貴族邸宅襲撃事件
目が覚めた。いつもと何も変わらない朝。ではなかった。隣には可憐な少女がいる。ロースターだ。
「おはようございます。豊さん」
「なんだ、起きてたのか」
そんな会話をしつつ下に行って朝飯を作る。今日はロースターと一緒にだ。いつもと何も変わらない、パンとスープとちょっとした副菜だ。ああ、米が食べたい。莞爾にも聞いたが、やはり彼も食べたいと言っていた。
そんな中、ふと思い出したことがある。俺のスキルについてだ。そういや兵士を呼び出すことができると言っていたな。昨日は色々あって試せなかったが、今日は試してみたい。
そんなことを思っていると、他の3人もぞろぞろ降りてきた。
「あ、ロースターもいるんだったわね」
「お邪魔しています」
「朝から2人で朝食をつくるなんて、なんだかしんこ....」
「トレディア、そっとしておきなさい」
そういうと、アレスはトレディアの口を塞いでテーブルまで連れていった。と言うか引っ張っていった。莞爾はニヤニヤしながらこっちをみている。なんだオメーら。
そのあとは朝食を食べて、歯磨きをして、顔を洗った。まぁ、いつもと何も変わらない。ただそれが終わったら今日はやることがある。スキルの確認だ。
俺らは外に出る。俺はいつも銃を召喚する様に兵士を思い浮かべる。武装はとりあえず『M4』でいいだろう。
次の瞬間1人の兵士が出てきた。俺はそいつに話しかけてみる。
「お前話せるのか?」
「はい」
呼び出した兵士は元気よくそう答える。
「名前はあるのか?」
「山下と申します」
そこから色々調べてみた。まず、兵士には一人一人名前がある。その兵士には意志があり、自分で行動することができる。身体能力は前世の人間並。ここの世界の人間よりかは身体能力は劣る。ここまで聞くと普通の人間を召喚するスキルの様だが一つだけ大きく違う部分がある。それは俺に絶対服従すると言う点だ。
あとは、召喚できる範囲はおれが視認できる距離らしい。俺の見えないところでは召喚できない。
そんな感じで自分の能力の進歩に感動していると、一人の男がこちらにきた。名前は、なんだったかな。
「ロースター陛下お話しが....」
「また、アレですか?」
「はい。ですが今度は捉えることができました。」
「本当ですか?!」
ロースターの声が急に大きくなる。一体なんと話をしているのだろうか。
「なぁ、なんの話なんだ?」
「失礼いたしました。私、ロースター陛下の警護担当のスピットと申します。この話は....」
「構いませんよ。彼らなら」
「そうですか、では....」
「立ち話もなんですし、中に入りませんか?」
莞爾がそう勧める。とりあえず俺らは中に入って、スピットの話を聞いた。
「ロースター陛下は最近命を狙われていまして....」
「それなら昨日聞きました」
「そうでしたか、それでその暗殺者が今まで何度か送られてきたのですが、今回、それを捉えることに成功したのです」
「それで、やはりブラックウィドウ公爵家だったのですか?」
「はい。尋問したら、そう自白しました」
「そのブラックウィドウ公爵っていうのはだれなの?」
アレス、ナイス質問。俺ら4人はここの国の貴族達をあまり知らない。あ、でも、トレディアは知っているかもしれないな。
「ブラックウィドウ公爵というのはこの国の三大公爵家のうちの一つで、3つの公爵家のなかでも最も権力を持った公爵です。故に私が消えれば次、王になるのは彼というわけです」
思ったよりやばいな。この国のナンバー2の貴族を懲らしめなきゃいけないのか....どうするか....
「それで、何か作戦はあるの?」
アレスが聞く。正直、俺らみたいな平民にはそんな貴族を見る機会すらあるかわからない。そんな中で懲らしめることができるかと言われたら.....
「あります。今思いつきました」
ロースターが自信満々に言う。そしてロースターは得意げに今回の作戦を話し始める。
作戦会議が終わった。まずは、ロースターが行動にでる。まずステップ1はロースターがそのブラックウィドウ公爵家に訪問するというものだ。勿論公務ということで。
ロースター曰く早いほうがいいということで、俺らは今日訪問することにした。
「この作戦は莞爾さんと豊さんが要です。よろしくお願いします」
「ああ」
「任せてください」
俺らはブラックウィドウ公爵家を訪れた。流石というべきかそこには豪華絢爛で馬鹿でかい屋敷があった。ちなみに俺ら四人は護衛という立ち位置で、この屋敷に入る。あと、俺らは覆面をして顔がバレない様にした。
普通あらかじめそちらに行くと伝えた上で、訪問するのが礼儀だろう。だが今回はあえてそれをしない。故に相手は当然何も準備できていない。そのため屋敷に入ったあと、しばらく客間で待たされた。
「さぁ、作戦開始です」
俺はまず、スキルで兵士を4人出す。そして今来る服をそいつらに着せる。覆面を被ってた意味はそういうことだ。
それが終わったら俺ら4人は天井に穴を開けて天井裏で待機する。この世界の魔力とは便利なものでアレスの日本刀に魔力をありったけこめると、刀で木材が豆腐の様に切れる。
これでステップ2が完了した。ここまでにかかった時間は体感にして5分程度。これなら気づかれることもない。ちなみにバレた時は覆面で顔がバレないのをいいことに暴れ回るつもりだった。勿論、正規の護衛と入れ替わったためロースターも被害者という建前でだが。
しばらくすると、ふくよかな、というか丸々太った、なんとも嫌な顔をしたおっさんが出てきた。
「これはこれは、ロースター陛下。今日はどうされましたかな。なんの連絡もなしに来るあたり相当急いでらっしゃるのでは?」
奴はいやらしい笑みを浮かべながらロースターを見る。
「いえ、大したことはございません。ただ、近くをよったものでしたから挨拶しようかと思いまして」
「それはそれは、ありがたい限りです。で、何かお話しがあるのでは?」
ブラックウィドウは張り付いた様ないやらしい笑みを崩すことなく、核心をついたと言わんばかりにロースターに質問する。
ロースターは一呼吸置いたあと話し始める。
「最近、様々なことがありました、ですがなんとか乗り越えることができました。それはみなさんの協力があってこそです。ですのでこれからも、ブラックウィドウ公爵にはこれからも、私を、この国を支えてほしいのです。」
ロースターはそんな感じのことをすました顔で言った。わかりにくいが要するに『私が王だ!お前にその立場はやらん!』ということなのだろう。話していくうちに奴の顔からは張り付いたいやらしい笑みが消え、あからさまに不機嫌な顔になっていった。
「そろそろ、帰りますね」
そういうと、ロースターは席を立ち、俺が出した兵士達と一緒に扉へと向かった。その際、ブラックウィドウ公爵がまたあのいやらしい笑みを浮かべながらロースターに話しかける。
「夜に気を付けてください。あ、そろそろ昼も気をつけた方がいいかもしれませんね」
それはまさしく、自分がやっていると言わんばかりだった。それに対するロースターの返答は
「貴方こそ周りを見たほうがいいですよ」
だった。
そのあとは深夜まで待機だ。作戦を再度確認して、奴の寝室の場所を確認した。音を立てずに天井裏を歩き回るというのは難しかったが忍者になった気がして楽しかった。
やはり男の子なら憧れるだろう。忍者というものには。
深夜になった。周りは静まっている。莞爾の探索魔術によると、動き回ってる警護が2人で、今は屋敷の外を巡回しているらしい。チャンスだ。
俺らは天井を切り奴の真横に着地する。
「水壁」
莞爾がこの部屋一体に分厚い水の壁を作る。これによって大声を出されても周りに聞こえはしない。
これで準備万端だ。俺らは奴を叩き起こす。無論、起こし方はアレスによる拳だ。
「なんだ、おまらは!」
奴は一瞬にして目を覚まし、醜い声で騒ぐ。とりあえず事実確認から始めるか。
「ロースターに暗殺者を送り込んだのはお前か?」
「なんのことだ?私にはわからんな。ただまぁ、あいつが死んでくれたら嬉しいとは思うがな」
こいつはここでもいやらしい笑みを浮かべながらしらを切る。にしても死んだら嬉しいなんて単語は聞きなくない。
「ロースターはな、そのせいで苦しんでるんだ。毎日怯えながら生活してるんだよ」
「なら、潔く私に王位を譲ればいいんだ。ガキが国トップなど笑わせる」
「てことは暗殺者を送ったのはお前だってことを認めるんだな」
「そうだとも、私だよ。それで?どうする?あいつに言うのか?証拠もないのに」
「だとよ、ロースター」
「なんだと?」
奴はおそらくロースターがいないと思ってベラベラ喋ったのだろう。だが、実際は違う。
「ええ、全て聞いていましたよ」
「どこだ?」
奴は慌てながら周囲を見るがロースターの姿は見当たらない。当然だ、ロースターはここにいないのだから。ではなぜロースターの声が聞こえているのか。それは拡声魔術を使って声だけをここに送っているからだ。つまりはスピーカーモードの電話の様な状態だ。
「ロースター殿下、違うんです。私は、ただ王になりたかっただけなんです。方法が間違っていたのは認めます。ですが決して裏切る気などはないのです。」
ここにきて奴はいきなり真反対のこと言い出した。命を狙っておいて裏切る気はないとは無理な言い訳だ。
「ブラックウィドウ公爵、よくわかりました」
ロースターは明るく話しかける。
「ロースター殿下、ありがとうございます。このご恩は一生をかけて.....」
「誰が許すと言ったんですか?是非、平民としてそのご恩とやらを返してくださいね」
ロースターは優しくそう言った。顔は見えなくてもおそらくロースターはニヤニヤしているだろう。
するとブラックウィドウ公爵はまた、態度を正反対に変えて言った。
「ガキの分際でふざけるなよ、いくらこの国の王であるお前だって、屋敷に勝手に侵入して、私の命を狙っていたと知られればタダでは済まないだろう!」
「私はロースターではありませんよ?」
「はあ?ロースターだろうが」
やつは怒りながらそう話す。
「いえ、私はこの国の王であるロースターではありませんよ。それとも貴方は今、ロースター殿下な顔がみえているのですか?」
「このガキ」
ロースターの論理はこうだ。この声の主はロースターに限りなく似た別人だ。やつはロースターの顔が見えないため当然、それを否定することはできない。
「ふざけるなよ。お前なんていなければいいんだ。お前が死ねば私は王になれる。お前だって、こないだ死んだ家族の元にいける。それでいいじゃないか。お前が死ねば、みんな幸せになれるんだよ」
この人間は芯まで腐っていた。俺はそれを聞いた瞬間何かが切れる音がした。
「お前、言っていい事と悪いことがあるだろうが」
そして俺はやつの胸ぐらを掴み、思いっきり殴った。なんと言うか、我慢できなかった。
「貴様、私は公爵だぞ?貴様の家族ごと処刑してやる」
俺はもう一発殴ろうとした。だが先に手を出したのは莞爾だった。莞爾はやつの顔面目掛けてストレートを放った。それは奴の鼻骨を粉々に砕いた。
「世の中、生きたくても生きられない人がいるんだよ。死んだ奴に会いたいなら死ねばいいだ?ふざけた事言ってんじゃねぇよ。命の価値もわからないお前がまず死ね」
そこにはいつも敬語で話す莞爾の姿はなかった。ただこいつの前世は戦死した身だ。おそらく生きたくても生きられなかったことに思うところがあったのだろう。
最後に俺は『S&W M500』を召喚してやつの顔ギリギリを狙って撃った。
「次ふざけたことしたら殺すぞ」
そう言い残して俺らは窓から飛び降りた。
数日後の話だ。まず、ブラックウィドウ公爵は無事貴族階級を剥奪され、今は一般の市民として生活しているらしい。剥奪理由は適当にでっち上げられたそうだ。
この貴族階級を剥奪されたことを聞いて他の冷遇してた奴らの態度も良くなったらしい。勿論、ロースターは何も関与していないことになっているが、普通に考えれば裏で何かしてるのは明白だ。それゆえにだろう。
俺らは王城にいた。ロースター主催の食事会に誘われたのだ。メンバーは俺らは5人だ。
美味しそうな料理に目を輝かせていると、スピットに呼び出されたので渋々席を外す。
「みなさん、ありがとうございました」
「いいわよ、気にしなくて」
「そうだよ。僕たちは家族でしょ?」
「そうですよ。家族を守るのは当然ですから」
「みなさん....」
「それとね、ロースターちゃん」
トレディアはニヤニヤしながら話す。
「トレディアさん。どうしたんですか?」
「せっかく身の回りの問題が片付いたんだし、もっと積極的でもいいと思うよ。」
「トレディア、そっとしておくって言ったじゃない」
「だって、焦ったいじゃないか」
「あんたにそんな趣味があるとはね」
「まぁ、まぁ、いいじゃないですか。僕としても幸せになってほしいですし」
ロースターは何も言わず、ただ顔を真っ赤にしていた。
「なぁ、ロースター、これ本当にもらってもいいのか?」
「ひゃい」
ロースターがすごい声をだす。
「どうした?そんな声出して」
「戻ってきたんですね。なんでもありません」
「すごい顔が赤いぞ」
「さ、さぁ、冷める前に料理をいただきましょう!」
「あ、そうだ、ロースター。この金はいらない。これは震電の総意だ」
「でも、悪いですし」
「なら、暇な時ここに遊びにきてもいいか?王城に入るのは色々めんどくさそうだからな」
「それでよければ是非!」
そう言うと彼女は美味しそうにご飯を頬張った。




