのことらしい。
時期的にはそろそろこの国についてもおかしくはないのだが....
そんな俺たちは今、食堂でご飯を食べている。
隣にはロースターもいる。
ちなみに今日はいつものパンとスープじゃない。
なんかよくわからないチーズのようなものもセットだ。
味は正直前世のチーズに劣るが、そこそこ美味い。
「すみません。ロールさん。少しよろしいですか?」
後ろから声がした。
ロースターに話しかけたのはリオット王女だった。
「はい。構いませんよ」
「少しお借りしてもいいですか?」
「俺らは構いませんが」
そういうと、ロースターを連れてどこかへ行ってしまった。
なんだったのだろうか。
リオット王女というと、デーテン王国の王女様。
この学校に急に貴族が多くなった理由の人だ。
元々強い人を自国に入れるための勧誘目的で入学している。
ただ、あんまり上手くはいってないそう。
声をかけてるのはよく見るが、成功しているのはあまり見ない。
大して強くもない貴族が周りにやってくるが、それは一蹴しているそう。
俺らはとりあえず教室に戻って午後の授業を受けた。
その間もロースターは帰ってくることがなかった。
普通、授業をサボると何か言われるがデーテン王国の王女とライナット王国の国王が話してるとなればおそらくお咎めもなしなのだろう。
放課後、ロースターが戻って来た。
リオット王女も一緒だ。
「こんにちは震電の皆さん。私はデーテン王国第二王女のリオットと申します」
「こんにちは、私は豊、こっちは左からアレス、トレディア、莞爾です」
俺らのことを知ってくれていたのか、ありがたい。
「あの、豊さん。少し話を聞いてはくれませんか」
リオット王女は何やら少し暗い顔で話し始めた。
なんとなくだが嫌な予感がする。
政治系の話はごめんだ。
「リオット、場所を変えましょう」
ロースターがそういって俺らを先導する。
どこに連れていく気だろうか。
リオット王女の話とはなんなのだろうか。
正直、デーテン王国の内情はよく知らない。
それとも案外、勧誘がうまくいかないのでどうしたらいいですか?とかだろうか。
そうであって欲しい。
しばらく歩くと着いたのは、応接室だった。
流石王族、空き教室とかではないらしい。
俺らは先に座る。
「リオット、この人達は大丈夫よ」
「ありがとうロースター」
そういや2人とも名前をそのまま呼んでいる。
友達なのだろうか。
「なぁ、2人って友達なのか?」
「はい、リオットとは昔からの友人です。政治的な意味もあったのでしょうが、幼い頃はよく一緒に遊びました」
なるほど、意外な接点だ。
いや、意外というほどでもないか。
「それで、話なんですが.....」
「リオット安心して、この人達はこの国を救った英雄よ」
そんなに持ち上げないで欲しい。
あれはたまたまであって俺らにそんな力はない。
「デーテン王国の王家には現在、お姉様と私と弟がいるんです。それで、お父様がなくなったらお姉様が王になるのです。」
デーテン王国は女も王になれるのか。
なんとなくだがああいうのって男がなるものだと思ってた。
「それで、お父様が亡くなったらお姉様が王になるのですが、そしたらお姉様には摂政が付くんです」
確か摂政とは、王が女だった場合に付くやつだ。
まぁ、男女平等なんて概念がないこの世界らしい。
「それで何か問題があるのか?」
「その摂政になる人が、あまりいい人ではなくて....」
まぁ、よくある話しだ。
アニメや漫画の見過ぎかもしれないが、そういう奴は大体権力に溺れてる。
「その人は今、王に次ぐ2番目の権力を持っていまして、国民皆平等、という目標を掲げ王国内での人気も高いのですが、自分に反対する人は殺すんです」
よくありがちな奴だ。
権力者に不都合な人間は殺される
「その...確かにそれはひどいがそんなに珍しい話ではないのでは?」
「いえ、彼はその人数がおかしいのです。反対したら殺され、疑われても殺されるのです。実際、宮廷内でも不審死をしてる人が多いのです。彼の領地にもたくさんいます」
その後の話はこうだ。
彼の思想に反対な人間はかなりの数殺されたらしい。
宮廷内の重鎮、活動家、さらには民衆にまで及んだらしい。
彼の領地内では、既に1000を超える民衆が逮捕、処刑されているらしい。
これは異常だ。
「しかもその人、出生がよくわかってないんです。見た目は50歳くらいなのに、両親は初めからいないっているんです」
「その人の思想っていうのはどんなのなんですか?」
俺は少し気になった。
やはり民衆からの支持があついなら、そう悪い人ではないのだろうか。
「確か、財産を個人が所有するのではなく、国が全てを所有とすることで貧富の差をなくすことを目指すっていってました」
なるほど。
思想的には社会主義や共産主義といったところか。
「その人の名前ってなんでいうんですか?」
「ヨシフ・スターリンです」
え。
俺は頭が働かなくなった。
嘘だと信じたい。
たまたま同じ名前の人だ。
きっとそうに違いない。
「その人、出生がわからないんでしたっけ」
「はい。なぜかいくら探しても出てこないのです」
「豊、そのスターリンってまさか....」
そういったのはトレディアだった。
そうだ、トレディアはスターリンの大粛清によって亡くなったのだ。
「スターリン。確か、ソ連の最高指導者でしたっけ?」
莞爾が俺に聞く。
こいつの時代にもスターリンがいた。
「ねぇ、みんな、どうしたの?」
アレスが不思議そうにこっちを見る。
アレスの時代のかなり先だからな。
知らないのは当然だ。
「ねぇ、豊。そのスターリンって奴、殺そうよ。あいつはここにいちゃいけない。みんなのためにもね」
そういうトレディアの目は獣のようだった。
「あの、皆さん。どうされました?」
リオット王女が心配そうにこちらをみつめる。
俺ら3人はロースターとリオット王女とアレスにスターリンについて話すことにした。
まず、リオット王女のためにも、俺らは異世界から来たこと。
次に前世の世界で、スターリンというやつがどんなやつだっか。
最後におそらくは同一人物であるということ。
ヨシフ・スターリン。
ソビエト社会主義共和国連邦の2代目最高指導者。
彼が行った『大粛清』の犠牲者は800万~1000万人とも言われている。
優秀な政治家や将校の大半を殺した、まさに狂人とも言える。
リオット王女は困惑していたが、信じてくれている様子だった。
にしてもなぜ、スターリンなのだろうか。
神様はこの世界で独ソ戦でもするつもりなのだろうか....
することトレディアがいきなり、
「リオット王女、僕もスターリン暗殺に協力します」
「いえ、別に暗殺だけが手段では....」
「いえ、奴は殺すべきです。そうしなければ、奴はさらに人を殺します」
トレディアはスターリンによって殺された。
おそらくはその恨みだろう。
ただ正直、俺もスターリンは殺した方がいいと思ってしまう。
「ですがいずれにしろ、協力してくださるのはありがたいです。ありがとうございます」
「なら私も協力するわ」
「なら僕も協力します。ノモンハン事件での借りもありすので」
と、いつものように協力ムーブになってしまった。
「じゃあ私も協力いたします」
ということで、無事巻き込まれてしまった。




