表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/35

#06 激動に光が射す

 入口から外を見た。体調不良みたいな、男性がいた。明らかに、具合が悪そう。それは、確信できた。壁に、もたれ掛かっていたから。総合病院と書かれた壁に、もたれている。ちょうど『病』の辺りだ。蝉人間の本能なのか、全人類の本能なのか分からない。なぜか、カラダが勝手に動いた。男性の元に、歩いていっていた。


 男性からは、雨に似たニオイがする。カラッカラに、晴れているのに。アスファルトにも、雨の足跡はなかった。男性から、後退りするようなニオイではない。どちらかというと、好きなニオイかもしれない。


 私は、喋れなそうな男性を、とりあえず病院の中に引っ張った。私の力は、それなりにあるらしい。隅まで、引っ張ってきた。うずくまる男性を残して、右往左往した。看護師みたいな人が、男性の近くを通る。しかし、素通りした。話し掛ける、気力も薄れる。まわりにいる誰も、助けようとしなかった。口に苦い味がした。口のカタチは、安定できなかった。


「話せますか? どうされたんですか?」

「はあはあ」

「失礼します。あっ、あっものすごい熱ですよ。受付しましょう」

「でも、お金も保険証もないので。僕は、準人間なんです。あなたは?」

「あっ、私は蝉人間です」

「準人間のこと、知ってますよね?」

「はい」

「他の人より、色んな物が高いんですよ。だから、病院は」

「私は、二週間しか生きられないです。けど、特別待遇があります」

「知ってますよ」

「私がいれば、あなたはタダで診察を受けられるんですよ」

「そうなんですか?」

「はい。じゃあ、行きましょう」

「本当にいいんですか? ありがとうございます」


 男性の会釈は、止まらなかった。笑顔も、やや滲んでいた。フラフラしながら、歩いていた。私の目には男性が、ずっと見守っていかないとイケない人に映った。男性は、いい人に分類されるだろう。白が多めの空間でも、存在感がかなりあった。


 男性の手は、つるつるしていた。導くためとはいえ、私は女だ。慎重にはなった。蝉人間と準人間とか、私には関係ない。男性の軽さが、肌から伝わっていた。それ以上に、かなりの冷たさが伝わってきていた。なんだか、生きている実感があった。


 受付に着いたとき、ありがとうと言ってくれた。感謝の言葉を、男性はずっと言ってくれた。入口から受付は、長かった。誰も助けてくれないのが現実。私は、嬉しさしかなかった。こんなに、耳に言葉が張り付くくらい感謝されたのが、初めてだったから。気持ちは男性に、かなり引き寄せられていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ