武技大会 中編
みなさん、いかがお過ごしだろうか。私は今、絶対王者と戦わなくてはいけなくなった。しかも早く決着をつけないといけないという条件付きだ。
俺らはスカイホーク、エアラコブラと対峙する。
試合開始の合図が会場に響いた。
俺らはブーストをかける。そしてそのままエアラコブラとの白兵戦に持ち込む。奴の武器は短刀2本だった。おそらくは防御に徹し、スカイホークが魔術を発動させるまでの時間を稼ぐ気だろう。
そこで俺らは作戦その1を使う。俺は兵士を30人呼び出し、アレスもスケルトンを30体呼び出した。そしてそのままそいつらをスカイホークに向けて突っ込ませた。
エアラコブラは俺とトレディア2人で手一杯だ。いきなり60体も捌けるわけがない。
いったと思った。
「ヘルフローアル」
次の瞬間、スカイホークの周りが炎に包まれ、近寄った兵士やスケルトンが一気に焼かれた。
「君たちは剣士だろ?なら完全魔術耐性はいらない。となれば二重詠唱のもう片方は普通の魔術を使って迎撃できる」
面倒なことになった。俺もトレディアも魔術は使えるが魔術勝負となれば勝ち目はない。だからと言って、今やつに突っ込めるかと言われたら、エアラコブラがそれを許さないだろう。
となればやはり、エアラコブラを即座に潰す必要がある。俺らは勝負に出た。
まずは俺が後ろに下がりトレディアとの1対1にさせる。そしてそのまま俺は『NTW-20』を召喚し、奴に向けて構える。
スカイホークはそれ気づき、こちらに氷連弾を放ってきた。が、俺は基本的な魔術は使えるため、土魔術で防いだ。
俺の照準がいい感じにエアラコブラに定まった時、異変が起きた。
トレディアとエアラコブラの傷が回復しないのだ。まさか、ドームがおかしくなったのか?
トレディアも異変を感じたらしく、攻撃の手が緩む。だが、エアラコブラは一切の容赦もなく反撃を開始した。二刀流、さらには短剣。その手数の多さから、徐々にトレディアが劣勢に陥る。
「どうやら、治癒ドームがおかしくなったみたいだね」
「そうですね。一旦試合は中止しま....」
「君たちは確か、命をかけた戦いをしたことがあるよね?観客も喜ぶだろうし、このまま続行でいいよね?」
正気だろうか、ここで命のやり取りはしたくない。俺は不審に思い審判を見る。が審判は顔色ひとつ変えずにこちらをただみていた。
これは何か裏がある。そんな時、スカイホークが話しかける。
「君は、魔族をどう思いますか?」
「どう思う、とは、どういうことですか?」
「私は魔族が嫌いでしてね、あんなに穢らわしいのに、人のように振る舞い、人のような見た目をしてる。それは我々人に対する冒涜だとは思いませんか?」
なんとなくだがわかった。治癒ドームをおかしくしたのはこいつだ。狙いは魔族であるトレディアを殺すこと。だが、なぜここでやるのかがわからない。そんなことをすればスカイホークは殺人犯だ。
「私は、魔族が憎い。だが、他の貴族は協調だ、和平だなどとふざけたことを言う。そんな中、あの方は言っだ。君の考えは素晴らしい、国を救うには君の考えが必要だと」
「何を言っているんですか?」
「私は彼の方に心酔した。彼の方を尊敬した。それなのに、お前は、お前らは、彼の方を殺した。その罪はその汚い命で償え」
スカイホークに以前のような悠々とした、雰囲気は無くなっていた。そこにあるのは憎しみや怒りといった人間の汚い部分を集めたかのようなそんな口調だった。
やっとわかった。こいつはヒトラー信者だ。前に俺らに王都事変のことを聞いたのは、俺らが本当にやったのかを調べるためだったのだろう。
だが、ひとつ疑問がある。彼は今まで、そんな素振りを見せなかった。なぜ急にそんなことを明かしたのだろうか。
「どうして急に、そんなことを言ったんですか」
「簡単だ。今、治癒ドームは壊れてる、俺らはそれに気づかず、お前らを殺す。そうすれば俺は誤って殺してしまった、いわば不慮の事故で片付けられるだろう?」
俺ら、と言ってるあたり、おそらくエアラコブラも同じ考えなのだろう。と言っても、俺は人殺しをしたくはない。が、そんなことを言ってられるほど俺は強くない。
戸惑っていると、トレディアが叫んだ。
「試合を中止してください!」
「ああ、無駄だよ、魔術で、声は観客席に届かないようになってるから」
エアラコブラは反撃を開始する。トレディアは防御してるものの、防ぎきれず、辺りには鮮血が舞う。
その時俺は決めた。こいつらを殺す。躊躇っていたら死ぬのはトレディアだ。トレディアが死ぬか、こいつらが死ぬかの2択しかないのなら、俺は仲間をとる。
俺はエアラコブラに突っ込んだ。召喚した武器は銃剣を着剣した状態の三十八式歩兵銃だ。そしてそのまま俺も白兵戦に加わる。さらに、2対1の余裕を活かしてスカイホークと俺らの間にエアラコブラがくるようにした。そうすればスカイホークはエアラコブラが邪魔で手出しできない。
トレディアと俺が攻勢にうつる。俺は相手をよく見る。相手は体の中央まで剣を引きつけて受けようとする癖がある。
そこでトレディアはエアラコブラの真ん中に突きを放つ。奴はその突きを片方の剣で端に追いやった。そこで俺も同時にトレディアと同じことをする。
奴の剣が左右にいった今がチャンスだ。俺は召喚した三八式歩兵銃を消し、素早く奴の胸元で召喚した。そしてそのまま発砲した。
しかし、奴はギリギリのところで俺の銃口をずらした。俺の銃弾は奴の肩に当たった。そのまま全力で奴は後ろに下がる。
「超脚力向上」
「超腕速向上」
トレディアが、全力でエアラコブラに突っ込んだ。エアラコブラは全力で後ろに下がったため体勢が悪い。そしてそのままトレディアは奴の両腕を切り落とした。その時のトレディアの目はまさに修羅だった。
「エアラコブラをやったか。まぁ、いい。あと少しで完全剣術耐性が使える」
そう言うとスカイホークは、目の前に大きく分厚い土の壁を作った。
そこで俺は、作戦その2を行う。ロースターが言っていた。
「豊の強みは、やはり飽和攻撃です。豊さんが兵士を出せるだけ出して、そのまま全員で攻撃する、と言うのが1番強いでしょう」
と、言われたので俺は35体の兵士を召喚する。武装は『パンツァーファウスト』『RPG7』『M1バズーカ』だ。
俺は叫ぶ。
「構え!」
そしてトレディアが魔術を放つ。
「穿孔」
次の瞬間、その壁に大きな穴が空いた。そしてその隙に
「撃て!」
一切発射をした。すぐに穴は塞がった。が、できたばかりの壁は脆く、弾が着弾すると粉々に吹き飛んだ。そしてその一瞬で、トレディアがスカイホークに向かって走り出す。
「これで終わりだ」
「完全剣術耐せ...」
そう言いかけた瞬間奴の腕が宙を舞った。
「あぁ......」
スカイホークが力のない声でそう言ったのと同時に後ろから声がした。
「試合止め!」
そこ声の主は教師だった。
「審判、お前は何をしてるんだ!」
闘技場のステージには、腕を切られた生徒会長と副会長そして血まみれになった俺とトレディアがいた。
「君たち、大丈夫かい。すまない来るのが遅くなって。少しトラブルが起こったもので.....」
そういうと、担架がやってきて、俺たち4人を運んで行った。
莞爾とアレスはアパッチとクルセイアとあたっていた。
試合開始の合図が鳴ったと同時に双方がブーストをかけ、そのままアパッチとアレスが白兵戦になる。
双方が攻防を繰り広げる中、アレスが勝負に出る。アレスは全力で後ろに下がると、剣を一本鞘に閉まった。
「あんたに、私の最重の一撃を食らわせてあげるわ」
「それは楽しみです」
次の瞬間互いに上段に構える。そして次の瞬間、互いが全力で踏み込み、真下に降ろす。その際アパッチはスキルを使った。
『最重の一撃』
互いに剣をぶつけたあと、不利になったのはアレスだった。当然だ、相手はスキルなのに対して、アレスは完全な力技だ。
アレスはそのまま力勝負に負けて剣を落としてしまう。
「私の方が強かったですね」
「それはどうかしら」
そう言うと、アレスは懐から短刀を取り出し、白兵戦に挑む。
アレスは防御に徹してた。しばらくの斬り合いの末チャンスがくると、アレスは素早い突きを放った。が、奴はそれを回避。さらにアレスの腕が伸び切ったタイミングで
『最重の一撃』
アレスの短剣に向けて思い切り刀を振り下ろした。アレスは短剣も床に落とす。
が、アパッチの剣が下にさがった今がチャンスと踏んだアレスはその剣を思い切り踏み、剣を振れなくした。そしてそのまま、奴の顔面めがけて左ボディーブローを打ち込んだ。
そして流れるように右のストレートを喰らわせた。まさにデジャヴのようだった。
奴は剣を離して後ろに下がる。これで互いに剣を失った。
「互いに剣を失いましたね。ここからはインファイトといきましょうか」
「ええそうね」
アパッチが突っ込む。アパッチは右ストレートを放った。アレスはそれをしゃがんで回避した。
誰もがこのまま殴り合いになると思った。だが、違った。
アレスは腰に手をかけ、そのままアパッチを両断した。それはまさに居合い斬りだった。
アレスは二刀流だ。そのうち片方をさっき鞘に戻した。つまり、まだ、アレスには一振残っていたのだ。
「私は自分の刀を信じるって前にも言ったじゃない」
「そうでしたね」
そのままアパッチは即死判定を喰らった。
莞爾とクルセイアは遠距離からの攻防を繰り返していた。魔術師同士の戦いというのはなかなか決着がつかない。
「氷連弾」
「炎壁」
「土弾丸」
「土壁」
こんな感じで一進一退の攻防を繰り広げていると、アパッチとの戦闘の終えたアレスが、そのまま魔術師に突っ込んだ。
魔術師は土やら氷やらを使ってアレスに攻撃するが、アレスはそれを真っ二つに切りながら近づいてくる。
そしてそのままアパッチを真っ二つにした。勝負ありだ。
こうして震電は2チームとも、決勝へ駒を進めた。
俺とトレディアは治癒魔術を受けていた。あまり使う機会がなかったが、この魔術は便利なもので、3級なら深い傷が塞がり、2級になると斬られた腕も生えてくる。
いつかの4級昇格試験で、俺らが腕を斬られてもなんとかなったのはこの魔術のおかげだ。
俺らは医務室にいた。生徒会長達は治癒魔術を受けるとそのまま去ってしまった。体力はまだ回復してないだろうに.....
「なぁ、トレディア。あいつらどう思う?」
「うーん。正直驚きだね。けど、それだけかな。結局生き延びれたわけだし」
「そうか」
本当にいきなりだった。これは俺の推測でしかないが、あのいじめの事件もおそらく裏では生徒会長が絡んでいるのだろう。
そうすると、ロースター、トレディア、そして俺が狙われた理由がわかる。犯人を捕まえた時、生徒会長が来るのも異様に早かったような気がする。大きな音が....などと言っていたが、俺らは大きい音を出していなかったしな....
しばらく寝ていると、ロースター、アレス、莞爾が来た。
「大丈夫でしたか」
ロースターが真っ先に心配する。ありがたいものだ。
「ああ、傷も治ったし、もう大丈夫だ」
そこから俺は3人にさっきあったことを説明する。アレス達は普通に試合をしていたらしいので、アパッチと、クルセイアはおそらくこの件とは関係ないのだろう。
「そうだったのね、それでスカイホーク達はどこにいるの?私が切り刻んできてやるわ!」
アレスは意気揚々と言った。
「それが、さっき出ていってしまってな、わからない」
「そう」
少ししょんぼりしていたが、あいつらはマジで強いのでおそらく返り討ちに遭うだろう。やめといた方がいい。
傷も癒えた。この世界の治癒魔術というのは便利だ。少し覚えてみるか....
俺らは寮に帰った。そして飯を食い、風呂に入って、布団に入った。
ただなぜか、布団にはすでにロースターがいた。
「何してんの?」
「いいじゃないですか、早く寝ましょ!」
とりあえず俺は布団に入った。入るなりロースターは俺の腕をギュッと抱きしめて
「死なないでくださいね、私、これ以上人が死ぬのは見たくないんです。私は...その...家族だと...思ってますから...」
そういう彼女はものすごく悲しそうだった。
「ああ、俺は死なないよ。たとえどんな状況であっても、お前を悲しませたくはないからな」
そう言うと彼女はさらに俺の腕を強く抱きしめた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」




