武技大会 後編
朝日と共に目が覚めた。隣にはロースターがいる。彼女は俺を抱きしめながら寝ていた。俺は抱き枕じゃないぞ。
俺は起こさないようにそっと手をどかして起きる。
「ん....」
「悪い、起こしたか?」
「おはようございます。」
そういう彼女はまだ寝ぼけているような顔をしていた。15歳の少女にそんな気はないが、やはり、寝ぼけてる女性の顔というのはどこか魅力的である。(美人に限る)
とりあえず俺はいつも通り朝食を作って5人で食べる。
「今日が最終日か。そういや、生徒会長達は見つかったのか?」
「それがまだらしいんだよね。そもそも会場に生徒会長達の声が聞こえなかったから、事件として扱うのは難しいって」
生徒会長のあの台詞を聞いたのは俺とトレディアだけだ。他の教師も何かトラブルに見舞われたらしく、現場に教師が少人数しかいなかった。
まぁ、そんなことを言ってても仕方ない。俺らは飯を食い終わると、学校へ向かった。
「みなさん!頑張ってください!」
「ええ、もちろん。負けるつもりはないわ!」
「僕も負けるつもりはないよ」
「私は、一ヶ月の研究の成果を今日見せたいと思います」
「俺も、なんとかして勝ちたいな」
気づけば3日目、今日は武技大会最終日。俺らは闘技場の入り口に立つ。観客が沸いている。そこからは双方を応援する声でいっぱいだ。
俺とトレディアはこの試合の相手と向かい合う。相手は片方は聖的剣士、片方は魔術師。
長い赤色の髪をした聖的剣士は勇ましいオーラを醸しながら、魔術師は前世の基準だと男にしては少し長めの青色の髪をした、どこか不気味なオーラを纏いながら入場してくる。
その2人の名は
アレス・クロエルそして山本 莞爾だ。
そう、決勝戦はこの2人だった。
両者が構える。アレスは両手に刀を持ち、莞爾は両手で杖を握る。
試合開始の合図が解除に響いた。
「ブースト」
「ブースト」
「ブースト」
俺とトレディアと莞爾はブーストをかける。そしてそのままアレスがトレディアに向かって全力で突っ込む。その速度はあの鍛錬の一ヶ月でさらに磨きが掛かり、まさに雷のようだった。
「氷連弾」
トレディアは魔術で応戦する。が、その全てをアレスは一刀両断し、そのままトレディアとの白兵戦に持ち込んだ。
そこから行われるのは火花を散らす戦い。これは比喩じゃない。本当にとてつもない火花が散っているのだ。
ただやはり、手数において有利なアレスが優勢になる。トレディアはどんどん肉を削られ、血を出していった。
「土塊」
次の瞬間アレスの真上から大きな土の塊が落ちてきた。
アレスは急いで後ろに下がる。
「氷連弾」
トレディアの追撃が掛かる。アレスは今度の攻撃も紙一重で左に避けた。
「飛翔斬」
左に避けた瞬間だった。突如として魔力の斬撃が飛んできた。アレスは刀で塞いだが、その重みに耐えきれず、後ろに飛ばされた。
「超脚力向上」
「超腕速向上」
トレディアが魔術を唱え、そのままアレスに全力で突っ込んだ。
身体能力においてアレスは頭ひとつ抜けている。故に長期戦や単純な打ち合いは不利だと判断したトレディアは、魔術を短期間にかつ大量に使うことで勝つ、超短期決戦にしようとしたのだ。
「飛翔斬」
アレスが起き上がった瞬間、トレディアの斬撃が飛ぶ。
アレスはそれを受け止めるも、またさらに飛ばされてしまう。
「土壁」
アレスが飛ばされたところには土の壁があった。アレスは強く壁に打ち付けられる。
「氷連弾」
さらに追撃をかけるようにアレスに多数の氷の弾丸が押し寄せる。
アレスはそれを壁に打ち付けられ、座っている状態で全て斬った。
アレスはそのまま壁を蹴り、トレディアに全力で突っ込んだ。トレディアにギリギリまで近づいた時、全力の一撃を喰らわせる構えになっていた。
「壁のおかげで加速できたわ」
「さすがアレス、身体能力が桁違いだね」
アレスの剣は気づけば一振になっていた。
「これが私の最重の一撃よ」
アレスはまさに音速とも言える速さの横一文字斬りを繰り出した。
「超重力」
次の瞬間だった。アレスの剣は速度を失い、その剣は下に下がった。トレディアの周りの重力が普通よりも強くなったのだ。
アレスは剣を振り抜こうとした。が、それが良くなかった。その一撃は速い部類に入るものの、先ほどより格段に遅く、トレディアに躱されてしまう。
アレスの振り終わりの隙は大きかった。トレディアは魔術で脚力も腕力も向上していた。
トレディアは剣を躱わ仕切った瞬間、力強く踏み込み、そしてアレスを袈裟に仕留めた。
アレスに死亡判定が下った。
俺は莞爾と魔術による一進一退の攻防をしていた。
「豊くん。僕はこの一ヶ月で2つの魔術を作り出したんですよ。ひとつ目は物質変換魔術。従来の魔術で水や土を作れますよね。それにさらに魔力を加えることでさらに原子を変化させ、物質を変えることができるんです。2つ目は物質精製魔術これは空気中の原子を変化させて、他の原子にするというものです」
と、莞爾は誇らしげに話していた。まぁ、前にうっすらと聞いた。おそらくは観客に対する説明もあったのだろう。
「水龍」
一瞬だった。俺の体は水に包まれた。いきなり棒状の水が俺に近づき、そして俺を包んだ。痛くは無い。つらくも無い。
「物質変換魔術 土」
俺の周りにまとわりついた水が土に変わった。俺はいきなり身動きが取れなくなった。しまった。これがさっき言ってた物質変換魔術というやつか。
「穿孔」
俺の体の拘束が解けた。
「豊、僕も加勢するよ」
どうやら、アレスとの戦いは決着がついたらしい。
そのままトレディアが突っ込む。莞爾は白兵戦をせざるを得なかった。
ただ、トレディアは魔術で、腕力も脚力も上昇しているらしくさらに莞爾は杖で応戦したため、その差は歴然だった。
莞爾は魔術を打ち出す隙も与えられず3秒後に決着はついた。
莞爾はそのまま胸を深々と斬られた。
こうして、武技大会は終わりを迎えた。閉会式まで少し時間があるため、俺らは外にいた。理由は簡単、ヤニカスの一服だ。
「やっぱ全力で戦った後の一服っていうのはいいね」
「やはり僕は近距離戦をもっと磨かなければ.....」
「あああああ、トレディアに負けたぁぁぁ」
とても騒がしかった。が、この大会の目的である『王虎』との決闘権は優勝者と準優勝に与えられるため、まぁ、目的は達成したと言える。
そんな感じでゆったりしていると、目の前に好青年が現れた。ただその好青年の目は復讐に燃える醜いものだった。
「優勝おめでとう。君たちはこの国のためにも死んでもらうよ」
そこに現れたのは生徒会長、グラン・スカイホークと、ベル・エアラコブラだった。
「安心してくれ、すでに剣術完全耐性と魔術完全耐性はかけてある」
どうやら、本当にやばくなった。俺はいまだにあの魔術の突破方法を知らない。そもそもあるのだろうか。
「それじゃあ、君達には死んでもらおうか」
そういうと、スカイホークはこちらに近寄ってきた。エアラコブラはその後ろに隠れる。
俺らが後退りをしていると、一人前に出るものがいた。
莞爾だ。
「君の魔術の対策方法はもうわかってあります」
「君は魔術師だろ?魔術は僕には効かないよ」
それはまるで、莞爾を嘲るかのような言い方だった。
「ええ、でも、魔術を使った物理攻撃ならききますよね」
「僕は魔術師だ。物理攻撃は壁を作って防げばいい」
「そうですね。じゃあやってみてください」
莞爾はそういうと、杖を構えた。
「物質精製魔術 応用 兵器精製 超電磁砲」
そう言って作り出されたのは、筒状のものだった。
「それじゃあ是非、防いでみてください」
「土壁」
レールガン、もし本物なら、その弾丸は音速をも越す。俺の普段使ってる銃とは比べ物にならない威力だ。
「迅雷」
次の瞬間、莞爾の杖から雷が出て、それが超電磁砲に集まる。
そして、轟音と共に何かが発射された。そして一瞬で土の壁が破壊された。その壁は木っ端微塵だった。
たださすがは生徒会長と言うべきか、破壊されるや否や2つ目の策を打つ。
「超重力」
目の前に重力の壁を作ったのだ。ただそれも超電磁砲の弾を止めるには至らなかった。
しかし、幸運と言うべきか、弾は下に下がり、生徒会長の足を粉砕。そのまま貫通し、後ろにいたエアラコブラの足も吹き飛ばした。そのまま2人は吹き飛ばされた反動で後ろに飛ばされた。
2人は気を失っていた。そしてその目の前に立っていたのは煙草を吸いながら見下ろす莞爾の姿があった。
しばらくして、教師が駆けつけた。そのまま生徒会長たちは医務室に送られた。俺らは閉会式が終わった後、今回のことについて色々質問された。
「なんか、色々あったな.....」
「そうね、でも、私は全力で戦えて楽しかったわ!」
「僕も、みんなと戦えて楽しかったよ」
「私は疲れました....」
こうして波瀾万丈な武技大会は終わりを迎えた。




