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#31 激動に終止符

 人生2週間目の世界は、最初とガラリと変わった。幸せが増えた。目の前には、旦那さんという存在がいる。娘という存在もいる。そして、死という概念もいる。彼に、娘はずっと抱きついていた。微笑ましかった。ずっとずっと、こんな光景の中にいたい。そう思っていた。でも、人生後半特有の、時間経過のはやさが来ていた。


 また、ありがとうと言われた。彼のありがとうが増えた。彼の香りが、やさしく鼻を通る。呼吸が、スムーズに出来ている。でも、また終わりを強く意識してしまった。時間の感じ方は、同量。普通の人間の一生分と、ほぼ同じ。だけど、歳をとらないから、不思議な感じがする。


 彼から、娘を預かった。トイレに向かう彼の後ろ姿に、口が動いていた。ありがとうと、音を出さずに動かした。甘みのようなものが、口内に滲む。私の唇に、小さな手で触れる娘。その柔らかさを、唇で感じていた。一番変化や成長を感じられるのが、娘かもしれない。


「かわいいね」

「あぅ」

「もう喋れるんだもんね」

「うーうー」

「本当にかわいいよ」

「ああー」

「ママのこと好き?」

「うーあー」

「そうかそうか」


 娘を見ているだけで、幸せだった。1日中、娘を見ていたい。娘を、目に焼き付ける時間。それが欲しくなった。まわりを見回してみる。いつ、この世からいなくなるか、分からない。だから、彼も、壁の色も。天井の変な模様もすべて、覚えようとした。悔いをなくすために。


 彼が、トイレから戻ってきた。肌に触れたくなった。3人でくっつきながら、じっとしていた。彼の肌は、ふわふわしていた。言葉で表せないほど、あたたかみに溢れていた。肌の感触でも、彼と娘を覚えていたかった。彼は、最近の日課になっている、散歩に出掛けた。微笑む娘を、前に抱いて。


 私が生きてる間に、娘は大きくならない。娘の朱音の大人になった姿が、どうしても見たい。インフルエンザに毎年掛かるという、彼もかなり心配だ。でも、考えても考えても、叶うものは少ない。私は、日課の昼寝を始めた。ソファに身体を委ねて。数秒後、静かに優しさに潜っていった。


 目覚めると、街にいた。状況は察した。私は、幽霊になったのだと思う。

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