星空
飯を食っていた。
この世界では貴重な肉料理もズラリと並んでいる。
「ねぇ豊、結婚するのは構わないけど、君この国の王になるの?」
トレディアは不思議そうにそう聞いた。
よくよく考えたら、確かに前世社畜の俺にそんな能力もノウハウもない。
「それなら大丈夫ですよ。そこら辺は全て私がやります。」
「なら、安心だね」
なんかものすごく悪い気がする。ただ、だからと言って手伝えるわけでもない。
どうするべきか。
「私からも一つ質問なんだけど、身分的な方は大丈夫なの?」
そうだ、そこだ。
俺は平民相手は国王。
いきなり結婚しましたとか言ったって認められるものではない。
「そこなんですよね。貴族にでもなれば話は別なんですが....」
「謎な奴がいきなり貴族になったら周りから不審がられるよな」
「そうなんですよね。なのでとりあえずは公表しない方針にしようかなって思ってます」
「それがいいな」
この世界は階級社会。
身分は絶対だ。
貴族にはなかなかなれない。
何か表立って国を救ったりすれば話は別だろうがそんな機会はほとんどない上に俺にはそんな力もない。
ご飯も食べ終わり、俺らは帰る事にした。
遊びに来たのにご飯まで頂いてしまった。
迷惑だっただろうか。
「それじゃあ僕らは帰るから、あとは2人きりで楽しんで」
トレディアがそういうと、3人は出口に向かう。
「あ、いや、俺も帰る....」
「いいから、後は2人で楽しんでね」
そういうと3人は行ってしまった。
「あ、そうだ、プレゼンがあるんだ」
そういって俺は百合の花に似たヘアアクセサリーをロースターに渡した。
「ありがとうございます。大切にします」
そういうとロースターは早速付けた。
中々に似合っている。
少しの沈黙の後、ロースターが話し出す。
「そうだ。少し外に出ませんか?」
そう言って俺の腕を掴み、外に連れ出された。
どうやら俺に拒否権はなかったらしい。
まぁいいけど。
そうしてベランダから見えたのは満点の星空。
前世では見れないような、なんとも形容し難い美しい空だった。
「私、この空が好きなんです。お父様とよく見たんです。」
「そうか」
なんて返せばいいか、俺にはわからなかった。
ただロースターの表情に悲しみはなかったように見えた。
「なぁ、なんで俺か聞いてもいいか?」
そういうと、ロースターは不思議そうにこちらを見つめた。
「俺より金も権力もある奴なんてお前の周りにいっぱいいる、俺より強いやつもいっぱいいる。顔がいいやつもいる。それなのに、なんで俺なんだ?」
「それは、豊さんが、私のために親身に悩んで、命懸けで行動してくれる人だからですよ。そんな人私は初めて見ました」
「でも、俺には力も権力もなにもないぞ」
「そこは私がなんとかすればいいんです。豊さんが気にすることではありません」
「そうか」
「そうです」
少し寒くなってきた。
酒を飲んでるとはいえ真冬の寒さは体に堪える。
「寒くなってきましたね」
「そうだな」
「あったまりたいので抱きしめてください」
そういうロースターの顔は真っ赤だった。
酔っているのだろうか。
いや、おそらくは他の理由が大きい。
ここでためらうのはロースターに失礼だろう。
「わかった」
そう言って俺はロースターを後ろから優しく抱きしめた。
彼女は小柄で、身長は150㎝前半だろうか。
「ありがとうロースター」
「どうしたんですか?」
「いや、俺も寒くなってきたからさ、お前を抱きしめてるとあったかいなって」
そういうと、ロースターの顔は真っ赤になっていた。
俺は思わず笑ってしまった。
するとロースターもこちらを見た。
「お顔真っ赤ですよ」
「お前もな」
そう言って2人で笑った。
少しして、セバスチャンさんがやってきた。
「夜は冷えます。こちらをお使いください」
そう言って渡されたのは二枚の毛布だった。
俺はそれを一枚ロースターに渡した。
「一枚ずつ使うより、2枚まとめた方があったかくなると思いませんか?」
「え、まぁ、そりゃそうだな」
「じゃあ2枚まとめて使いましょう」
そういうと、ロースターは俺の毛布と自分の毛布を重ねて、それを俺にかけようとした。
背伸びしているのがまた可愛らしい。
俺は少し屈む。
そしてかけ終わると
「早く抱きしめてください、寒いです」
「わかった」
そう言って俺はまた、抱きしめた。
そうして俺らは雑談しながら星を見ていた。
本当にくだらない話だ。
トレディアが最近おかしいとか、アレスの脳筋を治す方法とか、莞爾はいつになったら敬語をやめるのだろうかとかそんな話だ。
そんな話をしばらくしていた。
「そろそろ寝ましょうか。夜も遅くなりましたし」
すると、セバスチャンさんが入ってきた。
「お風呂の準備ができました」
「じゃあ行きましょうか」
「ああ」
俺らは風呂に向かった。
にしてもさっきからちょうどいいタイミングでセバスチャンさんが入ってくる。
もしかして後ろから見られてた....?
「それじゃあ入りましょうか」
そういうとロースターは脱ぎ始めようとした。
「ちょっと待て、それはダメだ」
コンプラ的にアウトだ。
前世でそんなことをしたら間違いなく捕まる。
俺は全力でロースターを説得した。
「わかりました」
ロースターは少ししょんぼりしながらそれを承諾した。
「じゃあ、豊さんからお先にどうぞ」
「いや、ロースターの家(?)だし、そんな悪いよ」
「豊さんには先に入って欲しいんです」
と、懇願されてしまったので、先に入る事にした。
中に入るとまぁ、豪華絢爛だった。
わかってはいたがかなりでかい。
前世の25mプールが8レーンくらいまであるような風呂だ。
とりあえず体を洗って、髪を洗って俺は風呂に浸かった。
生き返る。
この風呂に浸かった瞬間がたまらない。
ただなんというか、広過ぎて落ち着かない。
俺は隅の方で、こじんまりと浸かっていた。
ん、というかちょっと待て俺はすぐに帰るつもりだったんだ。
なんでこんなゆっくり風呂に浸かっているのだろうか。
とりあえず風呂から出る。
そして着替えて、ロースターのところに向かう。
が、一つ問題があった。
どこに向かえばいいのだろうか。
この城はめちゃくちゃ広い。
するとセバスチャンさんがやってきた。
「お風呂はいかがでしたか。ロースター陛下がお待ちしています。どうぞこちらへ」
そう言って俺を案内してくれた。
ありがとう!セバスチャンさん!
「あら、意外と早かったですね」
「いや、俺そろそろ帰らないと....」
「泊まっていくんじゃないんですか?」
「いや、迷惑だろうし....あいつらにも何も伝えてないし」
「迷惑じゃないですよ。それに他の皆さんには既に伝えてあります」
「え?」
「泊まっていくまでが作戦です」
あーね。
うん。
完全に理解した。
そこまで計算されてるのね。
流石は策士ロースター。
「じゃあ次は私が言ってきますね。一緒に来てくれても....」
「いかねーよ」
「そうですか....まぁ、いいです。えへへ豊さんの....」
というとロースターは風呂に浸かりに行った。
おいまて、あいつ最後すごいこと言わなかったか....
「あの、セバスチャンさん。ロースターっていつもあんな感じなんですか?」
俺は近くにいたセバスチャンさんに話しかけた。
「いえ、普段はあのように甘えたりする方ではございません。おそらく豊様だからかと」
「そうですか」
なんか、嬉しいな。
自分にだけそういう態度を取るっていうのは嬉しい。
異論は認めん。
その後はセバスチャンさんと話していた。
彼が執事になった経緯、ロースターのこと、前国王陛下の事。
ちなみに彼、めちゃくちゃ強いらしい。
冒険者ランクだと、間違いなく一級レベルだ。
憧れる。
しばらくするとロースターが上がってきた。
「じゃあ寝ましょうか」
俺らは部屋の明かりを消して、ベッドに入った。
もちろんベッドは一つしかなかった。
といってもめちゃくちゃでかい。
間違いなく、どんだけ寝相が悪くても落ちることはないだろう。
ロースターが俺を抱きしめる。
俺も抱きしめようか迷ったがやめておいた。
やっぱね、うん。
よくないよ15歳だもん。
「豊さんは抱きしめてくれないんですか」
ロースターはしょんぼりした声でそういった。
「私のこと嫌いですか」
それはずるい。
俺はロースターを思いっきり抱きしめた。
暗かったが、ロースターが『えへへ』と可愛らしく笑っているのがよくわかった。
「おやすみ。ロースター」
「おやすみなさい。豊さん」
ちなみに、しばらくしてから、酔った勢いでああいうことをしたロースターは少しよそよそしくなり、トレディアからはヘタレと呼ばれるようになったのはこの後の話である。




