表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶と未来の恋模様〜記憶が戻ったら番外編〜  作者: 凛蓮月@記憶をなくした孤独な妻発売!
アドルフとマリアンヌ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/58

恋に落ちるは突然に

 

 その日、オールディス公爵邸にはアドルフの孫であるエレオノーラが遊びに来ていた。


「ねえお祖父様、お祖母様はどんな方でしたの?」


 母譲りの金の髪色に父譲りの翠色の瞳の少女は飾られた絵姿に興味津々だった。


「……そうだな、何と言うか。……そうだなぁ……」


 もう遠い記憶となった愛する妻の事。

 一言では言い表せない程、様々に蘇る。


 アドルフは目を伏せ追憶に浸るように語り始めた。





 うららかな季節。

 貴婦人たちとその令息令嬢が集まるお茶会にて、運命の出会いを果たした二人がいた。


「ほら、見て!カエル!」


 少女の手のひらで腹を膨らませるそれを見て、少年は「ぎゃっ!」と声を上げた。


「こわいの?かわいいのに」


 少女はカエルを水辺に戻し、手のひらをハンカチで拭う。

 その所作と先程のイタズラが少年の心に小さな棘を残した。



 少年の名はアドルフ・オールディス。

 少女の名はマリアンヌ・ソレール。


 小さな二人の出会いは、小さな恋物語へと発展していく。



 アドルフはオールディス公爵家の嫡男である。

 幼少時より公爵家の名に恥じぬようと言い含められ教育をされてきた。

 折良く同じ年に産まれた王子の側近となれるよう、常に正しくあれ、清くあれ、と厳しく躾けられてきた。


 親の言う事をよく聞き、「はい、了承しました」と反発も無く淡々と過ごす毎日。

 無表情に課題をこなし、公爵家を継ぐ者として育てられる。


 そんな彼が唯一感情らしい感情を持てる相手が、マリアンヌ・ソレールだった。


 マリアンヌとの出会いはお茶会にて。

 人混みが苦手なアドルフが席を外し息を吸いに行った先にいた、初めて見る少女がマリアンヌだった。


 いきなり初対面の相手に向かってカエルを差し出す少女は、アドルフの心に鮮明に焼き付いた。

 きっかけは思い出せないがカエルが苦手になるくらいには衝撃的な出会いだった。


 だが互いに名乗りもせずにお茶会は終わってしまい、アドルフ自体その事を忘れてしまっていた。



 2度目の出会いは数年後。

 とある令嬢の誕生日パーティーだった。


「本日はおめでとうございます」


 王太子ユリウスの婚約者である、モルゲンシュテルン侯爵家のフローラ嬢だ。


「ありがとうございます、オールディス公爵子息様」


 王太子の婚約者として恥じない見事なカーテシーで挨拶するフローラ嬢は、アドルフから見れば「完璧な令嬢」だった。

 王太子であるユリウスは既にアドルフとは友人で、政略的に結ばれた婚約者の愚痴を時折聞かされていた。


 主に「息が抜けない」方面で。


 アドルフは将来を考えれば王太子妃、ゆくゆくは王妃と仕えるならば無能より有能な者をと望んでいた為フローラ嬢は好ましく、また相応しいと思っていた。それゆえユリウスの愚痴を窘め、アドバイスを送っていたのだ。


 ユリウスのやる気スイッチを巧みに操作し、フローラ嬢へと気を向ける。

 幸いユリウスに浮気の虫はおらず、フローラ嬢も徐々にユリウスに想いを寄せるようになっていた為、二人の仲の良さは知れ渡る事になる。


 そんなフローラ嬢の誕生日パーティーに招待されたアドルフは、両親から婚約者候補を探してくるように言われていた。


 だが、アドルフは女性に興味が無かった。

 かと言って男性に懸想するわけではない。


 恋という、感情を揺さぶるものがどんなものなのか。

 アドルフには関心も無ければ惹かれるものでもない。


 だから、適当に、有能そうな。

 将来自分にとって役に立ちそうで、従順で、おとなしい令嬢がいれば声を掛けようと思っていた。

 公爵家の嫡男である自分が断わられるわけがないと、アドルフには若さゆえの慢心、驕りがあった。



「フローラ!おめでとう~~♪」


 ゆるい、ふんわりとした声。

 聞いてるだけで気が抜けるような。

 でも不思議と不快ではない声がアドルフの耳に届く。

 その方向を見やれば、金色の髪がふわふわと揺れていた。


 今日の主役であるフローラにすりすりと寄る少女。空色の瞳は輝き、アドルフの心を晴れやかにするようだった。

 だがアドルフは顔を顰めた。

 その少女の行動は淑女と呼ぶに相応しくないからだ。


『公爵家の妻になるならばフローラ嬢のようでなければ認めない』


 だからアドルフは鼻白み、真っ先に候補から外した。『あれは無い』と。


「マリアンヌ!会いたかったわ!今日はいいのね?嬉しいわ……」

「えへへ~、フローラの為にやって来ました!はいこれプレゼント」

「マリアンヌ……嬉しい。貴女に会えただけでも嬉しいのに、プレゼントまで」

「いいから開けてみて♪」


 フローラはマリアンヌに急かされ、リボンを解き包みをやっくりと開けた。


「まあ……これは」

「私とお揃いなの。よかったら着けて」

「勿論よ!マリアンヌ、ありがとう」

「もー、フローラったら大げさよ~~」


「似合うかしら」と友人同士できゃいきゃい話す姿に、アドルフは見るつもりなくても目が離せなかった。

 くるくると変わる表情、きらきらと輝くふわふわな金の髪。何度も目を逸らし『あれは無理だ』『そもそも淑女たるもの』『はしたない』そんな言い訳をしながらも気付けば目で追っている自分がいる事に驚いた。


「あれは無い。無いぞ、ぜっっっったいに、無いぞ」


 己に言い聞かせるが耳に入るのは少女の笑い声。


「……アドルフ、お前顔赤いぞ」

「えっ」


 それは無表情で女性に興味が無いと言われていた、後に敏腕宰相となる彼が恋に落ちた瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ