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追憶と未来の恋模様〜記憶が戻ったら番外編〜  作者: 凛蓮月
オスヴァルト

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5.作戦会議の前に


「はぁー……………」


 辺境伯から拘束を解かれたのは、ゆうに一時間以上過ぎてからだった。

 ごつい男と二人きりの空間は何とも居心地が悪く、オスヴァルトは何度も早く退出したいと願った。


 頼みの綱の兄は辺境伯から作戦指示の為追い出されたし、共に並んでいた同僚騎士もディートリヒと共に退出した。

 それゆえ、辺境伯と二人きりの時間を過ごさねばならなくなったのは、オスヴァルトにとって苦痛でしかなかった。


 しかも話の内容ときたら。


「君は、テレーゼと、どういう関係かね?」

「どうも何も、先日荷解きの際に少し話し掛けられただけです」

「荷解きの際とは……ははあ、あの時既にテレーゼに目を付けていたのか。ふむふむ。

 うちの娘は可愛いだろう?しかも勇敢で騎士としての実力も申し分ない。

 戦場の女神と騎士たちの間で話題だ」

「はあ……」


 確かにテレーゼを思い浮かべると、さらさらの茶色い髪に燃える炎のような強い意志を感じさせる瞳、凛とした空気に相応しい耳障りの良い声。

 なるほど、戦場で駆け回る姿はさながら戦の女神のようにしなやかで美しいだろうとオスヴァルトは納得した。

 どんなに絶望しても、死の淵にいても、きっとその姿を見るだけで希望を灯せるだろうと。


「だがな、テレーゼは並の男にはやれん。

 あれの兄が一人娘を遺して死んでしまってからはあれが跡継ぎになる。

 だがあまりにも神々しいのか、辺境の騎士たちの中で求婚する者はおらん。

 英雄のような男ならわしも認め……」

「兄上には義姉上がおります。二人の仲を脅かすような真似はさせません」


 無礼とは分かっているが、オスヴァルトは妙な苛立ちを感じ辺境伯の言葉に被せ、目線を鋭くする。


「……分かっておる。二人の仲は辺境にも届いておるわ。

 結婚から約8年経っても新婚のようだとな」


 目を丸くしながら辺境伯は答える。

 その様子にオスヴァルトも警戒を解いた。


「……既婚者には大事なテレーゼはやらん。安心せい」

「父上!オスヴァルト殿に何を吹き込んでおいでですか!!」


 ふう、と息を吐いた辺境伯の元へ、扉をばたんと開けたテレーゼが入って来た。


「テレーゼ、せめてノックくらいしろと」

「そうやって大人が間に入ると拗れるのでお止めくださいと申し上げたでしょう?

 そ、それにオスヴァルト殿にも好い人がいればご迷惑でしょう……」


 最後はしどろもどろになりながら、テレーゼは尻すぼみな声になってしまった。

 チラチラとオスヴァルトの反応を伺うかのような仕草は照れからか、はたまた別の感情からなのか。


「と、とにかく婿殿は自分で見つけますゆえ、父上は関知なさらないで下さい」

「テレーゼ……わしはオスヴァルト殿にそこまで言うておらんが…」


 ジト目になった辺境伯は、テレーゼにぼそっと言う。


「……へっ…、あ……あの、えっ、と」


 おろおろする娘に、父としての勘が鋭く光る。

 娘の様子をじっと見ているオスヴァルトにも。


「まぁ。そういう事だ。じゃあ、わしはこれで……」


 見つめ合う二人の醸し出す空気に居たたまれなくなった辺境伯は、すごすごと部屋をあとにした。




「はぁー…………」


 ようやく威圧感のあった存在から解放され、オスヴァルトは長く息を吐く。


「すみません、父が無礼を申し上げまして」

「いえ、こちらこそ辺境伯の発言に被せる行為をしてしまいました」

「いいんですよ。父はそんなの気にしませんから。あの、それより……」


 顔を赤らめ、手をもちもちと所在なげに遊ぶテレーゼを見て、オスヴァルトも胸の奥が疼く。


「す、すみません、いきなり婿とか、飛躍してしまって……」


 気まずいのか、テレーゼは俯きずっと指を組み替えたり指遊びをする。

 それを見てオスヴァルトは表情を緩めた。


「構いませんよ。気にしてませんから、テレーゼ様もお気になさらず」

「……は、はい……。ありがとうございます…」


 気のせいか、テレーゼは一瞬瞳を揺らし、再び俯いた。

 それが引っ掛かったオスヴァルトは口を開こうとしたが。


「テレーゼ様」


 ぞわりとする低い声。

 本能的にオスヴァルトは警戒し、声の方向へ振り向いた。

 呼ばれたテレーゼは無意識にオスヴァルトの服の袖を掴む。


「トラウト卿……」

「作戦会議の時間では?」


 コツコツと靴音を鳴らし、ゆっくりと近付いてくる男は、何とも形容し難い空気を纏っている。


「父上に呼ばれていただけです。すぐに行くから先に行っててください」


 全身を這うような、トラウト卿の視線に居心地を悪くしながらテレーゼは毅然と答える。

 その雰囲気にオスヴァルトも警戒を緩めなかった。


「承知しました。会議室にてお待ちしておりますので……」


 くるりと踵を返し立ち去る。

 だがその姿が見えなくなるまでじっと睨み付けていた。


「彼が、そうなんですね」

「……ええ」



 テレーゼが言っていた内通者らしき男。

 アーベル・トラウト。辺境騎士団の副団長だ。


 そして。




「私の兄の最期に一緒にいた男です」


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