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仲良し夫婦は似るらしい Ⅱ


 一方その頃、昼どきが近くなりディートリヒは込み上げて来る吐き気に悩まされていた為救護室を訪れていた。


「副団長が胃痛?脳筋なのに何か心配事でも?」


 診察をする医師の言葉にきっとにらむが、彼はひょうひょうとして掴めない。


「あるにはあるが……」

「へぇ~、君にも悩む事あるんだね。で?」


 いちいち癇に障るなあと苦い顔をするが、不思議と嫌いにはなれない彼に口を開く。


「妻が妊娠したかもしれなくて、悪阻らしき症状が出ていたんだ。それで、心配になってはいる」

「へぇ~、それはおめでとう。相変わらず仲良しだね」

「それはどうも」

「おそらく、気持ちの問題だろうね」


 医師はあっさり判断した。

 ディートリヒはぱちぱちと目を瞬かせる。


「たまにあるらしいよ。悪阻の奥さんを心配しすぎて体調崩す旦那さん。

 よほど愛してるんだねぇ」


 その言葉にディートリヒはむず痒くなった。


「まぁ、それだけ仲良しって事。そのうち収まるよ。

 悪阻は自分以外のモノが宿った事にびっくりしてるんだと思うよ。そして一生懸命宿った命を守ろうとしてる。存分に労ってやるんだね」


「言われずとも」


 晴れやかな表情になったディートリヒは、救護室をあとにしたのだった。




「だんなさま、お帰りなさいませ」


「ただいま、カトリーナ。ジーク、ランドも」


 帰宅したディートリヒは、愛する妻と子どもたちを順に抱き締め、妻に口付けを落とした。


 すると、照れながらもカトリーナは何か言いたげにちらちらと見てくる。

 早く言いたくてたまらない。

 そんな妻の報告をディートリヒは待っているのだ。


「あ、あの、だん……ディートリヒ、様。今日、侍医に看て頂きましたの」


 指をもちもちさせながら、辿々しく言葉を紡ぐ。


 そこへランドルフが「にいさま!」と声を出しそうになるのを、ジークハルトは優しく口を塞いだ。


「どうだったかい?」


 優しい声に顔を上げたカトリーナは、満面の笑みで夫を見た。


「確定、されました」

「そうか。……何人になっても、嬉しいものだな。ありがとう、カトリーナ」

「にいさま!ぼく、にいさまなる!」

「そうだな、ランド。まだ弟か妹か分からないが、可愛がるんだぞ」

「あい!」

「かあさま、今から楽しみだね!」

「ジーク、この子も守ってくれる?」

「もちろんだよ!僕がみんな守るからね!

 だから、安心して産まれてくるんだよ~」


 既に二人は兄としてお腹の子に語りかける。

 そんな子どもたちを、夫婦は優しく見守るのだった。




 その夜、寝室のソファで寛いでいたディートリヒの元へ、子どもたちを寝かしつけたカトリーナがやって来た。


「だんなさま、体調はどうですか?」


 思いがけない言葉に、ディートリヒは柔らかに笑んだ。


「心配してくれるのか?」

「わ、私はそうでも無いのですが。ハリーが、明日も侍医に来て貰うから、ついでに見てもらえば良いと言ってたのを伝えに来ただけですわ」

「そうか」


 最近は鳴りを潜めているが、カトリーナの照れからくる発言は時折出て来る。

 ともすれば冷たい言葉にも聞こえるが、目を見れば本音が透けて見える為ディートリヒは苦笑するしかない。

 だが、そんな態度の妻が可愛くて仕方ないのだ。


「ありがとう。でも大丈夫だ。今日救護室の医師に話を聞いたから」

「救護室?そんなに悪かったんですか?」


 ばっ、と夫に向き直り、心配の表情を浮かべる妻に軽く口付ける。


「大丈夫だよ。話をしただけだから」

「どんなお話されたんですか?」


 屈託の無い顔で見つめられ、ドキリとする。

 改めて救護室での話を思い返すと照れくさい。

 だが不安の入り混じる妻を安心させようと、ディートリヒは妻を優しく抱きしめた。

 顔を見ながらは少しばかり恥ずかしかったから。


「朝、体調がおかしかったのは、君を心配しすぎてしまったからみたいなんだ。

 だから悪阻がうつった、らしい。

 よほど君を愛していると改めて人に言われて照れくさかったんだ」


 抱き締めた腕に少しだけ力を込める。

 すると、カトリーナはするりと夫の胸に顔を埋めた。


「ずるいです、ディートリヒ様……。そうやっていつもあなたに惚れさせてしまうんですから」

「君への愛が伝わって何よりだ」

「たっっっくさんいただいてます。私より多くて悔しいくらいです」

「足りないならいつでも補充するよ?」

「これ以上いただいたら溺れてしまいます!

 …………でも

 これからも、あなたからだけ、欲しいです」


 妻からのこれ以上無い殺し文句でディートリヒは愛しさが増し、カトリーナに口付けた。

 啄むように繰り返されるそれは、いつもなら夫婦の夜の始まりの合図だったが……


「暫くは禁止だな」


 何とか崩れ去る前に理性を再構築し、そっと口付け妻を抱えてベッドに潜り込んだ。


「おやすみ、カトリーナ」

「おやすみなさいませ、ディートリヒ様」



 そうして二人の夜は更けていく。



 安心しきった表情のカトリーナとはうらはらに、ディートリヒは自身を鎮める為に普段はあまり働かせない脳をフル活動させながら眠りについた。


 再び数カ月続く忍耐の日々が訪れるが、彼にとってはそれもまた、幸せの時間なのだった。


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