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奥様を守りたい


「護身術を習いたい?」

「ええ、また王太子みたいな輩が現れた時、奥様を守れるようになりたいの」


 ランゲ伯爵家の侍女エリンは、護衛であるベルトルトに告げた。


 以前、王太子の呼び出しを受けた奥様ことカトリーナ夫人と共に王宮に行った際、カトリーナは元王太子からあわや辱めをうけるところだった。


 ベルトルトは元王太子付きの近衛三人に抑えられ、自分は何もできなかった事を思い出す。


 直前に見習い騎士に出会い、その見習い騎士がおしゃべりで、おそらくディートリヒに世間話として話したのだろうか。


 良いタイミングでディートリヒが駆けつけ、難を逃れ、結果的に良い方向に転んだのは不幸中の幸いではあるがエリンは「自分が奥様を守れたら」と強く思うようになっていた。


 自己流で武術を会得するにも限度がある。

 ならば嗜む人に教えを乞うほうが良いだろうと、あの日一緒に行ったベルトルトに声を掛けたのである。


「まぁ、いいけど。剣?それとも弓?」

「物騒な武器は持てないから身体だけで相手をばったばったと倒せるやつで!」


 ニコニコのキラキラの笑顔のエリンに、ベルトルトはため息を吐いた。


「非力な女じゃあ返り討ちに遭うのがオチだ。やめとけ」


 手をひらひらさせながらベルトルトは踵を返す。


「ちょっと!待ちなさい!奥様を守りたいのよ!なんでもいいから教えてよ~!」


 エリンの叫びが遠くなるにつれ、ベルトルトは思う。


「そのために護衛がいるんだろうが」


 確かに王太子の呼び出しの際、自分が不甲斐ないせいで奥様を危険に晒してしまったのは否めない。

 だが王太子があそこまで愚鈍でアホでクズだとは微塵も思っていなかったのだ。


 あのとき旦那様が来てなかったら、と思うと冷や汗もののベルトルトだが、次もしあればもう一人護衛を増やせばいい話で。


「……いずれはお子様も生まれるだろうし、もう少し増やしてもらえるよう言うか」


 現時点ではまだ懐妊の知らせは聞かないが、最近奥様と旦那様は以前のように仲良しになったと聞く。

 王太子はクズだが、皮肉な事にその行動がランゲ伯爵夫妻を急接近させているから何が好転するか分からないものだと苦笑した。


 奥様の記憶が戻る前と変わらぬ仲睦まじい風景は、使用人達を和ませる。


 奥様の可愛さもさることながら、旦那様の溺愛ぶりも中々なものだ。

 しょっちゅうからかっては怒らせ、奥様が反抗するのを嬉しそうに愛しそうにしている旦那様は、実はドMなのかもしれないと、一部の使用人の噂である。



「ベルトルト!お願いだから護身術を教えて!」


 エリンはなおも引き下がらず、ベルトルトに乞う。


「あのなぁ。お前普段鍛錬してるか?腕立て伏せ、腹筋、走り込み、素振り。

 非力な女じゃ何もできねぇだろ?」


 くるりとエリンに向かって言うが、エリンはむっと顔をしかめる。


「そっ、れはやってない。けど!奥様をみすみすクズ野郎にいいようにされるのを震えながら黙って見てるだけなのはもう嫌なの。

 鍛錬はこれからやるわ。だからお願いします。

 奥様を守りたいの」


 真摯に言われ、頭を下げられればベルトルトもこれ以上否とは言えない。


「うぅ~ん」と唸り、頭をがしがしと掻き。

「あぁ、もう!!」と吠えた。


「わぁったよ!教えるよ。けどな、身に付いたからって無茶だけはするなよ?」


 指を差しエリンに詰め寄る。


「だいたいな、奥様を守るのは護衛の努めなんだよ。俺らの仕事なの。旦那様がいる時は俺ら用無しになるからいない時くらいしか出番が無いんだよ」

「王太子のとこ行った時近衛に抑えられてたじゃない」


 ベルトルトはぐっと言葉に詰まった。


「仕方ねぇだろ。多勢に無勢だったんだからよ」


 口を尖らせ、ぶつぶつと何かを言う姿に、エリンがにやりと笑った。


「旦那様がいらっしゃるからってサボりがちなんじゃないの?」

「るっせ!!おめぇんな事言ってっと教えてやんねぇぞ!?」

「ああ~ごめんなさい~ベルトルト様ぁ~お許しを~~」


 揶揄うようにニヤニヤとするエリンと、ムキになるベルトルト。


 その二人のじゃれつきを、伯爵邸の女主人は自身の部屋の窓に張り付いて瞳をキラキラさせながら見ていた。


「ね、ねっ、ソニア。エリンとベルトルトって仲良しね」


 ニコニコと頬を紅潮させながらキラキラした瞳で見られ、ソニアは苦笑いするしかない。


「そうですね。中々お似合いの二人だと思います」


 女主人と一緒になって窓から同僚二人を見るソニアは、生暖かく見ていたのだった。


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