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#30 激動に感謝を

 蝉人間の美女と、バッタリ会った。家の近所の道端で。自分と、重ね合わせていた。美しさが、ガツンとやってきた。美女は、笑っているように見える。だけど、中途半端だった。きっと、無理に笑おうとしている。そんな感じに見えた。私とは、似ているようで、似てない部分も多い。


 彼女の人生は、もう3日目。彼女には、まだ彼氏がいない。そう聞かされたとき、鼻は息をしてなかった。何のニオイもなく、今は凪いでいた。私は、恵まれすぎた環境。恵まれすぎた、人との繋がり。それがあったのに、不満を持っていた。そんな自分に、腹が立った。鼻で息を吸って、吐いた。そのとき、小さな小さな、決意が生まれた。


 家に美女を迎え入れると、自然な顔をした。とても、優しい顔をした。口角は、綺麗に上がっていた。母が失踪している。そう美女の口から漏れた。頼れる人が、誰もいない。そんな彼女に放つように、私の口は開いていた。唾液もなにも、要らないと思った。私がいなくなる前に、美女の安心を確保したくなった。でも、無力だ。二人で居間に、やさしく足を踏み入れた。


「いらっしゃい」

「あっ、私のお母さんです」

「はじめまして。おじゃましてます」

「よろしくね。ゆっくりしていってね」

「はい。ありがとうございます」

「私のこと、ママだと思っていいから」

「あ、はい」

「呼んでみる?」

「いいですか」

「ママ?」

「はーい」


 母と美女は、かなり仲良くなった。私に見せない母もいた。向かい合って、オセロをプレイしていた。簡単にひっくり返ってしまう、駒たち。それが、私たち蝉人間や、彼のような準人間の立場。そんなものに、見えてしまった。でも、ひっくり返されても大丈夫だ。またひっくり返せる。それが、オセロと人生だ。


 ずっと、母親の代わりになってほしい。そんな声が、隣の部屋から聞こえてきた。彼と娘は、出掛けている。だから、集中して耳に入った。ゾワゾワとした。肌が、あたたかくなった気がした。湯呑みに、お茶をゆっくり注ぐ。少し微笑みながら。左手の指に、お湯が掛かった。熱さで身体が一瞬、揺れた。


 二人は、何気ない会話をしていた。私とするような、流行や天気の話。テレビの歌番組の話などなど。親子みたいな会話を、繰り広げていた。サラサラと、耳に入ってきて、心地がよかった。死に向かうにつれて、恐怖を感じている暇はなくなる。今できることを、やるだけだ。

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