#35 激動の先の先では
娘の20年後は、想像したものよりキレイだった。私に似ている気もする。美しすぎて、複雑だ。きっと、貰える愛は強い。でも、憎しみも強くなるだろう。今も、男子たちはチラチラ見ている。街には娘以外にも、興味をそそるものが、たくさんあるというのに。
私と彼の、良いとこ取りだ。彼の柔らかさと、私のくっきりさが、合わさったのが娘だ。アイドル並に美しい。だから、大変だ。モテ香水まで、つけてしまっている。ほんのり香るやつだ。鼻に、申し訳程度に入るやつだ。娘を、20歳まで見てきたが、私も惚れてしまった。
娘は、よくナンパされている。だからとりあえず、ついていっている。また、男性が声をかけてきた。娘は、軽くあしらっていた。相手にしていない。でも、心配が溢れる。唇を噛みすぎて、血みたいな味がする。幽霊なのに。今が一番、人間的だ。味覚が、研ぎ澄まされている感覚だ。自宅に戻ってきた。娘はすぐ、自分の部屋に上がる。
「お母さん?」
「今日ね。お母さんと同じような人生の人と、話してきたの」
「それでね。私もパパと一緒に、活動に参加しようと思ってる」
「蝉人間さんの支援の団体ね」
「お母さんとの記憶は、全然ないんだ。だから、余計に知りたくなっちゃって」
「それでこうなったの」
「お父さんのような人は、救われた」
「おばあちゃんや、たくさんの人たちの運動のおかげで」
「準人間は、廃止された」
「だから、次は蝉人間が生きやすい場所にしたいの」
「いいかな?」
「いいよね!」
私は動いていない。私から正面に、入った訳じゃない。なのに、娘は喋り始める前に、こちらを向いていた。私のことが見えているのだろうか。そんなわけはない。娘のことを、まじまじと見る。本当に、美しかった。幼さ残る、くっきりとした顔立ち。抱きしめられないから。視線で、抱きしめた。
20歳になったから、私が見えるようになった。そんな可能性はある。まだ、捨てていない。どこかで、娘と繋がる望みは。娘と、目線が合った。鳥肌がたった。幽霊になって、初めての触感。そんな感覚だった。ふと、後ろを見た。そこには、私の写真があった。私がドジなだけだった。写真と私の目の位置は、ピタリと重なっていた。
愛してるよ。そう、娘に言った。心から、そう思っているから。でも、届くはずがない。姿が見えなければ、声も聞こえないのだから。不意に娘が、微笑んだ。そして、言葉を放った。私もだよ。そう聞こえた。確かに、娘の口からだった。娘の顔に、驚いた様子はない。しっかりと安定した声で、聞こえてきた。娘が、大声でお父さんを呼ぶ。私は、涙を手で拭い、娘の姿見で、襟を直した。




